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とある兄弟のダンジョン攻略準備

とある兄弟のダンジョン攻略準備

短編です。少し長いですがお付き合いいただけたら幸いです。

 「兄さん!起きてっ!朝だよ!って、ちょっと!なに布団かぶりなおしてるの!?」


 俺の一日は、今おれにまたがっている気の利かない弟に起こされることから始まる。

 まったく、いつからこんな愛嬌がなくなったのか。昔は、まだ寝たいと言えば寝かせてくれたのに。


 「あと……五分……」

 「兄さん……。毎朝このやり取りしてるんだから、いい加減その一言は意味がないってことを学ぼうよ」


 ホントに可愛げがない。


 「……なら、お前も今の俺がなにをしても起きないってことを学びやがれ」

 「へぇ……」


 声のトーンが低くなる。


 「そんなこと言っちゃうんだ、兄さん……?」

 「お、おい。カノン……?」


 部屋の温度が一気に低くなる。物理的に。ぶっちゃけ氷点下のレベルだ。


 「お目覚めの一発食らう?」

 「よせっ!お前の魔法、中々キツイんだよ!?」


 カノンの右手の上に現れた巨大な氷塊が獲物を求めて回転を始める。

 クラスが魔術師メイジのカノンは、氷属性の魔法を得意としている。他の系統の魔法はさっぱりだが、この氷属性だけはピカ一の威力を持っている。

 そして、俺はその一撃を朝っぱらから食らおうとしてるわけだ。


 「危ねぇっ!」


 俺を狙って飛んできた氷塊をベッドから飛ぶことで回避する。

 そして、とんだ先で俺は壁に掛けてある一振りの剣をしっかり掴み、追撃に備える。

 幸いカノンからの追撃は無かった。

 

 「目が覚めた?」

 「……おかげで、ばっちりな」


 精一杯皮肉を込めて言ってやる。

 

 「じゃあ、今日も行くよ」

 「行くって?」

 

 首をかしげて言う俺にカノンが嘆息する。


 「はあ。どこって、ダンジョンに決まってるでしょ?」


 ☆☆☆


 「いらっしゃいませ」


 ここは、冒険者ギルド依頼受け受け所。ダンジョンに潜るボクたち冒険者に頼まれる依頼を受けるところだ。

 カウンターの向こうにいる金髪の髪を三つ編みにしたお姉さんが丁寧に頭を下げてくれる。いつもながら、本当に気品のある人だ。素直に見習いたくなる。

 

