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戦わずに世界を変えた男――教育と物流で“循環国家”を作ったら、いつの間にか大陸が一つになっていた  作者: 慈架太子


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32 王国のすべての森で魔物狩り

王国各地の森では、地方騎士団による大規模な魔物狩りが始まっていた。


索敵魔法が森全体へ広がる。


「北東にリザード系百二十体。」


「西にオーク系二百五十体。」


「南にボア系百八十体。」


「ベア系三十体を確認。」


「ウルフ系百四十体。」


「ドラゴン系二十体。」


テレパシーによって情報は瞬時に全部隊へ共有される。


「第一隊はオーク系。」


「第二隊はボア系。」


「第三隊はドラゴン系へ向かいます。」


各隊は飛行魔法で森の上空を移動し、魔物を包囲する。


魔物が騒ぎ始める頃には、すでに退路は塞がれていた。


テレキネシスで動きを封じ、水、土、風、火、光、闇の六属性魔法が次々と放たれる。


戦闘は長引かない。


安全を最優先に、一体ずつ確実に討伐していく。


午前だけで数百体もの魔物が倒されていた。


討伐を終えると、その場で解体が始まる。


鑑定スキルで素材を確認し、肉、皮、骨、牙、角、魔石を手際よく取り分けていく。


初めて解体へ参加した騎士たちも、教師の助言を受けながら何度も作業を繰り返した。


その時だった。


「解体スキルを覚醒しました。」


「鑑定スキルを覚醒しました。」


「アイテムボックスを覚醒しました。」


あちらこちらで覚醒の声が響き始める。


解体した肉は種類ごとにアイテムボックスへ収納され、皮、骨、牙、角、魔石も丁寧に整理されていった。


さらに昼食の準備が始まる。


大鍋へボア肉と野菜を入れ、水魔法で湯を張る。


火魔法で加熱し、料理を仕上げていく。


食事を担当した騎士たちからも次々と声が上がった。


「調理スキルを覚醒しました。」


「料理人スキルを覚醒しました。」


「保存食スキルを覚醒しました。」


仲間へ食事を振る舞いながら、多くの騎士が新たな才能を開花させていく。


戦闘だけではない。


討伐し、解体し、運び、調理する。


その一つひとつの経験が、新たなスキルを生み出していた。


数日も経つ頃には、大多数の地方騎士が六属性魔法に加え、索敵魔法、飛行魔法、鑑定スキル、教導スキル、解体、調理、アイテムボックス、テレキネシス、テレパシー、レビテーションなどを覚醒していた。


