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配信者ランキング1位の俺、 実はリアルダンジョンを VR配信だと思われている  作者: 八乙女モモ


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第49話 ダンジョンに行こうとしたら、変な仮面の女の子が出てきた

 今日はS級ダンジョンの配信日だった。


 俺は、いつも通り、装備を整えて家を出た。


 今日の目的地は、神奈川県のS級ダンジョン。


 名前は『深淵の墓所』。


 最近、発見されたばかりで、まだ、誰も踏破していないらしい。


 俺はそこに向かっていた。


 肩には、フクロウ姿のノアがいる。


「ノア、配信回して」


『はい』



┏━━━━━━━━━━━━━━━┓

      LIVE

┗━━━━━━━━━━━━━━━┛


>【草の民】キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!


>【攻略ガチ勢】今日もRENが平常運転で安心するわ


>【海外視聴者】HE'S LIVE!! After all this Null thing???


>【ノア推し】ノアちゃん、おはよう!


>【ルカたん】……今日は、新しいダンジョンなんですね


>【陰謀論者】昨日のNullの声明の翌日に、堂々と新ダンジョン。これは挑発か?


>【攻略ガチ勢】陰謀論者、お前、深読みしすぎ


┗━━━━━━━━━━━━━━━┛



「こんにちは。今日は新しいダンジョンに行きます。『深淵の墓所』、S級です」


 俺は、カメラに軽く手を振った。


 昨日の、Nullの声明のことには触れなかった。


 ……話しても、よくわからないし。


 ……俺に関係ないし。


 たぶん。


『マスター。コメント、すごい勢いですよ』


「うん。みんな、元気だな」


 俺は、頷きながら、ダンジョンの入り口に向かった。


 岩肌に、ぽっかり、開いた、大きな穴。


 奥が、真っ黒で何も見えない。


 ……お、深そう。


 俺は、久しぶりのダンジョンだったので、ちょっと楽しみになった。


 でも。


 俺の足が止まった。


 その、入り口の前に。


 人が立っていたからだ。


 さっきまで誰もいなかったのに。



   ◆ ◆ ◆



 黒いマント。


 顔を覆う、白い仮面。


 仮面には、目と口の部分だけ、細い切れ込みが入っている。


 ……小さい。


 マントから、はみ出した、肩や首が、すごく細いな。


 たぶん、女の子だ。


 しかも、たぶん、俺よりずっと小柄。擬人化したノアくらいか?


 マントの隙間から、長い金色の髪が、ちらっと見えた。


 そして、その、小さな体の横に。


 大きな、鎌が、立てかけてあった。


 いや。


 立てかけて、あるんじゃ、ない。


 その子が、両手で、持っていた。


 自分の身長より、ずっと、大きな鎌。


 刃が、月みたいに湾曲していて、黒く光っている。


 ……うわ、こわい。


 ……重くないのかな、それ。


「えっと」


 俺は、言った。


「ダンジョン、入りたいんだけど」


「…………」


 仮面の女の子が、無言で俺を見た。


 それから、ぴしり、と、姿勢を正した。


 すごく、丁寧な、お辞儀をした。


 なんか、武道家みたいなお辞儀だった。


 そして、口を開いた。


 加工された声だった。


 でも、加工の奥に、幼い女の子の、声がちょっとだけ、にじんでいた。


「配信者、REN殿」


「うん」


「お会いできて、光栄であります」


「うん?」


「私は、Null第四席、ステラと申します」


「うん」


「本日は、組織の命により、貴殿の()()()に、参った次第であります」


「……」


『……マスター』


 ノアが、肩の上で、低くつぶやいた。


『この人、Nullですね』


「うん。たぶんね」


『あと、たぶん、すごく、真面目な人ですね』


「うん。武道家みたい」


 俺は頷いた。


 ……あー。


 ……来ちゃったかあ。


 昨日、霧島さんが「変なことあったら、すぐに連絡して」って、言ってた。


 ……これ、変なことだよな。


 俺は、ちょっと、考えた。


 でも、目の前の女の子、すごく、礼儀正しい感じだし、話の途中で、スマホいじったら、失礼かな、と思った。


 ……霧島さんには後で、連絡しよう。


 俺は、そう、決めた。


「えっと、ステラさん?」


「ステラで、結構であります」


「うん。ステラ」


「光栄であります」


「いや、別に、光栄、じゃなくて」


『……マスター。一回、深呼吸させた方がいいかもしれません』


「うん」



   ◆ ◆ ◆



>【攻略ガチ勢】え、何これ


>【海外視聴者】WAIT WHO IS THAT


>【ノア推し】仮面の女の子……まさか!? 美少女の予感!