 「おっ、セルナちゃん。おっはよ~。今日も美人だね。胸触っていい?」


 口頭一番に通報されても文句言えないようなことを言う我が兄。


 「ダメです」

 「え~、ケチ~」


 セルナさんもよく真顔で相手できるものだ。

 ボクだったら、とりあえず顔面に一発入れてるよ。


 「すいません。セルナさん」

 「いえいえ、お気になさらないでください。デリク様は相変わらずですね」


 兄さんを半眼で睨みながら言うセルナさん。

 本当に大人だ。


 「――で、今日はいい依頼ある?」


 コホンと咳払いを一つして、本題に入る。


 「ええ、ありますとも。これなんていかがでしょう?」

 「どれどれ……」


 兄さんがセルナさんから受け取った羊皮紙を読み始める。

 内容はこんな感じだ。


 ~依頼~

 目的:ゴブリンの群れとその首領ゴブリンロードの討伐

 場所:第7ダンジョン

 報酬:7500G

 期間:3日

 依頼主:帝国騎士団

 ~~~


 「悪くないんじゃない?どう、兄さん?」

 

 羊皮紙から目を離して兄さんに問いかける。


 「いいんじゃね?俺とお前のレベルなら1日で終わるだろ?」

 「そういえば、先日またレベルを上げたようですね。おめでとうございます」


 相変わらず無表情のセルナさん。

 

 「いや~それほどでも」


 すぐ調子に乗る兄さん。


 「はいはい。じゃあ行くよ。セルナさん、依頼のほう受注をお願いします」

 「はい。かしこまりました。それでは、行ってらっしゃいませ」


 そんな感じで受付を後にしたところで兄さんが思い出したように声を上げる。


 「あっ、そういや今日は準備したい物があったんだ。つーわけでちょっと準備して来ていい?」

 「かまわないよ。昨日の依頼で結構いい報酬がもらえたからね。あんまり無駄使いしちゃダメだよ?」


 一応釘をさしておく。


 「おう。じゃあ、1時間後に第7ダンジョン前に集合な」

 「了解」


 ★★★


 「ふ~」

 

 やっと、あの世話焼きで口うるさい弟から解放された。

 普段なら、有り金使って酒でも飲みに行くところだが今日は違う。

 この日のために貯めてきたお金がやっと貯まったからな。

 

 「くふふっ」


 自然と口元から笑みがこぼれる。

 側にいた通行人のお姉さんが不気味そうにこっちを見ていたが気にしない。


 「よおしっ!行くか!」


 ってな訳でやってきたのが。

 

 「いらっしゃい!旦那っ!ようこそ奴隷市場へ!」


 ここ、奴隷市場だ!

 冒険者がよく使う物ベスト3に入るのがこの奴隷だ。

 なんたって、なんでも命令に従うんだからな。

 一緒に冒険してて分け前でもめることもないし。

 そして、なによりっ!


 「女の子の奴隷買ったらエッチなことし放題じゃんっ!」

 「えらくストレートですね、旦那……」


 奴隷商人まで引いていた。


 「そんなわけで、可愛くてなおかつ戦闘に使える奴っている?」

 「もちろんありますとも!」

 

 さすが奴隷商人。品ぞろえがいい。


 「まずは、こんなのどうでしょう?」


 出てきたのは、赤髪ショートの猫耳娘。

 

 「おお!いいじゃん!この娘いくら?」

 「3450Gです」

 「お手頃じゃん!」

 「ちなみに男の娘です」

 「却下っ!」

 「ですよね~」

 

 ふざけやがって。


 「じゃあ次はこれなんてどうでしょう?」


 現れたのは、金髪巨乳のお姉さん。


 「おお!俺の趣味ドストライクっ!」

 「ちなみに3859Gです」

 「悪くないじゃん!」

 「でしょう?」

 「……ところで、なんで下半身をこんな大きな布で隠してるの?」

 「……っち、気付いたか」

 「なににっ!?」

 「いや~、この娘アラクネ族でして。下半身が蜘蛛なんですよ。ほら。異性に絡みつくときは、基本的にこの蜘蛛の足で絡みつくものですから人気が出ないんですよね~」

 「……却下」

 

 ちょっと、無理だわ……。


 「では、これとかはどうでしょう?」


 檻から出てきたのは、浅黒い肌に銀色の長髪のナイスバディのお姉さん。

 耳がとがってるからエルフ族だろう。


 「ダークエルフです」

 「へえ。値段は?」

 「2985Gですね」

 「安っ!?エルフ系統の種族ってメチャ高価じゃなかったっけ!?」

 「いえ、実はこの前帝国が北のダークエルフ族との戦争に勝ちまして、捕虜として大量のダークエルフが国内に入ってきてるのですよ」

 「マジか……」

 「どうです?」

 「う~ん?」


 俺は、鎖でつながれたダークエルフの美女を見る。

 すると……。


 「けがらわしい視線を向けるなっ!このケダモノ!」


 わお……。


