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9.引っ越しは蕎麦

9.引っ越しは蕎麦


 引っ越しが終わり、電話もつながって新しい事務所での業務がスタートした。良介と竹山は森本産業の営業所長のもとに引っ越しの挨拶をしてきたところだった。

「日下部さん、この辺りには詳しいですよね」

 声を掛けてきたのは管理部の青田だ。

「それほど詳しくはないぞ。どうしてだ?」

「実は、井川さんから引っ越し祝いの段取りを頼まれたんですけど」

「なんだ!じゃあ、どっかその辺の居酒屋にでも声を掛けてみればいいじゃないか」

「だって、今夜の話ですよ!今から予約なんか取れるわけないじゃないですか」

「今夜?相変わらずせっかちな人だなあ」

「どこかいい場所はないですかねえ?」

「わかった!じゃあ、昼になったら飯に付き合え」


 良介は青田を連れて近くの蕎麦屋へ昼飯を食いに行った。そこで、事情を話し今夜の宴会を頼んでみた。

「大丈夫ですよ。席だけ用意しておけばいいんですね」

「はい。よろしくお願いします」

 そう言って良介は蕎麦屋の女将に名刺を渡した。

「蕎麦屋ですか…」

 青田が不満そうに言う。

「酒のつまみになるものあるんですかねぇ…」

「お前、蕎麦屋をバカにするなよ。結構いけるんだよ。それに引っ越しは蕎麦だろう!」


 昼休みが終わると、青田は今夜、引っ越し祝いをやることを竹山に報告した。

「いいんじゃないか」

 あっさりOKがでた。青田は外回りに出ている社員も含めて全員にそのことを伝えた。

「どこでやるんだ?」

 口を挟んだのは井川だった。

「通りにある蕎麦屋です」

「ほう、蕎麦屋か。いいねぇ」

井川はそう言うと、そのまま外回りに出た。


 業務終了時刻の前には全員が揃った。青田は全員を引き連れて、蕎麦屋へ向かった。店では二階を宴会用に空けていてくれた。既に、お通しだと思われる料理と昼間、良介が頼んでおいたとっかかりの料理が用意されていた。青田はみんなが席に着くのを待って、瓶のビールを10本頼んだ。すぐに、二人の女性従業員がビールを配り始めた。

「それでは、社長から一言お願いします」

 青田が言うと、竹山はほんの一言だけ話をした。

「乾杯の音頭は井川部長にお願いします」

 青田が振ると、井川はうなずいた。全員のグラスにビールが注がれるのを確認すると、井川は立ち上がった。

「乾杯!」

 かくして、恒例の酔いどれ軍団大宴会が幕を開けた。


 乾杯が終わると、つまみを頼み始めた。それぞれが自分の食べたいものを勝手に頼んでいる。

「全部、4つずつ持って来て!」

 しばらくすると、テーブルの上は置ききれないほどの料理が並べられた。

「ほら!置ききれないから、先に来たやつはどんどん食っちゃえ」

 一通りそれぞれの小皿に盛って、余った物は全部名取の前に置かれた。

「ちょ、ちょっと待ってください!こんなに食べられませんよ」

「うるせぇ!若いんだから文句言うな!」

 井川にそう言われると、名取も何も言えなくなる。そうしている間にも次々と料理が運ばれてくる。同じ料理が二度来ることもあった。

「なんだよ、これ!そっちでも頼んだの?」

「いいんだよ!全部4つずつ頼んだんだから。いいからとっとと食え!」

「だって、これ8つ来てるじゃん」

 そんなやり取りが交わされながらも、焼酎のボトルもどんどん無くなっていく。

「焼酎もう一本。いや、面倒くさいから三本くらい持って来といてよ」

 

 厨房では店主が汗を垂らしながら、料理を作っている。客は良介たちばかりじゃない。

「最初だけですよ。そのうち落ち着きますから」

 女将はそう言って店主を励ましている。

「忙しいのはありがたいが、いくら宴会だと言っても、こんなに一気に注文を入れるなんてどんな連中なんだい?」

「小林商事って言っていたから、商社みたいな仕事なんじゃないのかしら。今日、近所に引っ越して来たんですって」

「ふーん…。じゃあ、これからお得意さんになるってわけだな」

「そうなるといいわね」






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