>【陰謀論者】これ、Null幹部か!? マジで来たのか!?


>【ルカたん】え、え、危険……ですよね


>【草の民】RENさん、これ、配信切った方がいいんじゃ……


>【攻略ガチ勢】落ち着け、RENは平常運転だ。たぶん、大丈夫だ。たぶん



 配信のコメントが、すごい勢いで流れていた。


 みんな、心配してくれてるらしい。


 ……ありがたいな。


 俺は、ステラに、向き直った。


「で、品定めって、何するの?」


「はい。手順を、ご説明いたします」


 ステラが丁寧に説明しはじめた。


「本日、当組織のボスより、貴殿への品定めの命を受けて参りました」


「うん」


「方法は、ダンジョン氾濫、すなわち、ブレイクの誘発であります」


「ブレイクね」


「ダンジョンの内部から、上位のモンスターを、外界に出します。それを、貴殿がいかに、対処するかを見極める所存であります」


「ふうん」


「なお、私は、戦闘には参加いたしません」


「あ、そうなの?」


「はい。本日は品定めであります。試験官が試験を受ける者と戦うのは不正で、あります」


「真面目だな」


「真面目さは、第四席の矜持であります」


「ふうん」


『……マスター。この人、想像していたNullと、だいぶ、印象違いますね』


「うん。なんか、いい子っぽい感じがする」


『……いい子だから、組織の命令を真面目に、こなしに来てるんですよ』


「あー。確かに」



   ◆ ◆ ◆



「では、開始、いたします」


 ステラが、片手を上げた。


 大きな鎌を、片手で、軽々と持ち上げた。


 ……あ、ちゃんと持てるんだ。


 ……強そう。


 ステラが、もう片方の手で、印を結んだ。


 ダンジョンの奥から。


 ずしん、と、地面が揺れた。



   ◆ ◆ ◆



 ずしん。


 ずしん。


 ずしん。


 地面が、規則正しく、揺れる。


 何かが、奥から、近づいてくる。


 大きな、何か。


 ……ものすごく、大きな、何か。


 ダンジョンの、入り口の、暗闇から。


 それは、姿を現した。


 巨人だった。


 全長、十メートルを超える。


 灰色の、岩のような肌。


 太い、四本の腕。


 目は、四つ。


 口の中に、鋭い牙がびっしり生えている。


 ギガントトロール。


 本来、S級ダンジョンの、最奥にいるはずのボスモンスターだ。


 それが、今、ダンジョンの、外に出てきていた。


 ……ブレイク。


 ノアが、頭の中でつぶやいたのがわかった。


『マスター。これ、ブレイクです。ステラさんが起こしました』


「うん。たぶんね」



>【攻略ガチ勢】!?


>【攻略ガチ勢】ギ、ギガントトロール!? なんでS級のボスが、入り口に!?


>【海外視聴者】WHAT THE FUCK IS THAT


>【陰謀論者】ブレイクだ! Nullが起こした! 昨日と同じ!


>【ルカたん】RENさん、逃げて……っ、


>【ノア推し】ノアちゃん、マスターを守ってあげて……! 


>【草の民】これ、本物じゃないか? いきなりボス戦か……! 



