新編 2話 ステータスと頼みごと
「さて、『ステータスオープン』と唱えてみるがよい」
「「ステータスオープン」」
三人の前にウィンドウが開くが、名前、年齢、称号以外は全て『表示不可』の文字で埋め尽くされていた。
「??????????????」
「さて、どうするかのう。ひとつ我が本気を出して性能アップしてみるか。ああ、その前にそなたらの称号は隠しておくぞ。このようなものは大変な混乱を引き起こすからのう。それでは、ほれ!」
元哉たちのステータスウインドウが、一回閉じて再び開いた。
-神建 元哉-
【体力】 483200
【魔力】 9999999
【攻撃力】 1478000
【防御力】 2487400
【魔法制御】 0
【敏捷性】 134500
【知力】 12300
称号
スキル 魔力暴走 魔力吸収 魔力放出 身体強化
-元橋 橘-
【体力】 87800
【攻撃力】 2000
【魔力】 836400
【防御力】 3500
【魔法制御】 2254000
【敏捷性】 3500
【知力】 246000
称号
スキル 天界の秘術 原子操作 現代魔法
-元橋 さくら-
【体力】 332900
【魔力】 442800
【攻撃力】 166400
【防御力】 164700
【魔法制御】 15400
【敏捷性】 1777000
【知力】 表示不可(笑)
称号 ????????
スキル 身体強化 魔弾の射手
「これはまた・・・・・・ よくもこのような数字が並んだもの」
さすがの神様も三人のステータスを見て、唖然とする様子が伝わってくる。
実は、ここ『アンモースト』は神々の次元においての格付けが、地球と比較すると遥かに下になる。よって、他の星から来た者たちは、この星に来た時点でその能力が異常に高い数値になってしまうのだ。過去に流刑等でこの星に送られた者達は例外なくその能力を強制的に下げられる措置がとられていた。
ちなみに元哉達の能力は、地球にいた頃の百倍になっている。でなければ、腕立て伏せが10回しかできない橘の攻撃力が、2000などということは有り得ない。
神様しばらく考え込む様子であったが、ようやく決断した。
「うむ、1000分の1にする」
神様の言葉に、いったい何のことか分からない様子の三人。
「今言った通り、そなたらの数値を1000分の1に下げる。このままでそなたらが、この世界で暴れるとこの星が持たんのじゃよ」
さすがに不安を覚えた元哉は、1000分の1は厳しすぎるのではないかと抗議をしたが、神様は取り合わない。
「そなたらは、握手をしようとして相手の腕をもぎ取ってしまう様な怪物になりたいのか? 少しの力からスタートして、この世界での能力に少しずつ慣れていけばよい。レベルが上がれば能力も上昇するし、それほど不安を感じなくても大丈夫!」
彼らが頷くのをみて、ようやく安心をした神様は、
「そなたらが他の星から来たと分かるようなスキルと称号は全て隠しておくぞ。では、これが新しいステータスじゃ。ほれっ!」
-神建 元哉- レベル1
【体力】 483
【魔力】 9999
【攻撃力】 1478
【防御力】 2487
【魔法制御】 0
【敏捷性】 134
【知力】 12
称号
スキル 身体強化
-元橋 橘- レベル1
【体力】 87
【攻撃力】 2
【魔力】 836
【防御力】 3
【魔法制御】 2254
【敏捷性】 3
【知力】 246
称号
スキル
-元橋 さくら- レベル1
【体力】 332
【魔力】 442
【攻撃力】 166
【防御力】 164
【魔法制御】 154
【敏捷性】 1777
【知力】 3(笑)
称号
スキル 身体強化
「さて、ステータスについて何か質問はあるかのう?」
神様の問いかけに元哉が声を上げた。
「この世界の普通の人のステータスは、どのくらいですか?」
神様の説明によると、町や村に住んでいる成人男性が、レベル10で体力が100、平均的な魔術師の魔力が80~100、Aランクの冒険者がレベル50で体力が700といったところだそうだ。
それを聞いて元哉は少しだけ安心した。一般の成人男性の体力や魔術師の魔力は大幅に上回っていることが分かったからだ。
