先生!飯テロが思いつきません!!!
「あーダメだ。全然ひらめかない」
パソコンを前に頭を搔きむしった。
俺の唯一の趣味は、某小説投稿サイトに自作の小説を投稿することだ。だが、最近スランプに陥っている。というか全く書けない日が続いている。
異世界転生、悪役令嬢、 VRMMO……。流行りと思われるものはなんでも書いた。だが、ランキングは全く伸びなかった。どんどん増えていくエターナル群。
そんな中、淀んだメンタルに止めを刺すような口撃が加えられた。
毒者様からの「よくある設定」「リアリティゼロ」「パクリ野郎」等々の感想攻撃は俺のHPを大きく削り、ブチ切れた俺はついに反撃に出る。
救いのない罵声合戦の末、俺は3年間書き続けて来たアカウントを捨てることになった。
気晴らしに、他の人の小説でも読むか。全てを捨てた俺は、新規に登録し直し上位ランキングの小説を片っ端から読み漁っている。もう二度と過去の失敗は繰り返すまい。固い決意を胸に俺は情報収集に励む。そんな中、エッセイランキング2桁台の小説が目についた。
『魔女のキッチン 〜ファンタジー食材完全再現します〜 』
あらすじを見ると、回復薬やら冒険用携帯食の再現をしている料理研究家の実験エッセイだった。
読んで見るとなかなか、簡潔かつ知的な文章で、調理工程が書かれている。食材を切る感触や、煮込んでいく様子などが丁寧に描かれ、読んでいくうちに自分が料理をしているような気持ちになれる文章である。
これだ、俺は天啓に打たれた。
散々流行りのテーマの小説を書いて来た俺がしてこなかったジャンル。飯テロ。○しんぼを筆頭に、古今東西食に関する物語は腐るほど描かれて来た。
俺がこのテーマに手をつけなかった理由はただ一つ。自炊ができないからである。そんな俺が飯テロを書いたら、本当に物語が腐ってしまう。飯だけに。
自分で言って恥ずかしい。
活動報告を見ると、北国の地方都市にてテーブルコーディネートを含めた、料理レッスンをしているとのことだった。都合の良いことに四月に転勤した俺のマンションと同じ区である。
これは、神様が行けと言っているに違いない。
煮詰まった俺に、外に出て五感を刺激せよとのお告げである。
五感をフルに働かせた俺の小説に、世界は震撼し、書籍化、コミック化、アニメ化と。
もう、妄想は止まらない。今、なろうにはバブルが来ている。月50から100冊の新刊が発行されているのだ。夢は叶う、夢は正夢である。
俺は早速、この先生に連絡を取ることにした。善は急げである。
メッセージ、メッセージっと。
「先生! 飯テロが思いつきません!!」