オーリック公国 20 デートじゃないよ、調査だよ 3
僕たちの目の前にあったのは硬貨の山だった。
部屋のは窓もなく(地下なので当たり前だけれど)手の中に小さく明かりをつけて確認してみたのだけれど、金貨から小銅貨まで、まさに山のように積まれていた。
僕の知っているエルヴィラのお城の宝物庫にあるのは、硬貨だけではなく、お城の調査団が自ら持ち帰った、装飾の施された剣だったり、宝石のごてごてとつき過ぎている趣味の悪い壺だったり、わけの分からない絵画だったりと、それは色々なものが保管されていたりするけれど、今僕たちの目の前にあるのは、ただひたすらに硬貨の山だった。
「すごいね。これは、ひと財産なんてものじゃないよ」
大分乱雑に置かれていて、保管状況が良いとはとても言えなかったけれど、それを考慮に入れなければ、おそらくは、純粋に硬貨だけの量であるならば、お城のものにも匹敵するだろう。
シャイナも驚いているようで、実際に手に取って穴でもあけようとしているかの如くじっと見つめている。
「ユーグリッド様。これを」
険しく、硬く張りつめた顔で、手の中にある1枚の金貨を見つめている。
「これは、たしかにエルヴィラの金貨だね」
硬貨に彫られている絵柄は国ごとに異なっていて、もちろん、ほとんどの場合においてそれらは1対1で好感されるのだけれど、すぐにどこの国のものか判別できるようになっている。
しかし、何となく、どことははっきりわからなかったけれど、違和感がした。
「ユーグリッド様も感じられましたか?」
シャイナはもう1枚、別の金貨を手にしていた。
縁を持って、僕にも見えるように差し出されたその金貨に彫られていたのは、アルデンシアの模様だった。
僕が収納してあった金貨をとりだすと、シャイナも同じように金貨を取り出していた。
もちろん、それぞれの国のものだ。
「微妙な差だからこうして比べてみないとはっきりしたことは分からないけれど、ほんのわずかにこっちの方が軽いね」
僕は手の中の金貨から、山と積まれた金貨へと目をやった。
もし違ったら問題だけれど、それが正解なのだとしたら、確かめずにはいられない。
僕は別の金貨を拾い上げ、互いにこすり合わせた。
エルヴィラの、というよりも、どこの国でも、正式に発効されている金貨は、非常い発行数が少ない。ごくわずか、ほとんどがお城の宝物庫にある分だけだといっても過言ではないほどだ。
なぜなら、そもそも金の産出量というのが、同じ効果として使われている銅や銀に比べて圧倒的に少なく、それらを金貨にするくらいならば、別のことに使用したいと考えられているためだ。
実際、金貨を含めた硬貨の発行は国の主要機関、はっきり言ってしまえば、エルヴィラの場合にはお城で発行しているのだけれど、流通させ過ぎると経済が混乱するということで、ほとんどが宝物庫でお休みになっている。
そしてそれは他の国でも同じ事だと断言できる。
なぜならば、そうしなければ、他国との硬貨での取引が出来なくなる、あるいは諍いが起こるためだ。
実際、メッキをしただけの硬貨の詐欺というのは、何件も報告されている。
そして予想通り、僕が地面でこすった金貨はメッキ処理されただけのもので、中からは鈍色の金属が見えていた。
これだけの数となると、メッ処理される前の鉱石だけでもかなりの金額になるはずだけれど、金貨の価値は、バレなければ、桁が違うほどのものだ。一般に流通している硬貨は、種類ごとに、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、そして金貨となるわけだけれど、それぞれ10倍の金額差になるといえばどれほどのものか想像もつきやすいことだろう。
そして、流通しているとはいえ、普通に見ることのできる硬貨は、せいぜい小銀貨程度だろうというのは、普段ほとんど買い物をせず、お祭りやプレゼントの時だけとも言える僕にも何となく理解している。
結局何が言いたかったのかと言えば、金貨など、硬貨はメッキではなく、形を整え、意匠を施した、純鉱物だという事だ。
つまり。
「これらは偽金という事ですね」
シャイナがそんなことを言うので、僕が驚いて目を瞬かせながら見つめていると、怪訝な顔を浮かべた。
「どうかいたしましたか?」
「いや。昔のシャイナは硬貨の区別もついていなかったのに、随分と成長したんだなあと」
僕は純粋に褒めた、というよりも感心したつもりだったのだけれど、
「私のことを馬鹿にしていらっしゃるのですか?」
シャイナの御気には召さなかったらしい。
それはともかく。
ここにある硬貨がすべてそうなのかどうかは調べてみなければ分からないけれど、作った以上は使わなければ意味がない。特に、硬貨という性質上。
僕は咳ばらいを1つした。
「おそらく」
「ええ。金貨だけではなく、銀貨も、銅貨も、ここにある物はほとんどが偽金でしょう」
しかし、いくら収納の魔法があるとはいえ、僕とシャイナの2人でこれらすべてを持ち出すわけにはいかない。
おそらくは、そんな時間がない。
「おい。何か音がしないか」
「ああ。俺も気になっていた。しかし、鍵はしっかりかかってるんだよな」
僕とシャイナのいる部屋の扉が音を立て、外から声も聞こえてくる。
「でも、この部屋、留まる用なんてあるか? 偽金を溜めておくだけだし、作った分を放り込んだら出すとき以外に入り込んだりするか?」
「ネズミか何かが入り込んだのかもしれん。削られても面倒だし、一応、確認するか。鍵とって来るから、お前はここにいろよ。万が一という可能性もあるからな」
足音が1人分遠ざかる。
僕はシャイナを抱きしめながら必死に息を殺していたのだけれど、どうやらそれだけではまずいことになったようだ。
不可視化、幻術、迷彩、認識阻害。
どうしたらこの場を乗り切ることが出来るだろう。
入ってきた人たちに眠ってもらう? しかし、大勢来たら?
さっき考えたような魔法を使う? しかし、同じ魔法師には見破られる可能性が高い。
目の前にあるのは硬貨の山。
「シャイナ」
「ユーグリッド様」
どうやら、シャイナも同じ結論に達したらしい。




