3 商人
リグラルド王国には3人の王子がいる。
世継ぎでもありすでに国王の執務代行もこなす長男のセイラム。
外務を担当し常に近隣諸国を外遊している次男のユリシス。
そして、王妃シェクラーナの美貌を受け継ぎながらもその武勇を轟かす三男のナクロ。
王子たちは皆、太陽の金と称される王妃とよく似た金髪をしていた。加えてそれぞれが雰囲気の異なる美形揃いであるというのは有名であった。上の二人は王に似た新緑の瞳をしており、三男は王妃と同じ深い紫紺の瞳をしているという。
---彼こそ兄妹が探していた人物であった。
* * *
ある晴れた日のこと、ユーグ伯爵邸は一人の旅の女商人を迎えていた。
使用人用である裏の出入り口から招き入れられたその女商人の扱う品は、若い娘が好きそうな色彩豊かな組み紐だった。
「こんにちは。この度は招き入れて下さってありがとうございます。今回持ってきたのは組み紐です。でもただの紐じゃあございません。守りの願いが込められた組み紐なんですよ。例えばこれは健康を祈る意味が込められています」
にこにこと人好きな笑みで次から次へと説明していく女商人の瞳は紫紺をしていた。---シェリアである。
赤、黄、青、濃緑・・・。様々な紐が複雑に絡み合い鮮やかな色合いが目を引く。使用人の中でも若い娘たちは目を輝かせながら見入っている。このようなところで働いていると、貴金属のアクセサリーは付けてはいけないことが多い。またリボンや飾り紐は手軽にできるおしゃれとして人気があった。
「今回は更に特別な品物を持ってきたんですよ」
そう言ってシェリアはごそごそとカバンの中から布袋を取り出すと、敷布の上に中身をざらざらと並べていった。緑、薄青、透明、黒・・・。滑らかに磨かれた大小様々な石がキラキラと輝く。
「きれいねぇ。これをどうするの?」
ピンクの小石を手に取り赤茶色の髪の娘がシェリアを見やる。
「こうするんですよ。ちょっと見ていて下さいね」
シェリアは組み紐を一本手に取ると、赤い小石を器用に組み込んでいく。そうして出来上がったものを見て娘たちは目を輝かせた。
「わぁ、かわいい。器用なのねぇ。・・・ねぇ、恋に効く組み紐ってないかしら?」
赤茶色の髪の娘が少し顔を赤くしながらおずおずと尋ねてきた。
「もちろんありますとも。こちらがそうです。それにこのピンクの石を組み合わせるとさらに効き目がありますよ。・・・どなたか意中の方でもいらっしゃるのですか?」
恋に効く組み紐のことを尋ねてきた娘は更に顔を赤らめる。それを見て周りのメイドたちがくすくすと笑った。
「あの幼馴染の人でしょう?今は騎士になってる、青い目の」
「意中の方は騎士様なんですか?それでしたらご一緒にプレゼントされてはいかがでしょう?」
「プレゼント?でも彼は別に髪も長くないし・・・」
幼馴染のことを考えながら娘がそう答えたが・・・
「いいえ、髪をくくるためではなくて。騎士様でしたら剣を佩いていらっしゃることでしょう。怪我をされないようお守りとして、剣の飾り紐に贈られてはいかがですか?もしよろしければあなたの瞳の色と同じ緑の石を編み込みますが」
娘は少し考えていたが、恥ずかしそうににこりと笑った。
「ではお願いします」
「ありがとうございます。ですが今日すぐにというわけにはまいりませんので、少々お時間をいただけますか?・・・そうですね、明日またこちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?」
自分一人では決められないのだろう。娘は周りをちらりと見た。すると少し年かさの女性がほほ笑みながらシェリアを見る。
「私はこのお屋敷のメイド頭をしていますマイラと言います。本来なら何度も商人の方を招き入れるのは良くないことなのですが、今回は多めにみましょう。明日の同じ時間でよろしいですか?」
「もちろんです。ありがとうございます。・・・よろしければマイラ様も旦那様に贈られてはいかがですか?」
ちらりと見たマイラの薬指には指輪が光っている。少し照れくさそうにほほ笑むとマイラはもちろん、と答えたのだった。
それからしばらくして王都では、意中の相手や恋人に自分の瞳と同じ色の組み紐をお守りとして贈ることが流行し始めたのだった。




