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神殺しの子供たち~異世界編  作者: 枕崎 削節
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新編 5話   マナディスタの森

ランニングと組み手で汗を流し、橘は朝食の準備を行う。


 朝食の前に橘がクリ-ンの魔法をかけて、組み手で泥だらけになっている衣服や体の汚れを落として、キレイさっぱりしてから朝食をとる。実は橘は、このクリーンの魔法が大のお気に入りで、こんな便利な魔法があったのかと事あるごとに掛けまくっている。


 朝食のメニューは、ご飯とその辺で摘んで来た菜の花のような葉っぱの味噌汁、昨日のイノシシの炙り焼きの残りだ。米も味噌も橘が万能の実から作り出したもので非常に重宝している。


 元哉が飯盒を持っていたおかげで、異世界でも和食が食べられるのは、彼らにとって大助かりだった。食器類は橘が風魔法でカットした木を、土魔法でまるでグラインダーのように器用に削って作成した。


 実は、さくらも何度か自分で万能の実に魔力を流して、自分の好きなものを食べようとしたのだが、いつも黒焦げや生煮えのものしか出てこないため、あきらめて橘に任せることにしている。おそらく魔力の流し方云々以前に料理センスの問題であろう。


 




 野営の跡を片付けてから、出発する三人。


 コンパスを頼りに深い森の中を慎重に歩く。神様の話に因ると、この森は『マナディスタの大森林』と呼ばれているとの事。なるほど大森林と言うだけあって、鬱蒼とした森がどこまでも続いている。


 歩き続けるうちに、昨日同様に何度か魔物が襲い掛かってきたが、左程苦労せずにすべて返り討ちにした。魔物が単体もしくは少数のときは、元哉とさくらが体術で対応したが、どれも一発こちらの攻撃が入っただけで簡単に倒せた。


「さくら、橘、体の動きや魔法の威力はどうだ?」


 元哉は気になっていたことを二人に聞いてみた。


「魔法の出力だけで言えば、あまり日本にいた時と変わらない気がするわ。」


「兄ちゃん、わたしもあんまり変わらないよ。全部ワンパンだったし。」


 二人の意見を聞いて、やはり合点のいかない元哉。


「俺も日本にいた時と手ごたえが変わらないなと思って気になっていたんだが・・・。 俺たちの能力って1000分の1になっているんだよな。 それでも日本にいた時と同じような感覚で魔物を倒せるのは、なんかおかしいような気がするんだが・・・。」


「確かにそうね、魔法の威力は同じレベルだし・・・。」


「兄ちゃんもはなちゃんも分かってないなー。冒険の始めのほうは、弱いモンスターが出てきて簡単に倒せるんだよ。そうやってレベルを上げていって、段々と強いモンスターを倒していくんだよ。」


 さくらが日本でやっていたゲームの知識を披露するが、当てにならない事この上ない。


「確かに神様はレベルが上がれば少しずつ強くなると言っていたな。なるほど、そんなものかもしれないな。」


 このとき、彼らが大きな勘違いをしていることに気づく術はなっかた。神様すらウッカリしていたのだから、仕方ないといえば仕方ない。


 確かに神様は、彼らの能力を1000分の1に下げた。ただしこれは、日本からアンモーストに来たときにお馴染みの異世界補正というやつで、100倍になっていた能力を下げたに過ぎない。


 そして神様が最もウッカリしていた点は、ステータスを表示する前に称号を非表示にした点である。このことによって、称号の持つ効果がステータスに反映されなくなっていた。


 では、称号の持つ効果とはなにかと言うと、例えばゴブリンが進化してゴブリンキングになると能力が何倍にも上昇する。オークやオーガも同様だ。『キング』や『王』の称号はステータスの各パラメーターを何倍にも引き上げる効果を持つ。


 ましてや、この三人の称号は『獣王』『魔王』『破王』だ。これらの称号の効果は、全能力10倍、ステータス異常完全無効化となっている。

 

 要するに、100倍に10倍を掛けて1000分の1にしたので、元に戻っただけのことだった。


 そんなこととはつゆ知らず、いや感覚的には日本にいるときと変わらないと分かっていても、神様が1000分の1と言ったら、そうかと信じてしまうほうが当たり前の話だ。


 長々と話をしてしまったが、これが現在の本当の彼らのステータスだ。



-神建 元哉-    レベル1


【体力】   4830

【魔力】   無限

【攻撃力】  14780

【防御力】  24874

【魔法制御】 0

【敏捷性】  1390

【知力】   120


 称号     破王  

 スキル    身体強化  魔力吸収  魔力放出  魔力暴走  状態異常完全無効化



-元橋 橘-    レベル1


【体力】   1470

【攻撃力】  30

【魔力】   8360

【防御力】  50

【魔法制御】 22548

【敏捷性】  30

【知力】   2460


 称号     天の御使い  魔王  

 スキル    全属性魔法  天界の秘術  状態異常完全無効化




-元橋 さくら-   レベル1


【体力】   3320

【魔力】   4420

【攻撃力】  1660

【防御力】  2640

【魔法制御】 150

【敏捷性】  17770

【知力】   3


 称号     獣王  ???????

