表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第2話:出会い

 予定より、はるかに遅い午後5時に、佐上緋亜(サカミヒア)は新しく住むマンションに着いた。マンションは、いかにも清楚なイメージがあって、引っ込み思案の彼女には余り合わないと、自分でも言っていたところだが、新しい生活にはもってこいの気がする。

「佐上さんの部屋は1405室でしたよね」

 引越し業者の人は、ダンボールを二つ重ねて持ちながら問う。「は、はい……。そうですよ。ありがとう」

 14階は、階段で上がるには無理ということで、緋亜はエレベーターのボタンを押した。隣は、さっき問いかけられた、業者の人だ。顔を下に向けた。なんだか、知らない人と一緒にいるのは、感情がむずむずして仕方が無い。そう思っているうちに、エレベーターが一階に来ていた。中には一人乗っている人がいて、緋亜は思わず顔を上げた。一体、どんな人がここに住んでいるんだろう。

 降りて来たのは、男性だった。カッコいいスーツ姿に、凛々しい眼差し。ただ、身長は150センチの彼女を追い越すか追い越さないかぐらいだ。

「……こ、んにちは」

 詰まってしまった。

「こんにちは」

 彼は笑顔で返してさっさとその場を去ってしまう。あの人は私のことをどう思ったんだろう? 悪いイメージじゃなかったかな? 名前は何て言うんだろう……。緋亜は心の中で呟く。そして、エレベーターに乗り込んだ。


 緋亜は家についてすぐ、隣の家の人たちに挨拶をしようと思った。業者さんがうまいから、ダンボールが部屋中に散乱していなかったのだ。

 部屋は合計で5つある。一人で住むには多すぎるぐらいだろうが、趣味のピアノを置くための防音が装備されている部屋、生活するための部屋、寝室、仕事部屋(使う理由性はほぼないけど)ぐらいに分けられてしまう。

 リビングにはもう、テーブルと二つの椅子が並べてあった。リビングの中で、ちゃんとした状態で置いてある家具は、その二つしかなくてなんだか寂しそうな感じがする。

「はいはい。早く帰ってきて、他の家具も出すからね」

 彼女は家具に話しかけていた。家具にも、魂があって感情があって、この世界にいる価値がある。緋亜はそうやって昔から思っているのだ。

「じゃあ。行ってきます」

 緋亜は部屋から出て行った。そして、隣の1406号室へ向かい、チャイムを鳴らした。『どちら様でしょうか』向こう側から声がすぐにした。

「初めまして。私、1405室に引っ越してきた佐上と申します。良ければお顔だけでもご拝見してもいいでしょうか」

 出来る限り丁寧に、そして詰まらない様に。『はい。いいですよ』

 この人はいい方だ! 心の中で、叫んだ。

「初めまして。高野美咲コウノミサキです。よろしくね、佐上さん」

 玄関が開いた。高野美咲と名乗る女性は、長く帯のような黒髪の似合う人だった。

「こちらこそ。よろしくお願いします!」

 緋亜が返事をすると、「では」と言って、美咲はドアを閉じた。

 次は、1404室の人だ。軽い足取りで玄関に向かい、チャイムを押した。が、返答が無い。

「留守なのかな……?」

 もう一度鳴らして見る。……やっぱり返答が無い。きっと留守なんだろう。でも、どこに行っているんだろう。それとも、会社勤めの人なのだろうか?

「明日の朝、もう一度……」

 緋亜はそう考えてから、自分の家に戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