オーリック公国 19 デートじゃないよ、調査だよ 2
建物の中は真っ暗で、明かりは今入ってきた出入り口と窓から差し込むわずかな月と星の光ばかりで、僕たち2人のほかには影も形も見当たらない。
扉の上についていた鈴が鳴っていたから、誰かがいるのであれば気付いて様子を見に来てもよさそうなものだけれど。
やはり、いくら夜更けとはいえ、これほど目立つ場所で堂々と動き回るようなことはしていないらしい。
ということは、相手方はある程度こちらの動きを予測していたということになる。あるいは、単に用心深いだけなのかもしれないけれど。
僕とシャイナは手分けしてギルド内を探索した。
他人の所有物件の内部に勝手に入り込み調査するなど、完全に違法行為だったけれど、すでに調査をすると心に決めて出向いてきているのだからと言い聞かせた。
ギシギシと音を立てる床が、隠密の行動には向いていなかったけれど、おそらくは遮音障壁のおかげで外へ漏れていることはないだろうと思いながら歩き回る。
「――ここは」
立ち止まり、靴で床を叩いて確かめる。
他の場所でも試したけれど、わずかに音が違っている。
屈み込んで指を湿らせて立ててみると、わずかだけれど、外からではなく、床から冷たい風が吹き込んできている。
『シャイナ。ちょっと奥の部屋まで来てくれる?』
念話を送ると、すぐにシャイナは顔を見せた。
僕が縦膝をついて床に指を当てていることから、大体の察しをつけたらしい。
『ここの床の下に空間があるみたいなんだけれど……』
慎重に開けたいのだけれど、それが引き金となって問題が引き起こるかもしれないとなると、若干躊躇を覚える。
それに、相手に感知されるかもしれない危険を冒して調べてみたところ、見張りなのか、ちょど真下に2人ほどが配置されている。もちろん、この扉自体にも魔法が掛けられていて、どういった効果を及ぼすものかはわからなかったけれど、開けてしまわない方がよさそうに思える。
『推測ですが、仕掛けられている魔法は、侵入者の存在を知らせるものと、こちらを排除しようと、あるいは妨害しようとするものでしょう』
まあ、他にはちょっと考えられない。
一応、扉を開かなくさせるものということも考えられるけれど、それは壊されてしまえば意味のないものだし、それならば連絡と反撃だけにしておいた方が効率も良いはずだ。
『出入口が1つだけという事もないでしょう。他のところも探してみましょう』
しかし、生憎と商会ギルドの中には他にそれらしき扉や入口のようなところは発見できなかった。
『他のギルドにもあるのかもしれませんが……どうしますか?』
この扉をくぐって下へ潜るというのは危険な気がする。
もちろん、何もないかもしれない。
ただの備蓄庫ということも考えられないこともない。
しかし、そうでなかった場合、十分な下調べをせずに、簡単には外へ出ることのできない場所へ行くというのは危険すぎる。
『行こう』
しばらく考えた末、シャイナには短くそれだけの言葉を伝えた。
何が待ち受けているにしろ、まずは動かなければ何も始まらない。
シャイナはただ黙ったまま頷いてくれたので、僕は静かに扉、もとい、床の引っ掛かりに指をかけた。
扉にも何か仕掛けがあるのではないかと少し心配だった――一応、結界及び障壁で防御する準備はできていた――けれど、特に問題なく開くことが出来た。
すぐ下はそのまま地下へと続く階段になっていたので、僕たちはそのままそこを降りていった。
地下の空洞に、僕たちの足音が響いていたけれど、結界を張ると外部からの音も閉ざされてしまうため、展開することは出来なかった。
なぜならば、地上部分とは違い、地下では探索の魔法に引っかかる人の気配があったからだ。
まさか、ギルドの地下の空間がこんなことになっていようとは。
扉は閉めてきたにもかかわらず、明かりが灯っているということは誰か人がいるという事に他ならない。
下水道を調べていたのはシェリスだったはずだけれど、この件の報告はなかったことから、おそらくはそういった拠点からは少し外れたところに繋がっているのだろう。そもそも、1日で調べられるのには限界があるし、シェリスと言えど、調べる始めた場所によってはここまでたどり着かずとも別段不思議ではない。
音を極力立てないように歩いていると、奥の方から話し声とともに足音が響いてきた。
先制で攻撃を仕掛けたなどと言われることは避けたかったし、何が待っているか不明な現在の状況で無駄に魔力を失うことは避けたい。
魔法が使えずとも、一応戦うことは出来たけれど、それは僕だけの話で、仮に大の大人と遭遇した場合にシャイナがまともに戦えるとは思えなかった。
『失礼ですね。私だって武術の修練くらい始めていますよ』
始めている、ということは、まだ日が浅いという事だ。
習いたてが1番危ないということはシャイナも十分に理解しているはずだけれど。
シェリスだって、最近、武術の稽古を始めているけれど、僕が言うのもおこがましいかもしれないけれど、まだまだ当分実践では使えそうにもない。
『とにかく、今は騒ぎになるようなことは避けよう』
近くにあった扉を開き、中に身を隠して、足音が通り過ぎるのを待つ。
外の会話の詳しい内容までは聞こえなかったけれど、近付いてきていた足音と、気配が過ぎ去ってから、僕たちはようやく息を吐きだして、部屋の中を見回した。
「ここは……」