「そうじゃ、大事なことを忘れておった。能力を削った分、補填をしようと思っておったのじゃ。御使いの嬢ちゃんにはこの世界の全ての属性魔法をやろうと思うがどうかな?」
「属性魔法とは、どのようなものでしょうか?」
「この世界の魔法は、【火 水 土 雷 風 闇 光 無属性】の八つに分かれておる。これらを全て使いこなすのは至難の業であるが、そなたであれば不可能ではあるまい。どうかな?」
「なかなか興味を惹かれます。ありがたく戴いておきます」
神様は次に元哉に声をかける。
「破王よ、そなたにはアイテムボックスをやろう。なんでも無限に収納できて、収納中は時間経過もしないというすぐれものじゃ」
「わかりました、受け取っておきます」
元哉はそれがどのくらい便利なものか、いまひとつピンと来ていないのか、普通にお礼を言うに止まった。
そして何かもらえると聞いて、目をキラキラさせて待っている者が一人いた。
「ウサギの嬢ちゃんへのプレゼントは、まだ準備が整わないから後日にしよう」
あからさまにがっかりするさくら。期待が大きかった分、その反動も大きい。
「そんなにしょげることも無かろうに、腹でも減っているのか? なに、食べ物であれば我の使いが案内するから、好きなだけ食べるがよい」
その辺の森に実っている『万能の実』は食べたいものを思い浮かべて、少量の魔力を流すと中から食べ物が出てくるそうで、これからの旅に備えて好きなだけ採ってよいと許可が出た。
太っ腹の神様の言葉に、再び目を輝かせるさくら。現金なものだ。
いつの間に現れたのか、五羽の白兎がさくらの周りに集まっている。何でもこの世界では、ウサギは随分昔に絶滅しているらしく、不憫に思った神様がここで保護しているそうだ。
さくらの周りから離れないのは、おそらく『獣王』の称号の影響だと思われる。
その後は食事をして、橘が土魔法で作った風呂に入って、神様が用意してくれた小屋でぐすっりと寝ることができた。
こうして何日かが過ぎ、この世界に適合するための準備と訓練は順調に進んだ。
そしてある朝、神様に呼ばれて世界樹の根本まで行ってみると、早速声が掛かった。
「そなたらも、だいぶこの世界に慣れて来たようじゃな。実はな、そなたらに頼みたいことがある。まずは北に古い神殿の跡があり、そこに囚われている者を助けてやって欲しい」
「危険はないのですか?」
「この世界はそこら中危険だらけで、その神殿が特別に危険と言う訳ではない。それにそなたらは、この世界のことを何も知らんであろう。そこに居る者は、案内役に丁度良いと思うのだが、どうかな?」
「リスクの大きさと相談しながら、可能であれば救出します」
慎重な姿勢を崩さない元哉、三人の命が懸かっている以上簡単に譲歩は出来ない。
「よいよい、我も無理強いはしない。出来るかどうかは、そなたらの判断に委ねよう」
その言葉に元哉は
「分かりました」
と答える。
「さて、もう一つの頼み事の方だが、近いうちに人族のどこかの国で、勇者が別の世界から召還される。」
神様はここで言葉を区切った。
「その勇者だが・・・・・・、そなたら、始末してくれんか」
「「「えーーーー!」」」
三人の声が揃った。
「驚くのも無理はない、理由を説明するから聞くが良い」
神様は丁寧にその理由を話し始めた。
戦乱が終わってすでに二百年、その間人族の人口だけが増えていて、そこに勇者という要素が加われば人族は確実に他の種族の領地に侵攻するということだった。
「でもなぜ俺達が?」
その疑問は当然のことと神様も思って、元哉に答える。
「そなたらに始末を託すのは、既に選ばれているからよ」
「???????」
神様の説明によれば、『獣王』『魔王』『破王』とはどれも人族と対立する宿命で、遅かれ早かれ勇者と対立する運命だろうとのことだった。
「我にとって重要なのは、種族ごとの力関係のバランスを取ること。大きな戦乱がなく、緩やかにこの世界が発展してゆく事が我の願い」
しばらく何かを考え込んでいた橘が顔を上げて元哉を見つめる。彼が無言で頷くのを確認してから、世界樹に向き直って言った。
