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「警察きたみたいよ。・・・・梨ノ木さん?」

と、陽子は梨ノ木を見て首を傾げた。

「トイレの床に寝そべるのが趣味なの?」

無精髭男もとい、梨ノ木はガバッと起き上がり、低く唸った。

彼の動作は、まるでエサを盗られると勘違いした犬のようだ。

まぁ、違和感がないのはどうかと思うが・・・・。

「お嬢さん、ここを見てごらん」

梨ノ木の指差すタイルの一角に、じっと陽子は目を凝らすと、

「あっ!!これ・・・・針じゃない。ってことは、まさか毒殺?」

と、小声で呟く。

傍には、まだ容疑者である三人がいるので、トーンを下げたのだ。

梨ノ木がにっこり笑った瞬間、ぞろぞろと警察が現れた。

陽子と梨ノ木は素早くその場を離れ、警察が入れるように横に避けた。

検死官らしき人が入っていった後に、陽子たちの前にスーツに白い手袋をした男が立ち止まった。

五十過ぎで、いかにも頑固ですって主張していそうな眉に、薄くなった白髪の頭部。だが、嫌な印象は与えない。

「・・・・梨ノ木、またお前か」

梨ノ木はにんまりと笑い、その刑事(であるかは不明だが)の肩をごついた。

「あ〜・・・・逆岐(さかき)刑事じゃないですかぁ!いつぶりですかね」

「三週間振りだな・・・・よく、事件に巻き込まれる男だな、全く」

端からみても、呆れた表情を隠せずに唸る姿は、痩せたブルドックのようだ。

「まぁ、お前さんがいると事件もすぐ片付くがな」

逆岐は梨ノ木の傍を離れ、現場である狭いトイレへと向かった。陽子は、右肘で梨ノ木をつつく。

「今のおじさん、何なのよ?」

「ん?どっからみても、警察関係者じゃないか」

梨ノ木のはぐらかし技には、陽子も歯がたたない。

何か言い返そうとしたが、容疑者全員は店の椅子に座るよう告げられた。

逆岐は、座ろうとした梨ノ木に目で来いと合図した。

「殺害されたのは、藤森充刃祢(ふじもりみつはね)。四十三歳。祖父母のどちらかが日本人で、国籍は日本だそうだ」

逆岐刑事は台所の隅で小さな声で話す。

梨ノ木は、うむと相槌を打った。もちろん、陽子は強引にくっついてきた。

「でな、お前さんは知ってるだろうが、仏さん、裏ルートと繋がってたよ。なんでも、うまくブツを流すことで有名だったらしい」

「なんの裏ルートよ?」

逆岐は露骨に嫌そうな顔をし、陽子を眺めた。

「どうでもいいがよ、梨ノ木。この娘っこは容疑者の一人じゃないのか」

その言葉にニヤッと笑うと、陽子を前につきだした。

「いったいわねっ!!なにす・・・・」

「このお嬢さん、携帯と財布、車の鍵しか持ってきてないんだよ。まぁ、検査してみないと分からんが」

梨ノ木は続ける。

「それに、彼女はトイレに入っていない。容疑者から、うまく外れる」

陽子は、梨ノ木がそこにいた人間の行動を記憶していることに驚いた。

逆岐が胡散臭そうに陽子をみていたが、手帳を捲り読みあげた。

「奥道陽子・・・・都内のF大二年生。父は病死、母子家庭。二年前から一人暮らしを始める。現在は、花屋『カリッジ』にアルバイトをしている」

・・・・警察なんだから、調べることなんて朝飯前だとは分かっているものの、良い気分はしない。「親父さんがいたから、簡単に調べられたよ」

陽子は逆岐を睨んだ。

それをみて、逆岐はどこ吹く風と言った様子で手帳を閉じた。

「まぁ、俺は下っ端だからな。上の人間のことなんざ、知らねぇが」

「父と私はもう関係ありませんから」

陽子は不機嫌そうに会釈をして、容疑者の集まるテーブルへと向かった。

梨ノ木は逆岐の肩をつついて、

「何なんですか、このやりとりは。逆岐さん、このお嬢さんとは初対面でしょ?」

と、聞いた。

逆岐は小声で、梨ノ木に耳打ちした。

「あの嬢ちゃんはな、警視庁の本部長さんの一人娘なんだよ。今は、離婚したらしいから一緒に暮らしてはいないだろうが、あの嬢ちゃんは物凄い洞察力で、本部長の浮気を暴いたらしいからな。」

おっと、これは禁句だったと言いながら、逆岐は後を続けた。

「嬢ちゃんには、よく目を光らせておいてくれ。何かのキーポイントになるかもしれん」

梨ノ木はふむと言い、テーブルに向かった逆岐の後ろ姿にボソッと呟いた。

「洞察力だけじゃなく、直感力にも長けているみたいだけど・・・・浮気がバレるのは、女の勘ってヤツでしょうしね」

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