教導を終えた地方騎士は、今度は地方の衛兵、門兵、自警団へ教え始める。


教育の輪は着実に広がっていた。


王国全体では、一日に数万体もの魔物が討伐される。


大量の肉や素材は各町へ運ばれ、冒険者ギルドには絶え間なく魔石と素材が持ち込まれていた。


肉屋の店先には新鮮な魔物肉が並び、多くの住民が買い求める。


「今日はドラゴン肉も入ったぞ。」


「ボア肉も十分ある。」


「しばらく肉には困らんな。」


冒険者ギルドも、肉屋も、領主も笑みを浮かべていた。


森は安全になり、物流は活発になり、領地の収入も着実に増えていく。


王国騎士団は教導を終えた領地を離れ、新たな赴任地へ飛び立つ。


一つの領地を変えれば終わりではない。


王国全土へ教導を広げるため、七百名の教師たちは今日も空を翔け続けていた。




地方騎士団による魔物狩りが始まって一か月。


王国中の森からは、絶え間なく討伐の報告が届いていた。


リザード系。


ドラゴン系。


ボア系。


オーク系。


ベア系。


ウルフ系。


かつて人々を苦しめてきた魔物たちは、地方騎士団の前では脅威ではなくなっていた。


一日に討伐される魔物は王国全体で数万体。


各領の冒険者ギルドには、朝から晩まで解体済みの肉や魔石、素材が運び込まれる。


「また大型ボアですか。」


「今日はドラゴン系も多いですね。」


「倉庫を増やさないと入り切りません。」


受付職員たちは嬉しい悲鳴を上げていた。


素材不足に悩まされていた頃が嘘のようである。


魔石は魔道具工房へ。


皮や牙、角は職人たちの工房へ。


骨は加工場へ。


肉は町の肉屋や食堂へ次々と運ばれていく。


流通は止まることなく回り続けていた。


肉屋の店頭にも変化が現れる。


「今日はリザード肉が安いよ。」


「ボア肉も十分に入荷した。」


「ドラゴン肉もあるぞ。」


住民たちは以前より気軽に肉を買えるようになり、食卓は豊かになっていく。


食堂では新しい料理も増え始めていた。


魔物肉を使った焼き物。


煮込み料理。


骨から取った濃厚なスープ。


町には活気が戻り、人々の笑顔も増えていく。


その恩恵を最も実感していたのは領主たちだった。


各領から王都へ送られてくる報告書には、同じような内容が並ぶ。


『魔物被害、大幅減少。』


『街道の安全を確認。』


『物流量増加。』


『商人の往来増加。』


『税収増加。』


どの領地でも同じ結果が現れていた。


魔物が減れば、人は森へ入れる。


木材を切り出せる。


狩人は安心して狩りができる。


商人も街道を利用できる。


村と町の往来が増え、経済は自然と活性化していく。


治安にも大きな変化が現れていた。


盗賊団は討伐されることを恐れ、森へ隠れることすらできない。


人攫いたちも飛行魔法と索敵魔法を使う地方騎士団から逃げ切れるはずもなかった。


ある盗賊団の頭目は仲間へ静かに言う。


「この国では、もう無理だ。」


「……勝てるわけがない。」


盗賊団は武器を捨て、国境を越えて他国へ逃げていく。


人攫いも密猟団も、次々と王国から姿を消していった。


地方騎士団はすでに六属性魔法、索敵魔法、飛行魔法、鑑定スキル、教導スキル、テレキネシス、テレパシー、レビテーション、解体や調理など、多くの技術を身につけている。


そして今度は、その知識を地方の衛兵、門兵、自警団へ伝え始めていた。


王国騎士団七百名は、一つの領地で教導を終えると次の赴任地へ飛び立つ。


教師が移動すれば、その土地に新たな教師が育つ。


教導は途切れることなく受け継がれ、王国全土へ広がっていく。


王国は今、武力だけではなく、教育によって強くなる時代を迎えようとしていた。




王国各地で教導が始まって二か月。


地方騎士団から育った教師たちは、今度は地方の衛兵、門兵、自警団へ教導を始めていた。


町の演習場。


城門前の広場。


村の集会所。


教導の場は領都だけではない。


王国中へ広がっていた。


「まずは魔力循環から始めましょう。」


地方騎士団の教師が穏やかに声を掛ける。


衛兵たちは姿勢を正し、教えられた通りに魔力を巡らせ始めた。


「力を入れ過ぎなくて大丈夫です。」


「ゆっくり続けてみましょう。」


教師は一人ひとりの様子を確認しながら助言を続ける。


教導を受ける者たちも真剣だった。


町を守るのは自分たちである。


その責任を誰もが理解していた。


数日もすると、覚醒する者が現れ始める。


「水属性を覚醒しました。」


「土属性を覚醒しました。」


「風属性を覚醒しました。」


覚醒の声は次々と広がり、多くの衛兵が六属性魔法への第一歩を踏み出していく。