 配信のコメントが、爆発していた。


 でも、俺は、ぼんやり、ギガントトロールを見上げていた。


 ……でかいな。


 ……あれ、上見ると、首痛くなりそう。


「ステラ」


 俺は、聞いた。


「これ、俺、倒せばいいの?」


「はい。可能であれば、お願いいたします」


「うん」


 俺は、頷いた。


 ギガントトロールが、咆哮を上げた。


 地面が震えた。


 風が、ぶわっと、吹いた。


 ……こいつうるさいな。


 俺は、ちょっと、顔をしかめた。


「ノア」


『はい』


「さっさと、終わらせよう。声大きいし、うるさいから」


『……はい。マスター』


「コメント、読みながらでいい?」


『はい。普段通りで、結構です』



   ◆ ◆ ◆



 ギガントトロールが、四本の太い腕を振りかぶった。


 俺に向かって、振り下ろそうとした。


 拳が、家一軒分くらい、ある。


 当たれば、人間なんか、ぺしゃんこだ。


 でも。


 俺は、避けなかった。


 拳が、振り下ろされる、その、一瞬。


 俺は、軽く、地面を蹴った。


 ふわっ、と。


 ギガントトロールの、頭の上に、跳んだ。


 十メートル以上の高さを、一瞬で超えた。


 空中で、俺は、ギガントトロールの、後ろ側を見下ろした。


 ……あれだ。


 首の、後ろ。


 うなじの、あたりに。


 他の岩肌と色の違う、柔らかそうな部分が、あった。


 これがギガントトロールの、弱点。


 ……確か、ノアが、前に言ってたな。


 ……「ギガントトロールは、首のうなじが、弱点」って。


 俺は、空中で、虚空断ちを抜いた。


 ギガントトロールの、うなじに向かって、まっすぐ落ちた。


 そして、剣を振り下ろした。


 ザシュ、と。綺麗に切れる音がした。


 ギガントトロールが、止まった。


 そして。


 巨大な頭が、ゆっくりと地面に落ちた。


 ずん、と、地響きが、した。


 胴体も、その後、ゆっくり倒れた。


 俺は、その、上から、ぴょん、と、地面に降りた。


「ふう」


 俺は、剣を収めた。


 ギガントトロールが、光の粒子になって消えていった。


 しん、と、静かに、なった。



   ◆ ◆ ◆



 ステラが、固まっていた。


 仮面の、目の、切れ込みの奥で。


 たぶん、目を、見開いている。


 手に持った大きな鎌が、ちょっと、震えていた。


「えっと、ステラ」


「……は、はい」


「これで、いい? 品定めはこれで終わり?」


「…………」


 ステラが、しばらく、無言だった。


 それから、ぽつり、と、言った。


「……規格外、と、聞いてはおりましたが」


「うん」


「……一撃」


「うん」


「……空中から、一刀で、弱点を正確に」


「うん。ノアが、教えてくれてたから」


『はい。ギガントトロールの弱点は、首のうなじです。マスターは、それを覚えていただけです』


「うん」


「……」


 ステラが、また無言になった。


 仮面の、口の切れ込みから。


 小さな声が漏れた。


 加工が、ちょっと緩んだ気がした。


「……()()……」


「うん?」


「い、いえ、何でも、ありません」


 ステラが、慌てて、咳払いをした。


 加工された声が、戻った。


「失礼、いたしました。報告に戻ります」


「うん」


「貴殿への、品定めの、結果は」


 ステラが、ぴしり、と、姿勢を、正した。


「『規格外。組織にとって、最大の障害となる可能性、極めて、高し』。以上で、あります」


「ふうん」


「では、これにて、失礼つかまつる」


「あ、ちょっと、待って」


「……はい?」


「ステラ、()()()()()()()?」


「……は?」


「いや、お昼前だし。なんか、長話しちゃったし」


「…………」


 ステラが固まった。


 仮面の奥で、たぶん、ものすごく、混乱していた。


「あ、あなた、私、敵組織の人間ですよ?」


「うん。知ってる」


「敵に、食事を提供される、義理は」


「いや、義理じゃなくて、お腹すいたから。一人より、二人の方が、おいしいし」


「…………」


「ノア、瑠花さんの、お弁当、まだ、残ってたよね?」


『……はい。残ってます』


「ステラ、食べる?」


「…………」


 ステラが、無言だった。


 それから、ぽつり、と、つぶやいた。


「……あの、その。話の流れが、まったく、読めない、のでありますが」


「うん。よく、言われる」


『……ステラさん。マスターは、こういう人です。慣れてください』


「な、慣れる、のでありますか」


『……たぶん、いずれ』


「いずれ、とは」


『……いえ。なんでも』


 ステラが、すごく、困った感じで、立っていた。


 それから、ぐっ、と、握り拳を、作って、首を振った。


「いえ、本日は、職務中で、あります。失礼、つかまつる」


「あー、職務、ね」


「? はい、職務、で、あります、が」


「あ、ごめん、こっちの話」


『……マスター。お弁当、誘うの、もう、やめてください。話が進みません』


「うん」


 ステラが、頭を、深く、下げた。


 マントを翻して、暗闇に、溶けるように、消えていった。


 ……あ。


 ……消えた。


 ……すごいな、あの子。


 ……マジシャンみたい。


 俺は、ぼんやり、そう思った。



   ◆ ◆ ◆



>【攻略ガチ勢】ちょっと待て、整理させてくれ


>【攻略ガチ勢】1) Null幹部「ステラ」がREN本人に接触。2) ギガントトロールをぶつけてきた。3) RENが一撃で倒した。4) Nullが「規格外」と判定して撤退


>【攻略ガチ勢】これ、世界が、ひっくり返るレベルの配信、回ってるよな?


>【海外視聴者】This is the moment. We just watched history


>【陰謀論者】Mercyの「本物だ」が、世界の前で、ついに、証明されたか


>【holodive_master】Null幹部「ステラ」。第四席。すごい情報が流れたぞ


>【ノア推し】ステラちゃん、礼儀正しすぎでは……?


