言い返せなかっただけです
それじゃあ、と背を向けて歩き出した2人の背中を見送る。
魔王討伐に関わる人たち。ほとんどの人が私のことを邪魔者扱いしていると思っていた。だけどそうじゃない。
メイドさんや第一騎士さん、第三騎士さん、学者さんなどは、挨拶したり質問をしたりすれば嫌な顔などせずにちゃんと答えてくれる。それはとてもありがたい。彼らみたいに本心は分からずとも、“私に敵意を向けずにいてくれる人もいる”ということは救いだ。
でもそれだけなのだ。元の世界でいう、ただのクラスメイトのようなもの。私と由梨乃ちゃんの関係と同じだ。また、この人たちはまだ言葉を交わせる雰囲気を持っているけれど、他の人たちに至っては私が声をかけられる空気すらない。
皆、私と特別に関わろうとはしない。
この感覚、知っている。
______“無関心”だ。
ちなみに王族やお偉いさん方は本気で邪魔だと思っているようで、親の仇でも見るような目で見られるけど。
私はわりと被害妄想は激しい性質なので、もしかして「不要だから始末しろ」なんて殺されたりしないかちょっとビクビクしている。お偉いさん方だから、彼らに不都合なことって揉み消せそうだし。実は、一週間ほど経った今でも食事の時、
毒が入っていませんように…
入っていたとしても異世界人には効果ありませんように…
な~んて、都合のよい祈りを念じながら口へ運んでいる。
普段信仰心を持っていなくても、困ったときには神頼みをするちゃっかり精神が日本人の強さの秘訣でもあります(憶測)。“祈る”という行為はなんとなく気の休まるものでして、それでいいんじゃないでしょうか。
話は逸れてしまったけど、とにかく、この世界で私に嫌悪感を抱いている人は一部の人たちで、ほとんどの人は無関心。ここで何日か過ごしてそんな印象を持った。
見送った2人の姿が見えなくなった直後。
ヒュッ
という微かな音と共に視界が阻まれ、それと同時に
ガツンッ パラパラパラ…
という嫌な音が自分の真横で聞こえた。
ゆっくりと我に返るのと同時に、先ほど騎士2人が持っていたものとよく似た剣が私の目線と同じ高さで側の壁に突き刺さっているという現状に気がついた。
えっ、えっ、私…今…殺されかけた…?
今頃になってものすごい動悸と冷や汗が全身をめぐり、ギギギッと音が聞こえてきそうな動作で横に顔ごと視線を移してみる。
そこには小麦肌につり目気味の気の強そうな女性が立っていた。紫色の艶やかなロングストレートが風でわずかに揺れている。紅茶みたいな赤みを帯びたブラウンの大きな瞳からは苦々しい色が隠そうともされずに私に向けられている。
この人は…確か討伐チームの女騎士さんだ。つまり第四騎士団副団長補佐。
ちなみに、この世界の騎士は女性も意外と多い。
「あなたはいいわね。求められていることもなく、そんなに呑気に自由にしていられるのだから」
彼女は固まった私の側に来て何事もなかったかのように剣を壁から抜いて腰にしまった。
…まぁ、他の人から見ればそうだろう。皆様、旅に向けて一生懸命準備をしておられる中で私は一人、何一つしていないのだから。しかし文句があるなら何をするべきなのか教えていただきたい。
『えっと…そう仰るなら私は何をするべきなんでしょうか?先日メイドさんにも伺ったら“特にない”と言われたので私もいささか困っているんですけど…』
震えそうな声を何とか抑えて聞いてみる。
「そんなの知らないわよ」
バッサリである。
「どうせ魔術も、剣術や武術の心得もないんじゃ話にならないし、足手まといになるに決まってるんだからついて来ないでほしいのが本当のところよ。いい迷惑だわ」
カチンときたけれど、相手の言い分はもっともだ。
できることならこっちだって行きたくないよ!
な~んて心の中で叫びつつ、小心者の私は何も言い返さずにいると、相手は言いたいことはその嫌味ひとつだけだったらしく、くるりと背を向けて立ち去った。
不愉快っっ!
既に姿が見えないにも関わらず、第四騎士さんが姿を消した方を睨み、立ち尽くすしかなす術がなかった。
くそ、美人だからよけい忌々しいな←
…前言撤回。やっぱり私を毛嫌いしている方は多いみたいです。
しかし、かく言う私も彼らと積極的に関る気も、良く見てもらうための努力をする気もないので、結局私も彼らと同じ。『私だけ仲間外れにするなんて!』とか言う資格は私にはない。私が逃げているのだから。
『仕方ない』
使い慣れたおまじないをこっそり唱えて、“寂しい”という感情から目を背けた。
主人公、すねてます。
討伐メンバーの騎士は4人、第一と第三はまぁまぁ友好的、第二と第四は主人公を良く思っていません。