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裏返しの世界で

作者: 篠戯 稀

 気付いたらそこに立っていた。

暗く暗い空間に不自然に浮かぶ人。挙動不審で震えていて、冷や汗、耳鳴り、耳障り。長い髪から滴り落ちた涙。



 突然この世界へ投げ出された恐怖、不安。日常からの突然別れに戸惑う。

 この空間は、暗くて、真っ暗で漆黒でいて、上も下も右も左も前も後もまるでわかりゃしない。一体ここは何処なんだ。


涙が乾いた。





 回想なんてものは存在しない。過去の出来事を振り返った所でどうなる。共感、同意、同情、そんな無意味な事を繰り返すほど沼に沈むのではないか。

過去は振り替えるな。未来(まえ)だけ見て歩いていけと。そしたらその内、道は切り開ける、と。

『未来は自分の手で切り開け』と、しかしそれは、同時に『未来は自分の手で切り刻む』ことも不可能では無い。不可能は不可能なのだから。

 可能なことを不可能に変えようとしても、それは当然無理。逆に不可能なことを可能にすることも無理だ。 どうあがいたって救われないのは救われないし、助からない。彼女は金魚だ。そのまま心は闇に巣食われていくのだ。



 負の連鎖だ。暴力、いじめ、虐待、そんな日常。

そんな日常から救う。それと同時に巣食う。救いようはないけれど巣食いようはあったってことだ。



「ねぇ、誰か! 誰か!」

声を振り絞るのは彼女。名前はわからないから取り敢えず『泣き虫』と呼ぼう。泣き虫は赤ん坊のように騒ぎ、泣き喚いて、叫んでいた。母の愛を探すように、暗闇をさ迷う。救ってあげたいのは山々だが救えないのが決まりごとでお約束なんだ。

 肩まで流れる髪、制服に、華奢な体。スカートから突き抜けている太股から、黒い靴下。体の曲線が周りの注目を集める。


『ぐにょぐにょ』達。


ぐにょぐにょ達はそのゼリーのような真っ赤な体で目をぐるぐるさせながらぐにょぐにょに近付いていく。泣き虫は怯えていた。

 泣き虫の身体にぐにょぐにょが張り付く。べちょべちょと、張り付く。足に太股にスカートに腰、腹、胸、腕、手、首、顔。首を絞められて苦しそうにする泣き虫はとても滑稽で、哀らしくもあった。

 やがて泣き虫は身動きが取れなくなって苦しくなって、快感を味わった後、




死んだ。


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