>【ルカたん】RENさん、本当に、ご無事で……


>【草の民】最後、お弁当誘ったの、何でだよwww


>【攻略ガチ勢】↑その「いつも通り」が、Nullへの、最大の回答なんだよな



 俺は、コメントを、ちらっと、見て、頷いた。


「みんな、ありがと。心配かけて、ごめん」


『マスター、配信、切ります?』


「うん。切って」


 俺は、配信を切った。


「ふう。お腹すいた」


『……マスター。Nullの幹部と会って、S級のボスと戦った、直後の感想がそれですか』


「うん。だって、お腹、すいたし」


『……まあ、マスターは、それで、いいです』


 俺は頷いた。


 今日はダンジョンには入らなかった。


 なんか、気分が、削がれた。


 ……今日は、もう、いいや。


 ……帰って、お弁当食べよう。


 俺は来た道を戻ろうとしていた。



   ◆ ◆ ◆



 その時。


 遠くから、誰かが走ってくる音が聞こえた。


「蓮さん!!」


 白波さんだった。


 息を切らして、駆けつけてきた。


 剣を握っている。


 戦闘装備だった。


 顔が、真っ青だった。


「蓮さん! ご無事ですか!? 配信見てすぐ来ました!」


「お、白波さん」


「Nullが、出てきたって! ギガントトロールが!」


「うん。さっき、倒したよ」


「……え?」


「もう、終わった。Nullの子、帰ったし」


 白波さんが、ぴた、と、止まった。


 俺の、周りを、見回した。


 戦闘の痕跡は、ほとんど、なかった。


 ギガントトロールは、光になって、消えた。


 Nullの幹部も、闇に溶けて消えた。


 ただ、ダンジョンの入り口の、地面が、ちょっと抉れているだけ。


「……本当に、終わってる」


「うん」


「……一人で、ですか」


「うん。なんか、来ちゃったから」


「…………」


 白波さんが、しばらく、無言だった。


 それから、ぽつり、と、つぶやいた。


「……私、いらなかったですね」


「え?」


「いえ、何でも、ないです」


 白波さんが笑った。


 でも、その、笑顔は、ちょっと、寂しそうだった。



   ◆ ◆ ◆



「蓮さん」


「うん?」


「次は、その。一緒に、戦わせてください」


「うん?」


「私たち、戦友なので。一人で、抱え込まないでください」


 白波さんが、まっすぐ、俺を見た。


 胸元で、何かが、淡く光った。


 ……あ。


 ……魔石の、ネックレスだ。


 先日、俺が渡したお礼の品。


 白波さんは、ちゃんとつけてきていた。


「うん。次は、声かけるよ」


「……約束、ですよ?」


「うん」


「ふふ」


 白波さんが、笑った。


 今度は、ちゃんと、嬉しそうだった。


 ……まあ、Nullが、また来るなら。


 ……白波さんと、一緒の方が、賑やかかもな。


 俺は、ぼんやり、そう思った。



   ◆ ◆ ◆



 その時。


 俺の、スマホが鳴った。


 霧島さんからの、着信だった。


 スマホを見たら、霧島さんから何十件も着信が入っていた。


「あ、霧島さん」


『……マスター。たぶん、AEGIS内部は大騒ぎですよ』


「あー、そうかも」


 俺は、スマホを取った。


「もしもし」


『蓮さん!!! ご、ご無事ですか!? 配信見ました! Nullが! 幹部が!』


 霧島さんの、声が、ものすごい勢いだった。


 息も、絶え絶え、だった。


「うん。元気だよ」


『よ、よかった……っ』


「あ、霧島さん」


『はい!』


「変なこと、あったら、すぐ、連絡してって、言ってたよね」


『……はい』