さらに索敵魔法も教えられる。


「町の外だけではありません。」


「人の流れを把握することも大切です。」


索敵魔法を展開すると、町の出入口や市場、人通りの多い通りまで魔力の反応が映し出される。


衛兵たちは驚きながらも、その便利さをすぐに理解した。


「これなら迷子の子どもも探せます。」


「事件が起きても、すぐ駆け付けられます。」


教師は微笑みながら頷いた。


「その通りです。」


「戦うためだけではなく、人を守るためにも役立ちます。」


教導はさらに続く。


テレパシー。


テレキネシス。


レビテーション。


飛行魔法。


鑑定スキル。


解体スキル。


調理スキル。


教導スキル。


実践を重ねるたびに、新たな覚醒が各地で続いていた。


「テレパシーを覚醒しました。」


「飛行魔法を覚醒しました。」


「教導スキルを覚醒しました。」


衛兵だけではない。


門兵も、自警団も、教導を受けた者の大多数が新たな技術を身につけていく。


その結果、町の様子も変わり始めた。


門兵は入城する荷馬車を鑑定スキルで確認し、不審な荷物がないか調べる。


衛兵は索敵魔法で町を巡回し、異変を見つけるとテレパシーで瞬時に仲間へ知らせる。


自警団も飛行魔法を使って周辺の村々を見回り、困っている住民がいればすぐに駆け付けた。


犯罪者にとって、この王国は急速に居場所を失いつつあった。


盗賊も、人攫いも、密猟団も、索敵魔法から逃れることはできない。


飛行魔法で追いつかれ、テレキネシスで動きを封じられる。


抵抗する前に拘束される者がほとんどだった。


教導とは、一人を強くするためのものではない。


学んだ者が教師となり、さらに次の世代へ伝えていく。


その循環が王国中で生まれたことで、安全は町から村へ、村から街道へと広がり続けていた。




王国各地で始まった教導は、半年も経たないうちに大きな成果を上げていた。


地方騎士団から衛兵へ。


衛兵から門兵へ。


門兵から自警団へ。


教導は途切れることなく受け継がれ、それぞれの町や村で新たな教師が育っていく。


もはや王国騎士団だけが教師ではない。


地方騎士団も、衛兵も、自警団も、人へ教えることのできる集団へと成長していた。


その頃、王都では定例報告会が開かれていた。


国王の前には、各領から届けられた報告書が積み上げられている。


宰相が報告を始めた。


「各領とも魔物討伐は順調です。」


「王国全体では、一日に数万体の魔物を討伐しております。」


別の文官が続ける。


「街道の安全も確保されました。」


「物流量は大幅に増加しております。」


さらに財務担当の文官が口を開く。


「商取引が活発になり、税収も順調に伸びています。」


国王は静かに頷いた。


「民の暮らしはどうだ。」


「はい。」


「肉の流通量が増え、食生活は大きく改善しております。」


「森へ入る者も増え、木材や薬草などの採取も活発になりました。」


「各地の商会からも好評です。」


報告はそれだけでは終わらない。


「犯罪発生件数も大幅に減少しております。」


「盗賊団の壊滅、あるいは国外への逃亡が相次いでおります。」


「人攫いも同様です。」


その場にいた重臣たちは互いに顔を見合わせた。


数年前までは考えられなかった報告ばかりである。


魔物に苦しみ、盗賊に悩まされていた王国は、確実に変わり始めていた。


一方、国境付近。


数人の盗賊が荷物を抱えながら山道を急いでいた。


「急げ。」


「もう王国には戻れない。」


仲間の一人が息を切らしながら尋ねる。


「本当に、そこまで強いのか。」


頭目は苦々しい表情で頷いた。


「索敵魔法で見つかる。」


「飛行魔法で追いつかれる。」


「テレパシーで逃げ道も塞がれる。」


「勝てる相手じゃない。」


短く呟く。


「……勝てるわけがない。」


盗賊たちは振り返ることなく国境を越えていった。


その頃も、王国騎士団七百名は空を飛び続けている。


教導を終えれば、次の領地へ。


新たな教師を育てれば、さらに次の町へ。


一か所に留まることはない。


教師が移動するたび、その土地には新しい教師が残る。


その教師が、さらに次の教師を育てる。


教導は王国全土で循環し始めていた。


国を守るのは、一握りの英雄ではない。


学び続ける人々である。


教える者が増えれば、学ぶ者も増える。


学ぶ者が増えれば、王国はさらに豊かになっていく。


こうして王国は、武力だけではなく、教育によって支えられる国へと着実に歩み始めていた。





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