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オーリック公国 14 潜入 3

 そのまま仕事場に連れてゆかれた僕たちは、普段からここで働いていらっしゃる人達に、今日からここで一緒に働く方たちですと紹介された。

 調査に何日かかるのか分からないし、そもそもまだ怪しいかもしれないというだけで、かなりあやふやな状態であるため、出来れば、今後所属することになるような言い方をして欲しくはなかったのだけれど、どうせ調査のために数日は入り込む必要があるだろうとも思えたので、働き手として認識されていた方が、いざというときに「まだ慣れていないので見学をしようかと」という言い訳が使えなくもないだろうと、とりあえずはその立場を受け入れることにした。

 シェリスたち女性陣とクリストフ様は書類の整理や、受付の仕事見学などまでさせて貰っているようだったけれど、僕とヴィレンス公子は、裏手で、出入荷物の整理や宅配の任務などの肉体労働的な仕事を仰せつかった。

 年齢や性別から考えても、僕たちよりもシャイナ達が受付で笑顔を振りまいていた方が評判も上がることだろうし、客受けもいいだろう。

 シャイナやシェリス、ジーナ公女の見目麗しさは接客業に向いていると思うし、そんな心配はほとんどしていないけれど、人目のあるところの方が、仮に誰かがシャイナ達の正体に気がついた場合でも、目立った動きをされることもないだろう。

 

「裏口の奥にあるお屋敷はポシス様の個人宅ですから近付かないように」


 僕たちの仕事場に案内してくれる際、そのような注意をされた。

 

「ギルド長はこれほど近くにお住まいなのですね」


 屋敷の近くにギルドを建てたのか、それともギルドの近くに屋敷を構えたのか、どちらが元となっているのかはわからなかったけれど、よほどこの場所が気に入っているのだろうか。

 ギルドの裏手ということは、他のギルドや通りの方からは外れていて、買い物などに出る際に不便だと思うのだけれど。まあ、自分で行かずに、もしいらっしゃるのであれば、使用人の方に出向かせているというのであれば、思うところがないわけではなかったけれど、まあ、困ったりはしないのだろう。

 

「ギルド長というのは、貴族――身分がある方が就かれることが多いのですか?」


 少し考え込むようにしていたヴィレンス公子が尋ねる。


「いえ、先程あなたが『ポシス様』とおっしゃっていたので、少し気になりまして」


 それに『お屋敷』とも言っていた。

 普通、というのがどうなのかはよくわからなかったけれど、ある程度の大きさがなければ『屋敷』という言葉は使わないだろう。

 かなり際どいかとも思われた質問だったけれど、案内してくださっている、少しばかり陰鬱そうで、神経質そうな黒髪に眼鏡をかけた男性――ペルジーヌさんは硬い表情のまま、


「そういえば、あなた方はこの国へはいらしたばかりなのでしたね」


 と、眼鏡の位置を少し正された。


「貴族――正確にはこの国では議員と申しておりますが、たしかにポシス様は評議会の議員も務めていらっしゃいます」


 眼鏡の奥から、切れ長の鋭い視線が、僕とヴィレンス公子を射抜くように見つめているような気がする。

 あまり、この人を相手に探りを入れすぎるのは危険かもしれない。

 それから、いくつか仕事に対する質問をしたところで、作業場と思われる場所まで到着して、先程と同じように紹介していただいた後、私はこれで、とペルジーヌさんが去って行かれた。


「よろしくお願いします」


「よろしく頼む」


 僕とヴィレンス公子は改めて頭を下げて、名前を告げた。


「そういや、さっき、別の国から来たっていう旅の一座の美少女が3人も新しくここの受付業務に加わったとかって噂が流れてきていたけど、あんたたちの連れかい?」


 旅の一座って、なんだそれは。

 僕たちは別に余計なことは何も言っていないはずだけれど。


「いやね。それほどの美少女が、普段からこの国、いや、この街にでも暮らしていたのだとすると、とっくに噂になって、評判になっているはずだろう? それなのに誰も見たことのないほどの美少女ってんだからな」


「それが、1人はジーナ公女にそっくりだという噂だぞ」


「でも、あれであの子、いや、あいつか? 男らしいぜ」


 本当か! とか、おお神よ、とか、あれほどの美男子なら俺は男でもいい、とか、そんな叫びが聞こえてくる。

 確かにジーナ公女は変装していたけれど、服装を変えて、髪の毛を短くした程度で分からなくなるものだろうか?

 まあ、普段からジーナ公女と接する機会などあまりないのだろうし、当然と言えば当然なのかもしれない。

 連れ、というのは少し違うかもしれないけれど、似たようなものなので、僕とヴィレンス公子は頷いた。

 

「じゃあ、美少女2人と男子が2人という事になるのか。これは随分気になるね」


「おい、馬鹿かお前は。こいつらだって、一緒にいるんだから、いや、よく見るとあんたたちもかなりのもんだな。一緒にいて大丈夫なのか?」


 まさか、求婚していて断られ続けているなどと言えるはずもないし、1人は妹で、クリストフ様はシャイナの弟だ。

 結果、僕とヴィレンス公子は、微妙な笑みを浮かべるしかなかった。


「それよりも、仕事を教えてくださいますか?」


「っと、そうだった。じゃあ、またあとで、出来れば彼女たちの事を紹介してくれ」


「俺にも」


「俺も」


 彼らの頼みをやんわりと、丁重にお断りして、少しの笑いが起こった後、僕たちは仕事にとりかかった。




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