「ごめん。さっき、Nullの幹部、来てた」


『…………』


「連絡、後回しにしちゃった」


『…………蓮さん』


「うん?」


『次は、戦う、前に、連絡してください……っ』


「あー。ごめん」


 俺は、頭を掻いた。


 ……怒られた、たぶん。



   ◆ ◆ ◆



 俺は、白波さんと、一緒に駅まで戻った。


 その間、霧島さんは、ずっと、電話の向こうで、いろいろ聞いてきた。


 Nullの幹部はどんな人だったか。


 何を言ってたか。


 ギガントトロールは、本物だったか。


 俺は、覚えてる範囲で、ぜんぶ答えた。


 でも、半分くらい、忘れていた。


 ノアが、横から補足してくれた。


 ……ノアは本当に頼りになるな。


 俺は感心してた。



   ◆ ◆ ◆



 その頃。


 Nullの、本拠地。


 場所は、誰も知らない。


 暗い部屋の中央に。


 円卓があった。


 五つの椅子が並んでおり、一人一人座っていた。


 全員が黒いマントを纏っていた。


 でも、その中の、一つだけ。


 椅子が、ひときわ大きく。


 座っている人物だけ仮面が違った。


 見た人を圧倒する派手な装飾で、威厳があった。


 Nullのボス。


 その声から、それが、女性であることがわかる。


 でも、それ以上は、何もわからない。


 ボスが、ゆっくり口を開いた。


「ステラ。報告を」


 五人いる中で、最も小柄な人物が、立ち上がった。


 ステラだった。


 ピシリと、姿勢を正した。


「はい。対象REN、本物でありました」


「ほう」


「ギガントトロールを、一撃で撃破。空中より、弱点を正確に、見抜き、一刀で」


「……ふむ」


「動揺も、恐怖も、皆無。むしろ、終了後、私に、食事を提供しようとしました」


「……は?」


 別の幹部が、口を挟んだ。


 低い、男の声。


 戦略家、コルヴスだった。


「食事を、提供? 敵組織の幹部に?」


「はい。お弁当を一緒に食べないか、と」


「……理解、できんな」


「私も理解、できませんでした」


 別の幹部が、大笑いした。


 太くて、明るい、男の声。


 巨体の、オリオンだった。


「ガハハハ! なんだそりゃ! 面白い男じゃねえか!」


「オリオン、笑い事じゃ、ない」


 コルヴスが、ため息をついた。


「ステラ。それは、品定めの最中の出来事か」


「いえ、品定め、終了後で、ありました」


「ふむ。つまり、敵対関係を認識した上で、なお、敵に食事を提供しようと、した、と」


「はい」


「……」


 コルヴスが、しばらく考え込んだ。


「危険だな」


「は?」


「あの、男。底が見えん」


「ガハハ! じゃあ、俺が行ってやろうか?」


 オリオンが、立ち上がろうとした。


「やめろ、オリオン」


 別の、声が止めた。


 今度は、女性の声だった。


 冷たく、鋭い声。


 Null内で最強の戦闘力を持つヴェガだった。


「あの男は、お前の相手じゃない」


「あ? ヴェガ、俺を、舐めるなよ」


「舐めてない。ステラの報告を、聞いた限り、あれは」


 ヴェガが、ゆっくり、続けた。


「私と互角か。あるいは、それ以上、だ」


 円卓が、静まり返った。



   ◆ ◆ ◆



「面白い」


 ボスが、ぽつり、と、つぶやいた。


「ノアは、よい、主人を得たな」


「……?」


 ステラが、首を傾げた。


「ボス、今、ノア、とおっしゃいましたか」


「ああ」


「あの男の、相棒の生き物のことで、ありますか」


「……生き物、か」


 ボスが、低く笑った。


「そう、思っているのならそれでいい」