 スキル    身体強化  魔弾の射手  バハムート召喚  状態異常完全無効化




 

 かなり馬鹿げた数字が並んでいるが、本人たちは全くこのことを知らないし、ステータスに表示されることもない。彼らがアンモーストにいる限り、勘違いをしたまま過ごす事になる。




 話を元に戻そう。


 三人で森の中を歩いていく。相変わらず澱んだ魔素が体に絡みつくようだ。視界の悪い森で、小さな藪の中に潜んでいる小動物でさえ、時には命に拘るような攻撃を仕掛けてくるとも限らない。


 さくらレーダーを頼りにするにしても、ほかの者も気を張って周囲を見張っていなければならない。そんな緊張が続く行軍は、さくらのハンドサインで停止した。


 三人で額を寄せ合って作戦会議が始まる。


「敵は3体、距離400メートルで停止中、かなり大型の個体だよ、兄ちゃん。」


 さくらの報告を聞いて、距離150まで近づいて元哉が偵察に出ることにした。慎重に足音を立てずに歩く三人。予定地点まで、敵に気づかれる事なく接近する。


 さくらと橘はその場に待機して、元哉が先行する。周囲の気配を窺いながら、一歩一歩敵が見える所まで接近していく。元哉にとって気配を消しての接近や潜入はお手の物だ。祖父から嫌というほど厳しく叩き込まれている。


 木の陰から双眼鏡で様子を見ると、3匹のオーガが何かを夢中で食べている所だった。口の周りを血まみれにして何かを貪る様子は、レンズ越しに見ていても嫌悪感を抱く。


 元哉は音を立てずにその場を離れ、待機していた二人をオーガ達から死角になる地点に呼び寄せた。


「敵は鬼が3体だ。二人は左右一体ずつを仕留めてくれ。残った一体は俺が接近戦で片付ける。敵の戦闘データをとるから心配するな。魔力通信をオンにしておけ。さくらは撤甲弾でいけ。」


「了解」


 小声で返事をしてから、最も狙いやすい位置に散っていく三人。


 実は、日本で魔力によって能力に目覚める人間が出現したのと同様に、伝説上の存在だった鬼や妖怪が現れて被害が出るようになっていた。

 

 元哉達は何度も出動してこれらを退治していたが、その中で鬼族はなかなか手強い敵だったのである。特に、大江山の酒天童子などは、元哉とガチの殴り合いで一歩も引かず、最後に元哉が暴走した魔力を12発叩き込んでようやく倒したと言う事もあって、十分警戒が必要な相手だった。

 

「準備よし」


「いつでも発動可能」


 ヘルメットから二人の音声が聞こえてくる。


「カウンとダウン5で攻撃開始。 5 4 3 2 1 ゴー」


 右のオーガはさくらの撤甲弾で上半身が爆砕し、左は橘の電撃弾で全身黒焦げになった。


 何が起きたか分からない様子で左右を見渡す中央のオーガの前に元哉が姿を現す。怒りの形相で咆哮を上げながら、手に持った一抱えもある棍棒を振り上げてオーガは元哉に迫る。


「随分貧相な武器だな、日本の鬼のほうがもっといかつい武器を持っていたぜ」


 2メートルを超える巨体が迫ってきても、元哉は余裕の表情を崩さない。彼はすでにオーガの実力を見切っていたのだ。元哉を発見してから武器を取るまでの反応速度、棍棒を振り上げた速さ、一歩の踏み込みの強さ、どれも日本の鬼族に遥かに及ばない。


 振り下ろされた棍棒を体を開いて右に避けるとそのままオーガの後ろに回り込み、右足で軽くケツを蹴飛ばす。棍棒を振り下ろしてやや前に重心がかかっていたオーガの体が5メートルほど飛んで、顔から地面に着地した。


 顔面スライディングを見事にやってのけたオーガは、さらに怒りが増したようで血だらけの顔を歪めて咆哮する。先ほどよりも速度を上げて棍棒を振り下ろすが、元哉は右に左にと軽々と避けて掠らせもしない。


 近接格闘素人の橘が不安げにさくらに聞く。


「元くんやられっ放しだけど、大丈夫なの?」


「兄ちゃん完全に遊んじゃているから、そろそろ終わらせてもらおうか。 兄ちゃーん、もういいよー!」


 そう、元哉はただオーガの攻撃を避けていたのではなく、さくらに敵の動きを観察させていたのである。


 さくらからもういいとの声が掛かった以上、もうこの戦闘は終わらせるだけだ。彼はオーガが振るった棍棒を左手でガシッと受け止める。オーガが力を入れてもビクともしない。

 

 自分の武器を封じられて焦ったオーガは、左手で元哉を殴ろうとしたが、その手首を簡単に捉まれて動きが止まった。元哉がオーガの左側に体を開きながら、左手で掴んでいた棍棒から手を放す。


 力を入れていた右手が急に支えを失い下に下がる。やや前のめりになったオーガの体は、元哉が右手を軽く捻っただけで前方へ一回転して地面に叩きつけられた。


 そのまま右足で頚骨を踏みつけると、ゴキリという音が鳴ってオーガは痙攣した後に動かなくなった。


「にいちゃん、やったね♪」


 決着がついて、かけ寄ってきたさくらと橘。


「鬼族だと思って、ずい分警戒したんだが、大した事はなかったな」


「兄ちゃん、きっとこれゴブリンだよ。ゲームに出てきた一番弱いヤツ」


 またもやさくらが適当な知識で出任せを言う。


「そうなのか、確かに強くはなかったが・・・」


「わたしもゴブリンって聞いた事があるけど、こんなのだったっけ?」


 橘も変だなと思いつつさくらの意見に押し切られて、こうして彼らの中ではこの鬼のような魔物はゴブリン(仮)と命名された。

 


 




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