6.引っ越し
6.引っ越し
竹山は早速、上野にある森本産業の営業所に入る旨を本社に報告した。本社側は渋い顔をしていたが、竹山は森本産業が営業的に有利な顧客であることを主張し、提案を通した。そして、すぐに良介を呼んだ。
「日下部君、森本さんとは古い付き合いだったよな…」
森本産業は良介の担当顧客だった。その縁で小林商事は森本産業の本社ビルにテナントとして入った経緯もある。
「今度、上野の営業所に入れてもらうことになった。ついてはフロアの改修工事をやるので森本さんとの交渉を任せる。頼んだぞ」
「えっ?本社に移るんじゃなかったんですか?」
「まあ、いろいろあってな…。とにかく、快適な事務所に仕上げてくれよ」
「はあ…」
事務所の改修工事の監督なんて畑が違う。良介はそう思ったが、イベント会場のレイアウトやコーディネイトをやるつもりでやれば、事務所の内装なんかは単純なことのようにも思えた。問題なのは、上野営業所と言えば建物自体が倉庫の仕様になっていることだ。それを事務所にするには消防署などへの手続きが必要になる。イベントなどの簡易な届出とは違った意味で、専門の知識がある業者を選択しなければならない。
良介は建築工事にも携わっているというオカジマ装飾の社長とともに、森本産業の上野営業所に足を運んだ。
「思ったより整っていますね」
オカジマ装飾の岡島社長。
森本産業では流通の拠点を千葉と神奈川に分散し、上野には事務系を集めようという狙いで倉庫を事務所向きに改修したばかりだという。ただ、設備的には十分ではあっても、内装はだだっ広い空間のままで、クロスや床のタイルも手は付けられていなかった。
「自社で使う予定でしたから、内装はそのままですけどね」
そう言って案内してくれたのは営業所長の木戸さんだった。
「僕もここには久しぶりに来たけれど、これなら内装工事だけで済みそうですね」
良介は竹山がラフスケッチで描いたレイアウトをもとに、岡島と打合せを行い、工事を進めていった。
引っ越しは6月第二週の土日と決まった。荷物の引っ越しは土曜日に1日で完了する。ほとんどは業者が合やるので、当日は現場で指示するものが数名居ればいい。その代り、日曜日は全員出てきて各人の荷物の片付けや担当部署の書類整理をやらなければならない。
土曜日の送り出し役は西山、荷受け側は良介と青田が引き受けることになった。引っ越しは順調だった。
正午過ぎ、業者が昼休みを取るというので良介と青田も食事を取ることにした。
「寿司でも食うか!」
良介はそう言って青田を誘った。
「いいですね!今日は社長から何を食ってもいいと言われているので豪勢に行きましょう。西山さんにもさっき、そう伝えましたから」
「そりゃあいい!さて、寿司屋はどこだ…」
送り出したトラックの帰りを待っていた西山は青田からの連絡を受けてコンビニに出掛けるところだった。
「何食ってもいいと言われたって面倒くさい。コンビニのおにぎりでいいや」
エレベーターのドアが開くと須藤今日子が居た。
「うわあ!びっくりした。何しに来たんだ?」
そう言って一歩引いた西山を押しのけて今日子はフロアに降りた。
「何って、お手伝いに来たんじゃないですか」
「こっちに来たって何もすることはないぞ」
「だって、引っ越し先の場所が分からないんですもの」
「なんだ、管理部のくせに知らないのか?」
「引っ越しのことは社長と日下部さんがやってるから何も聞いてません」
「そ、そうか。まあいい。とりあえず、飯でも食いに行こう」
「いいです。自分の荷物の確認をしましから」
「そう言うな!俺も一人で飯食うのは寂しいと思っていたんだから」
西山はそう言って強引に今日子を連れ出した。
「さて、何が食いたい?」
良介と青田はビールで乾杯していた。店構えからして高級寿司店だと分かっていた。入るなり、ビールとつまみに刺身の盛り合わせをお任せで注文した。
「とは言っても手持ちはあるのか?」
良介も多少の持ち合わせはあったのだが、いかにも店が店だけに不安になっていた。
「大丈夫ですよ。社長から預かってますから」
「そうか!じゃあ、遠慮はいらないな。ところで西山さんにも渡してあるのか」
「いいえ、後で領収書をもらいますから」
「えっ!それはちょっと…」
その頃、今日子が一緒なので格好つけて寿司屋に行った西山はポケットに手を突っ込んでこっそり札の枚数を数えていた。