「その御言葉はまことですか?」
「偽りはない。」
「ならば我らは、運命に従うのみ。もし、勇者との対決へと導かれるのであれば、そのときは容赦しません」
「うむ、それでよい。そなたに任せるとしよう」
神様はこの難しい依頼の件が解決したことに満足している。
「さて、込み入った話は終わりじゃ。そなたらに紹介したい者がおる。噂をすればどうやら到着したようだ」
神様の話を大して聞かずに空を見上げていたさくらが、南の方を指さして
「なんか飛んできたー!」
と叫んでいる。
初めのうちは黒い点にしか見えなかったが、巨大なものが羽ばたきながら、かなりの高速で接近してきた。
橘はまさかと思っていたが、その全貌がはっきり捉えられるようになると、
「本物のドラゴン・・・・・・」
と呟いたまま、ポカーンとしている。
やがてドラゴンは、ゆっくりと高度を下げて、翼が風を切る音以外は、何の音も立てずに着地した。
漆黒に輝く鱗、深い英知をたたえた眼、全長40メートルにも及ぶ巨体、まさに『ドラゴンの王』と呼んでもいいような風格、この世界で最強を誇る存在が三人の前に現れた。
「急に呼びつけるとは、いったい何用だ?」
神様を前に畏まった様子もなくドラゴンは口を開く。
「面白い者達がこの世界に現れたのでな、そなたにも紹介しようと思うた」
その言葉に、ドラゴンは自らの足元にいる三人を見下ろす。
「ほー、俺を見て恐れないとはなるほど面白そうな連中だな」
「感心しておらんで、そなたから名乗ってやるがよい」
神様の言葉に、三人に向き直るドラゴン。
「俺はこの世界樹の神に仕える『暗黒龍』、もっともも鱗が黒いからそう呼ばれているだけで、邪な者ではないから安心するがいい」
地の底から響くような低い声で名乗りを上げる。
突然のドラゴンの出現に、茫然としていた三人のうちで最も早く立ち直ったのはさくらだった。
ドラゴンの足元まで近づくと
「うほー! 本物のドラゴンだー! カッコイイなー」
興奮で鼻息を荒くしながら、周囲を見て回っている。
「これ、そこの子供! 俺の周りをそのようにウロウロするでない。うっかり踏み潰してしまうぞ。あっ、コラ! 背中によじ登るな」
「子供じゃないよ! さくらだよ」
尻尾の先からその巨大な背中を、登り切って首元にちょこんと座る。
「ねぇ。バハムート、空を飛んでみて」
「バハムート? なんだそれは」
「暗黒龍ならバハムートに決まってるでしょう。それより空飛んでよ」
一方的なさくらと、暗黒龍のやり取りを見ていた神様が告げる。
「暗黒龍よ、そなたよい名を授かったな。そこの嬢ちゃんは『獣王』。その言葉無下にはできまい」
「なに、この子供が『獣王』だと」
「子供じゃないよ、さくらだよ。それより早く空飛んでよ」
「獣王の言葉ならば、従わねばなるまい。それにしても、バハムートとはなかなかよい名であるな。では一回りしてくるか」
さくらを乗せたバハムートはゆっくり上昇してあっという間に飛び去り、20分程で帰ってきた。
その背中から飛び降りるなり
「すっごーーく高かったよ。あとね、あっちのほうに壊れかけた建物があった」
さくらの指が示す方向にどうやら神様が言っていた神殿があるようだ。
「空の旅は満足できたかな?」
黙ってさくらは頷く。
「そうか、そなたに渡す能力がお預けであったが、この龍を召喚する力でよいかな?」
神様の言葉にさくらよりも元哉達が驚いている。この世界最強のドラゴンを召喚できるとなると、さくらのポテンシャルは破格のものとなるからだ。
さくらの方は、そんなことは全く気にしないで
「うん、いいよー。バハムートよろしくね」
といいながら、前足の辺りをペシペシ叩いている。
「うむ、『獣王』さくらよ、しばらくの間お前に従うとしよう」
これで召喚の契約は成立したが、この場にいるさくら以外の者が全く同じ危惧を抱いた。
(絶対こいつ気軽に召喚するぞ!!)
その危惧に対して元哉が先回りして釘を刺す。
「さくら、小隊長命令だ。バハムートを召喚するときは俺の許可を得るように」
「えー、お友達ができたら見せびらかそうと思ってたのにー!」
やはりぶれないさくらだった。