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第3話:再会

 4月3日、1404室のチャイムを押した。昨日押したときは誰も出なかった。そして、15秒ほど待っていたが、返答は無い。頭に血が上りそうだった。

「何で居ないの?」

 つい、心の叫びが出てしまった緋亜は赤面になった。

「何で昨日もいなかったのに今日も居ないわけ? この人可笑しいよ! 夜勤でもしてるわけ? もう、嫌になっちゃう!」

 彼女はドアを平手で叩いた。痛いのに、強く強く叩く。そこに、誰かがやってきた。

「おい、お前……」 

 男性の声だ。緋亜は振り向いた。少し顔を下に傾けた所為で、男性の顔は見れなかった。

「俺のドアに何をした」

「あっ……さっきのは……」

 緋亜はそういいながら手を伏せ、顔を上げた。男性の顔には、見覚えがある。スーツ姿に同じぐらいの身長、そう、この男性は着いてから会った、一番初めの人だった。

「あっ、あの」

 緋亜は彼に近寄った。「昨日の夕方会った方ですよね? 覚えてます? 私、隣に引越してきた佐上緋亜です! 良かったら、あなたのお名前をお伺いできますか?」

 一気に言った。彼は少し退いた様だったが、少し眠そうな顔をして、質問に答えてくれた。

「俺の名前は高橋寛タカハシヒロ。緋亜っていうんだよな……変わった名前。まあ俺、そういうの好きだけど。それとさ、ごめん。俺、あんまり昨日のこと覚えてない。ワリィな、でもこれからよろしく」

 寛は手を差し出した。緋亜は、手を握った。寛の手は大きくて、「いかにも男性だな」と思わせるような感じがした。そして、温もりを感じる。

「変わった名前ですか? 別に自分では気に入ってるんですよ、緋亜っていうのは。寛さん、これからお願いしますね!」

 少し、昨日のことを覚えていないのは、緋亜にとって辛かったけど、自分のことを覚えてくれたのは、嬉しい。

 寛は、髪を掻いた。掻いたところが、ぐしゃっとなる。「俺、夜勤だったから寝てもいいか?」そう言って、緋亜をさした。どけ、ということなんだろう。

 すいません。そう言って退いただけだった。でも、寛の顔は笑っているようだった。眠そうじゃない、いや、あえて眠そうな顔をしていないのかもしれない。

「おやすみなさい」

「あぁ。緋亜は行ってらっしゃいか?」

「あっ、そうです。バイトですけど……就職はまだなんです」

 少し、照れてるような顔をした。はっきり言って、ぜんぜん照れるところではない。

 私は、周りに比べると遅かった。行動、成長、そのほかのすべてが。就職は、一体いつできるんだろう。同窓会で、自分だけニートとかは絶対に嫌だ。

「じゃ、バイバイ」

「バイバイ」

 二人は手を振り合った。

 緋亜は寛が家に戻った後、少しその場で呆気に取られていた。なんで自分があんなに話せたのか。恥ずかしさはなかったのか……恥ずかしさはあったのだ。心の中に。でも、その感情が顔に表れなかった。いや、寛の話し方が友達のようで、表れる時間が無かったのではないか。そう考えると、寛は自分にとって、すごくありがたい人のように思えた。

「行こう」

 終止符を打つ。もう、考え出したら止まらない症は、どうしても抑えきれない。でも、それが出るということは、やっぱり、寛が凄すぎるのだ。ふと、握った手を見た。そこだけ、感覚が変わったような感じがする。

「バカか。私は」

 自分で自分を責めた。ケータイがあることを確かめる。「今日はどういううハプニングがあるんかなー?」と言ってみた。ハプニングなんて起こらないほうがいいのに、どういうことを考えてるんだ。と、緋亜は自分の考えたことを否定する。 

 足を、エレベーターに向かって歩かせる。さあ、バイトに行こう。

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