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オーリック公国 15 潜入 4

 僕たちの仕事は、冒険者ギルドから買い入れた魔物やモンスターの素材や、鉱物等の仕分け、整理作業だった。

 木箱や袋にたくさん詰め込まれた、防腐の魔法が掛けられた魔物なんかを、加工されている物はそのまま、加工されていないものに関しては、部位ごとに丁寧に分けてから、それぞれ別の箱や袋なんかに詰め直す。

 加工といっても、例えばそのまま焼けばすぐに食べられるような状態にまでするとかではないので、慣れている皆さんに教えていただきながらだと、すぐにコツを掴むことが出来た。

 中に、偶にではあるけれど、ちゃんと加工と防腐処理がしてあるものを見つけると、感心したりもした。何でも、そうした方がこちらで解体加工するための手間賃分買い取り額が多少高くなるという事なのだけれど、特に女性の冒険者で、駆け出しのうちは、そういった事があまり得意ではないことが多いらしく、その場合にはここで解体しているのだという事だった。


「部位ごとに使うギルドは違うからな。例えば可食部なら食事処、毛皮なんかは仕立て屋、骨なんかになっても、店の内装にするとか、お守りになるだとかって、結構需要はあるんだぜ」


 ここでずっと働いている皆さんは、慣れた手つきでナイフや鉈なんかを使って上手に切り分けていたけれど、僕は、そしてヴィレンス公子もそういった事には慣れていない様子で、しばらくは荷物運びに従事していた。

 生の肉もあることだし、鮮度が重要なのだろう。僕たちが同じような手つきで出来るわけもないので、遠慮しようとしたのだけれど、何事も、誰だって最初は素人だからと、気前よく、丁寧に教えてくれた。


「もうコツを掴んだみたいだな。中々筋がいいな、兄ちゃん」


「優男の割には体力もあるし、旅芸人なんてやってると、手先も器用になるのかね」


「モテる男は違うって事かい」


 それはあまり関係がないと思うけれど。

 それに、あまりモテているという自覚はない。

 確かに、エルマーナ皇女に求婚されたり、パーティーに出席させていただいた際に女性の方からお声をかけていただくことはあるのだけれど、肝心の女の子にはあんまり振り向いてもらえないし。

 そういえばシャイナは今、受付なんかをしているんだよね。

 シャイナが他のお客さんに微笑みかけるところを想像しようとして、途中で首を振って考えを振り払う。

 以前、似たようなことを考えていた際に、シェリスにそれではやきもちを妬き過ぎだと言われたこともあったし、シャイナには、私の目に映るすべてのものに嫉妬するおつもりですか、なんて言われたりもした。

 これは仕事でやっているのだから、そんなところで考えるべきことではない。 

 それに、シャイナが他の男性客にそれほど簡単に靡くとは思えないし、それは本人も言っていたことだ。信頼してはいただけなかったのですね、などと言われてしまったら、この先生きてゆくのが大変になるかもしれない。


「どうした、ため息なんかついたりして」


「いえ、何でもありません。ところで、こちらのものは全てギルド長が直接お買い上げに?」


 数にすれば多くあるうちの1箱分くらいだったけれど、個人で利用するには随分と多い気もする。 

 それも、1種類などではなく、すべての種類だ。


「ああ。まあ、あれだけでかい屋敷に住んでるんだし、何かと入用なんじゃないのかねえ。俺達には及びもつかないが」


「あれだけというと、何か御存知なのですか?」


 聞いてから思ったけれど、たしかに知っていて当然だったことだろう。

 僕たちは今ギルドの裏手に出てきているわけだけれど、肩越しに「あれさ」と親指で指さされたお屋敷は、たしかにかなり大きい、このギルドよりも大きな建物だった。

 流石に公家のお屋敷よりは小さいようだったけれど、今までオーリック公国で見た中では一番大きい。


「それに、これはちょっと公には口にできないことなんだが……」


 声を潜めるようにしてそう言われて、手招きされたので、僕とヴィレンス公子は、彼らの口元に耳を寄せた。


「何でも夜になると違法なんじゃないかってレートで賭場を経営していて、その収入なんじゃないかって噂もあるんだ」


「それに、そこで毟り取った客を他国の奴隷商に売り払っているらしいとも聞くな」


 娯楽に関しては個人の勝手だから、僕らが咎めることは出来ない。何をしようとも個人の責任だとは思う。

 しかし、借金の片なのだとしても、奴隷として売り払ってしまうというのはいかがなものだろう。

 もちろん、本人もすべてを了承してのことならば文句は言えないのだけれど。

 

「ま、噂は噂さ。あんまり気にしてもしょうがねえぜ」


「言われたことをまじめにしてりゃ、俺達には関係のない話だろうからな」


「そうですね……」


 もしかしたら、その彼らと共謀して軍備を蓄えているのでは、とは尋ねることは出来ない。

 疑惑は消えないけれど、僕たちは元々ここへは報告を受けて、いわば先入観(情報とも言えるのかもしれないけれど)を持って訪れている。

 有益な情報ではあったけれど、糾弾にはまだ早く、もう少し詳しく調べる必要があり、そのためには。


「やはり直接潜り込むしかない……か」


「そのようですね」


 ヴィレンス公子のつぶやきに、僕も同意を示して頷き合った。

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