表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/231

オーリック公国 13 潜入 2

 ◇ ◇ ◇



「おやおやリューリさん。昨日聞いた話だと今日はご用事があっていらっしゃらないという事でしたが、来てくださったのですね。それとこちらは、お友達の皆さんですね」


 リューリというのはおそらくシェリスが語った偽名だろう。

 シェリスの案内で商会ギルドへ向かった僕たちを出迎えてくれたのは、身なりの整った、茶色の顎髭を蓄えた、恰幅の良い初老の男性だった。

 

「おはようございます、ポシスギルド長。私などをお出迎えなさっていてよろしいのですか?」


 他所向きの顔を作ることには定評のある――僕個人の感想だけれど――シェリスが少女らしい、わずかに照れの見える表情で尋ねると、ポシスギルド長は嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「勿論ですとも。貴女のような素敵な女性――そちらのお連れの方も大層お美しい方ですね」


 ポシスギルド長が後ろに並んでいるシャイナへと視線を向けると、一応、仕事をしやすいようにと思ったのか、いつもさらりと流している月の光のような銀の髪を頭の後ろでまとめていて、普段着ているようなドレスとは違う、ふわっとしたワンピースの端を摘まんだシャイナは、育ちの良さを隠すことのできていないというよりは、それなりの家柄であることを隠そうともしていない、完璧な所作でお辞儀をした。


「こちらの方は?」


「私の友人で――リーチェと言います」


 シャイナが「ご紹介にあずかりました、リーチェと申します」と微笑むと、流石に動揺したらしいポシスギルド長は、ひと呼吸以上の間を置いた後、


「失礼いたしました。思わず見とれてしまっていたものですから」


 と、誤魔化すような笑いを浮かべた。

 その後、僕たちも順番に自己紹介をして、ジーナ公女の順番の時だけ、少し緊張していたのだけれど、変装も問題なかったようで、仕事場へと通して貰った。

 ジーナ公女の変装は、もはや男装と呼んでも良いかもしれないレベルのものだった。

 いくらジーナ公女、或いは公家の方たちが否定しようとも、ジーナ公女、そしてヴィンヴィル大公とミーリス様がこのオーリック公国の顔であることには違いがない。

 この変装をするにあたり、ジーナ公女は自身の腰の辺りまで伸ばしていた綺麗な空色の髪をばっさりと切ってしまった。

 もちろん、昨夜、シェリスがこの作戦を提案して、ジーナ公女の意見を聞いてから、僕たちは、それは熱心に説得しようとした。

 髪は女性の命だと誰かが言ったそうだけれど、これほど綺麗に伸ばしている髪を特に憂いているような表情も見せず、明日の朝食でも尋ねるような調子で言われたものだから、思わず尋ね返してしまったほどだ。

 ジーナ公女本人は、どうせこの作戦が済むまでの間だけです、終わればすぐにまた伸ばせますから、と言って、平然とした調子だったのだけれど、僕たちは衝撃でしばらくフォークとナイフを動かす手を止めていた。

 実際、自身の髪を伸ばすための魔法、そしてその効力を持った魔法薬というものは売っていたりもするけれど、誰も自身の、例えば身長を伸ばしたりしないのは、元に戻る際に完全に元の身体に戻ることが出来ない可能性があるためだ。

 さらに、なんとなく、自身の身体をそういった方法で変化させてしまうのは、天にいらっしゃる女神様、セラシオーヌ様に背く行為なのではないかという葛藤もある。

 そして何より、多くの人は自身の成長を、焦らずともいずれ来る日常として受け入れているために、必要性を感じていないのかもしれない。

 もっとも、シェリスとシャイナは自身の胸のあたりを気にしながら、小さくため息をついていたけれど。


「……魔法の変身だといずれ効果が切れてしまうけれど、薬なら大丈夫なんじゃないかしら」


「……シェリス姫。私も色々と試してみたのですけれど、中々効果の良いものは作れず、永続的な効果は見込めませんでした」


 シェリスとシャイナが何かつぶやきを漏らしていたようだったけれど、僕は聞こえなかったことにした。実際、半分くらいは何を言っているのかよく聞き取れなかったし。


「あなた方のようにお美しい方ならば、もっと良い働き口などいくらでもあったでしょうに。例えば冒険者ギルドの受付などは、給料の払いも良いと聞きます」


 探りを入れてきているような感じではない。しかし、おそらくは敵の陣地の中で、迂闊な言動をとることは出来ない。


「給料だけで仕事を選んでいるわけではありませんから」


 シェリスの返答は特に当たり障りのない普遍的な回答だったので、それ以上は追及されたりせず、ポシスギルド長は、ときたま僕たちの方へも話を振りつつ、美少女3人との会話に花を咲かせながら、ギルド内を案内してくれた。

 しかし、いくら変装しているからとはいえ、仮にも自分たちの代表と仰いでいる人の事が分からないなどということがあるのだろうか?

 思い過ごしや考え過ぎならばそれでいいし、本当に覚えていないのであれば、それはそれで問題だろうけれど、何となく引っ掛かりを覚える。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