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2.大地震…その時

2.大地震…その時


 その時、屋外の鉄骨階段でたばこを吸いながら電話をしていた井川は、思わず手すりにしがみついた。しがみついたままでそっと片手を伸ばし非常口のドアを開けようとした。かなり大きな地震だ。建物が歪んでドアが開かなくなるのを防ぐためだ。

 ところが、あと少しのところで手が届かない。意を決した井川は思い切ってドアの取っ手めがけて飛び付こうとした。

「あっ!」

 その瞬間、誰かが中からドアを開けたのだ。井川はドアの取っ手に指先をぶつけて悲鳴を上げた。そのはずみでバランスを崩してステップを踏み外しそうになった。

 背中をのけぞらせる井川の手を掴んだのは名取だった。名取は井川の手を思いっきり引張り、部屋の中に引き入れた。

「危なかったですね」

 ヒーロー気取りの名取が言うと、井川は名取の頭を引っ叩いた。

「バカ野郎!お前のせいでこうなったんだ。大体何しに来たんだ」

「何しにはないでしょう!部長が心配だったから見に来たんですよ」

「それで、俺を殺そうとしたのか!」

「殺すだなんて、これは地震ですよ。僕のせいじゃありませんよ」

「当たり前だ!お前が地震を起こせるなんて誰も思ってねえよ」

「じゃあ…」

 その時、もう一発今度はグーが飛んできた。

 事情が呑み込めない名取はただポカンとするだけだった。



 良介は外回りをしていた。高速道路の高架をくぐり終えたところで背後からもの凄い金属音が聞こえてきた。高速道路でトラックがひっくり返ったかのような。

 良介は思わず後ろを振り返った。ビルというビルの避雷針やアンテナが大きく揺れている。

「地震だ!大きい!」

 良介は建物から離れて路上に飛び出した。道路では既にすべての車が止まっていた。

 周りの建物からはぞろぞろ人が道路に流れ出てくる。本当はむやみに外が出ない方がいいのだろうけれど、そんな心配をしている場合ではなかった。

良介の頭の中に浮かんだのは、月末から行われるイベントの契約のことだった。丁度、これからその契約を行うことになっていたのだ。

それにしても、この地震は尋常じゃない。

良介はすぐに会社に電話した。しかし、電話がつながらない。家のことも心配になってきた。家にかけてもつながらない。きっと、電車も動いていないだろう。

幸い、今、良介がいる場所からならあるいて家まで帰れる距離だ。良介は家に向かって歩き始めた。



 小林商事の社内では扉が開いた書庫から書類が落ちて床一面に散らばっていた。九死に一生を得て生還した井川と人殺しにならずに済んだ名取が部屋に戻ると、他の社員は机の下に潜り込んで念仏を唱えていた。

「おい!念仏なんて、縁起でもねえことすんな」

 井川が怒鳴り散らす。

 そんな中、秋元だけが席に着いてパソコンをいじっている。

「何やってんだ!」

 井川がまた怒鳴る。

「いや、地震情報を見てるんだけど…」

「そんなものはどうでもいいから、早く隠れろ!」

「いや、これはすごいですよ!東北の方は震度7ですって!」

「なに?それじゃあ、日本中揺れてるってのか?いよいよ日本も沈没か?」

「えっ!日本沈没ですか?」

 そう言った名取は思わず、井川を見た。目が合った。グーが目の前まで迫っていた。よけた拍子に井川に覆いかぶさった。



 エレベーターの中では志田が一人で震えていた。

「こりゃあ、清盛の祟りか!祟るんだったら、俺一人にしてくれ!」

 思わず、心の中でそう願った。

 その直後、揺れが止まった。止まると同時にエレベーターの扉が開いた。志田はすぐにエレベーターから抜け出すと、階段を駆け上がり、小林商事に駆け込んだ。

「みんな大丈夫か?」

床一面に書類が散乱しているが、社員に怪我はなさそうだった。志田は胸をなでおろした。



 その直後…。





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