 「……ツンデレだね」

 「デレてないっ!」


 うん。結構ノリのいい娘じゃん。


 「おっちゃん。この娘にするわ」

 「へい。毎度あり」

 「おいっ!今のやり取りでどうして買う気になった!?」


 つーわけで、可愛い娘ゲット。

 ……さて、カノンになんて説明しよう。

 集合場所である第7ダンジョンに向けて歩きながら俺は考えた。


 ☆☆☆


 「やっと……買えた」


 ボクは、手に持った黒い表紙の魔導書を熱い視線で見つめた。

 買ったのは、『召喚術の書』。

 この魔導書を使えば異界に住む魔物と契約し、使役することが出来る。一冊に付き一体の魔物としか契約できないが、魔導書でも数少ない高等なものだ。魔術師なら誰もが憧れる。

 これ1冊で7689Gもした。

 兄さんに使いすぎるなと言ったが自分も結構な額を使ってしまった。今日ばかりは兄さんがくだらないことに大金を使ってしまっていても許してあげよう。

 どうせ、酒かろくでもない偽魔法剣とかを衝動買いしたのだろう。

 そう思って、集合場所である第7ダンジョンの前にたどり着いたボクは、絶句することになった。

 なんと……なんと、あの兄さんが銀髪美女を連れていたのだ!しかも、首輪つけて鎖で繋いでっ!


 「兄さんっ!」

 「おっ、カノン。遅かったな。いい物買えたか?」

 「もちろん!ついにあの『召喚の書』を……って違う!そうじゃなくて、なんで兄さんが女の人連れてんの!?」

 「ん?ああ。こいつか?いや~さっき奴隷市場で買ってきてね。安かったんだぜ?ちなみに名前は、ゼネリアって言うんだ」

 

 そう言ってゼネリアさんを抱き寄せる兄さん。


 「お、おい!汚い手で触れるな!」

 「つれないこと言うなよ」

 「な、なんなのだ一体……」

 

 兄さんに抱き寄せられて顔を朱に染めながらも抵抗が弱々しいゼネリアさん。

 兄さん、一体どんな口説き方したんだ?


 「ふ、不潔だよ!女性の奴隷を買うなんてっ!もう、ボクは知らないっ!ボクもやっと、この本を手に入れたんだ。兄さんが女の人に夢中な間にボクとどんどん実力に差が開くからね!」


 そう言って、買ったばかりの『召喚の書』を開く。

 最強の魔物を召喚して兄さんとどれほど差が出来たか教えてやる!


 「起動!魔導書よ!我にふさわしき魔物を呼び起こせっ!」


 足元に魔法陣が出現し、一つの人影が出現する。

 どうやら人型、つまり魔人族。

 魔人族には、かなりの実力を持つ魔物が多く存在する。

 

 「ふっ、やはりボクには大いなる力が宿るんだ!さあ、現れろ!最強の魔人っ!」


 しかし、現れたのは……。


 「きゅぴ~ん☆召喚の呪文に呼ばれて華麗に参上~!淫魔サキュバスのエリアナちゃんだよ~?あなたの純情をストライクショット~(はーと)」


 「「「……」」」


 黒いボンテージに身を包んだ金髪ツインテールの少女、いや痴女。

 

 「そ、そんな馬鹿な…。なぜ、ボクの召喚獣がこんな、こんな卑猥な……」


 一度きりしか使えない『召喚の書』を抱えてうずくまる。

 そんなボクに。


 「よお、弟よ。お前もいい趣味してるな」

 「やかましいっ!!!」


 もう、涙しか出てこない。


 「泣かないで、ご主人様?ご主人様が泣いちゃうとわたしのハートもズキズキだぞ?」

 「ううぅ……なんか……もう……どうにでもなれ……」

 

 ☆★☆★


 「よし、じゃあパーティもできたことだし。ダンジョン行くか!」


 デリクがお気に入りの両刃剣を掲げながらダンジョンの入り口に足を踏み入れていく。


 「ちょ、ちょっと待ちなさいっ!あなたという人はもう少し警戒心を……!」


 その後を早くも世話焼き女房の様なキャラになりつつあるゼネリアが追う。


 「まったく、兄さんは相変わらずいい加減なんだから」


 ダメな兄を憂いながらダンジョンに足を運ぶカノン。


 「まってよ~ご主人様~☆置いてくなんてひどいぞ?」

 

 純情で健全な主人に付きまとう淫間サキュバスのエリアナ。


 今日も、ダンジョンで新たな冒険が始まる。


長くてすいません(汗)。

登場人物紹介としては、


デリク:冒険者の少年。カノンの兄だが馬鹿で女好き。ちなみに剣士。

カノン:デリクの弟で冒険者の。魔法を使う。超が付くマジメ君。

セルナ:冒険者ギルドの受付。いつも無表情。

ゼネリア:デリクが買ったダークエルフの奴隷。ツンデレ。意外と母性愛が強い。

エリアナ:カノンが契約した淫魔の少女。かなり痛い娘。


最後に、タイトルにダンジョン入ってるのにダンジョン全く出てなくてすいません。

 これからも、よろしくお願いします。



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