1 王都
王都リグラーシ。
リグラルド王国の首都にして、政治、経済、文化の中心地である。古い歴史ある神殿があれば、新進気鋭の芸術家たちによる壁画もある。貴族の屋敷が建ち並ぶ北の区域は整然と整えられ、南には雑然としながらも活力に満ちた下町が広がっていた。
そして貴族街の更に北、わずかに小高くなっているそこにはこの王国の政治の中心地である王城がそびえていた。
* * *
ここ20年ばかり戦を経験しておらず、近隣諸国とも友好関係を築いているリグラーシの門は常に開かれている。夜間はさすがに獣や魔物を警戒し閉じられるが、日が出ている間は両脇に兵士が立っているだけで検問もなく概ね自由に出入りできる。
多くの人々が行き交う中、一組の兄妹が門をくぐった。
「すごい人ね。やっぱり王都は賑やかだわ」
年は18くらいであろうか。まだ少女の面影を残した娘は艶やかな長い黒髪を紫紺の結い紐で一つに結わえ大きな荷物を背負っていた。
「いい商売ができそうね」
娘は傍らにいる青年を見上げるとにっこり笑った。
「さすが逞しいな。だけどそれが目的じゃないだろう?目的を忘れるなよ、シェリア」
たしなめながらも穏やかな眼差しを妹に向けている青年は榛色の髪の毛を風に揺らした。その気になって甘い言葉でも囁けば女性がころっとまいってしまいそうな優男風な顔立ちに反し、腰にはいた剣はよく使い込まれている。
闊達とした大きな瞳の妹と垂れ目の優男である兄。顔立ちは全く似ていないが、よく見れば彼らの瞳は同じ紫紺の輝きを宿しており、どことなく似ている雰囲気から二人が兄妹であることは間違いないと感じられた。
* * *
王都の門を通過し兄妹はきょろきょろと辺りを見ながら歩いていた。南の門から入ったその辺りは道の両側に大きな商店が建ち並び旅人や商人で賑わっている。
人ごみを器用に避けながら兄が妹に声を掛けた。
「なぁ、シェリア。教えて貰った宿って何ていうんだ?」
「確か【暁の森】亭って言ってたよ。ディールの名前を出せば安くしてくれるって話だけど。・・・でもディールの知り合いのやってる宿っていうのが、なぁんか心配なんだよね」
「それはまぁ、そうなんだけどな」
苦笑して青年---ライルは自分たちのどこかぶっ飛んだ性格をしている保護者を思い出す。兄妹が二人で旅に出る時も、ちょっとそこまでというくらいあっさりした別れで済ませてしまった彼の人は、元気にしているだろうか。
「でもあの人の知り合いなら信頼はできる」
「まぁ、ねぇ。取りあえず行こうか。どっちにしても当てもないわけだし。東の方って言ってたかな。ライル、寄り道しないでちょうだいね」
「分かってるって。信用ないなぁ」
「しょうがないでしょ。出かける度に女の子に声かけられるくせに」
「道を聞かれたりしているだけだよ。困っている人を助けるのは当然だろ」
それを聞いたシェリアは思わずため息がもれた。鈍い。全く自分が解っていない兄の将来が少しだけ不安になってくる。
兄に好きな人が出来たら全力で協力しよう。でないとずっと独身のままのような気がする。シェリアは心の中で決心した。
「そうね、分かってるわよ。ほら行こう、兄さん」
二人は東の方に足を向けた。