「? はい?」


「気にするな、ステラ。お前はよくやった」


「は、はい」


 ステラが、座り直した。


 他の幹部たちは、誰も、ボスの言葉の意味を深く追及しなかった。


 ただ、コルヴスだけが。


 仮面の奥で、目を細めた。


「では、計画を、第二段階に移そう」


 ボスが、続けた。


「次は、品定めではない。本格的に接触する」


「はい」


「ステラ。お前が、引き続き対象との、最前線に立て」


「は」


 ステラが、ぴし、と、頷いた。


「次は、戦闘も辞さん。あの男の、本気を引き出せ」


「了解、いたしました」


「下がってよい」


 ステラが、頭を下げて退室した。


 円卓には、ボスと、三人の幹部が、残った。


 しばらく、無言が続いた。


 それから、ボスが、ぽつり、と、つぶやいた。


「……REN、か」


 その、声には。


 怒りも敵意もなかった。


 ただ、わずかに。


 懐かしむような、響きがあった。


 でも、誰も気づかなかった。



   ◆ ◆ ◆



 俺のアパート。


 夜、俺は、お弁当を食べていた。


 瑠花さんのお弁当。


 今日も相変わらずうまい。お弁当のクオリティがどんどん上がっている気がする。


「ノア」


『はい』


「ステラ、また来るのかな」


『……絶対来ると思いますよ。あの感じ』


「ふうん」


「めんどくさいな」


『……ですよね』


「でも、まあ、来たら対処するか」


『はい』


「あと、次は、白波さんに声かける」


『……約束しましたしね』


「うん」


「あと、霧島さんに、先に連絡する」


『……それも、約束しましたね』


「うん」


 俺は、卵焼きを口に入れた。


 ……今日も、うまい。


 ……平和、だな。


 太平洋の、向こうで、Mercyが、トレーニングしている、頃かもしれない。


 AEGISが、大慌てで、対策を、考えている、頃かもしれない。


 Nullが、次の、計画を、練っている、頃かもしれない。


 でも。


 俺は、布団に潜って、卵焼きを食べていた。


 ……ステラ、お弁当食べたかったかな?


 ……今度会ったら、また聞いてみよう。


 俺は、ぼんやりそう思った。


 でも、たぶん、明日も。


 何か、変なことが、起きるんだろうな、と。


 なんとなく、思った。


 退屈しないし。


 まあ、いいや。


 卵焼きが、おいしいうちは。


 たぶん、なんとかなる。



━━━━━━━━━━━━━━━━

   配信アーカイブ・コメント(その後)

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>【攻略ガチ勢】今日の配信、ホロダイ史を書き換えたわ


>【海外視聴者】We saw a Null Executive in flesh. Her name is Stella. Fourth seat


>【ノア推し】ステラちゃん、まじめなのに、最後RENにペース崩されてたの可愛かった


>【陰謀論者】「Null第四席ステラ」。第四ってことは、上に、三人いる。さらにボス。計、五人か


>【ルカたん】無事でよかった……


>【holodive_master】Mercyも、AEGISも、ついに、世界が、RENを認めた。Nullが「規格外」と公言した瞬間、全部の決着がついた


>【草の民】で、当のRENは、今日もお弁当食べて、寝てるのかな?


>【攻略ガチ勢】↑その「いつも通り」が、Nullへの、最大の回答なんだよな


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