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配信者ランキング1位の俺、 実はリアルダンジョンを VR配信だと思われている  作者: 八乙女モモ


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39/67

第39話 ホロダイで来たことのある場所、本物で来てみた

 午前八時。


 俺は、最寄り駅で白波さんと待ち合わせていた。


 白波さんは、八時ちょうどに来た。


 今日の服装は、ダンジョン探索用の本格的な装備だった。動きやすい黒のパンツに、軽い革のジャケット。リュックは前より大きめ。腰に長めの直剣をちゃんとした鞘で提げている。


 仮資格の時とは、明らかに装備が違う。


 ……正規の探索者、っていうのは、こういう感じなのか。


「おはようございます」


「おはよう」


「あの、装備、ちゃんと揃えてみました」


「うん。似合ってる」


「……っ、ありがとうございます」


 白波さんが、ちょっと、頬を赤くした。


 俺はノアを肩に乗せて、いつも通りの黒パーカーと、虚空断ち。


 白波さんが、俺の格好をじっと見ていた。


「あの、蓮さんって、いつも、その格好ですよね」


「うん」


「探索者になっても、変わらないんですね」


「うん。慣れてるから」


「……装備、もうちょっと、ちゃんとしたものにする予定はないんですか?」


「えっと」


『マスター(笑)。つむぎさんが、遠回しにコーディネートの提案をしてくれてますよ』


「あ、そう?」


『はい。今度、一緒に買い物に、お付き合いいただいた方がいいかもしれません』


「……うん、考えとく」


 白波さんが、ふっと、笑った。



   ◆ ◆ ◆



 目的のダンジョンは、千葉県の山の中にあった。


 駅から電車を乗り換えて、バスに乗って、登山道をしばらく歩いた先。


 観光地化はされていないけど、それなりに探索者が出入りする、中規模のダンジョン。


「ここです」


 白波さんが、ダンジョンの入口を、指差した。


 岩肌に空いた、人ひとり通れるくらいの穴。


 中から、ひんやりした空気が、流れてくる。


 苔の匂い。湿った土の匂い。


 俺には、見慣れた光景。


 でも、白波さんは入口の前でしばらく立ち止まっていた。


「……」


「白波さん?」


「……ここ、ホロダイで、何百回も来ました」


「ふうん」


「『翡翠の樹海(ひすいのじゅかい)』。ホロダイの中盤の、人気フィールドです」


「ふうん」


「私、このダンジョンを、世界で一番早くクリアしたプレイヤーの一人なんです」


「すごいな」


「……でも、本物の入口を見るのは、今日が、初めて」


 白波さんは、入口の岩肌に手を触れた。


 しばらく、撫でていた。


 ホロダイの中で、何百回も、見たはずの景色。


 でも、本物の質感は、たぶん、初めて感じる。


「蓮さん」


「うん」


「これ、本当に、入っていいんですよね」


「うん」


「もう、私、仮資格じゃないから、入っていいんですよね」


「うん。白波さんの判断で入れる」


「……はい」


 白波さんは、深呼吸を、ひとつした。


 それから、一歩、前に踏み出した。


 ダンジョンの入口に、初めて自分の意思で足を入れた。



   ◆ ◆ ◆



「ノア、配信回す?」


『はい。準備できてます』


「白波さん、配信回していい?」


「はい。今日は回してください」


「うん」


 ノアが、目から淡い光を出した。


 光が、ふわっと、空中に配信用のカメラを構成した。


 ダンジョンの中で、配信が始まった。



┏━━━━━━━━━━━━━━━┓

      LIVE

┗━━━━━━━━━━━━━━━┛


>【草の民】キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!


>【攻略ガチ勢】RENの久しぶりの配信。今日はコラボか?


>【ノア推し】白波さんと一緒だ! しかも、ダンジョン!


>【holodive_master】あれ、これ、翡翠の樹海じゃない? ホロダイの中盤の人気フィールド


>【ルカたん】¥30,000「お二人とも、気をつけてください」


┗━━━━━━━━━━━━━━━┛



「こんにちは。今日は、コラボです」


「白波さんが、正式に探索者になったので、その、お祝いっていうか」


『マスター(笑)、つむぎさんも、ご挨拶どうぞ』


「あ、はい。白波つむぎです」


 白波さんが、カメラに、ぺこっと、お辞儀した。


 今日の白波さんは、ホロダイの配信のときとは、ちょっと、違う雰囲気だった。


 ホロダイの配信は、明るく、テンション高めで解説が丁寧。


 今日は、もう少し、緊張感がある。


 たぶん、本物の探索者としての、初めての配信だからだ。



>【草の民】白波さん、いつもと雰囲気違くない?


>【holodive_master】ホロダイの白波さんは、もうちょっと、明るい感じだよ


>【攻略ガチ勢】これは、リアル仕様の白波つむぎ、ということか


>【ノア推し】緊張してる感じが伝わる



「白波さん、今日のダンジョン紹介してくれる?」


「はい。ここは、千葉県の山中にある、C級ダンジョンです」


「ホロダイ的には、『翡翠の樹海』っていうフィールドに設定されています」


「リアルのこのダンジョンを、ホロダイの開発チームが取材して、ゲームの中に再現したらしいです」


『ほう。ホロダイは、リアルのダンジョンを取材してるんですね』


「はい。ホロダイは、リアル志向のVRゲームなので」


『ほう、リアル志向、ですか』


「……あの、ノアちゃん、なんで、ちょっと、含み笑いみたいな声出してるんですか」


『気のせいです、つむぎさん』



>【草の民】ノアちゃんの含み笑いwww


>【攻略ガチ勢】「リアル志向」の話題に、ノアちゃんが反応した、これは何かありそうだな


>【陰謀論者】ノアちゃんは、知ってる。全部、知ってる


>【ルカたん】……



 俺は、ノアの含み笑いの意味が、半分くらいわかった。


 半分は、まだわからない。


 でも、白波さんは、たぶん、全部わかっていた。


 白波さんは、リアルとホロダイの違いを誰よりも知っている。


 でも、それを、配信中に口に出すことはしない。


 ……白波さんも、共犯者、だ。


 俺は、なんとなく、それを感じた。



   ◆ ◆ ◆



 ダンジョンに、入った。


 通路は、緑色の苔に覆われていた。


 壁から、淡い光を放つ、植物の蔓が垂れていた。


 空気は、しっとりと湿っている。


 深いところから、何かの鳴き声が、ぼんやり、聞こえてくる。


「……」


 白波さんが、しばらく、立ち止まっていた。


「蓮さん」


「うん」


「これ、ホロダイの再現度、完璧、です」


「ふうん」


「光の蔓の色も、苔の質感も、空気の温度も、全部、ホロダイで体験したのと、一緒です」


「ふうん」


「でも、匂いだけ、違います」


「匂い?」


「ホロダイは、匂いの再現が、まだできないんです。技術的に、難しくて」


「ふうん」


「本物のここの匂い、こんなだったんだ」


 白波さんは、深呼吸を、ひとつ、した。


 目を閉じて、ゆっくり、息を吐いた。


 ……たぶん、ホロダイで、何百回もクリアしてきた場所が、本物の質感を、伴って、白波さんの中に、入ってきている。


 俺は、何も言わず、横で待っていた。



>【攻略ガチ勢】白波さん、深呼吸してる。本物の感動が、伝わってくる


>【holodive_master】これ、ホロダイのプロが「リアルダンジョン」を初めて体験する瞬間か。歴史的だ


>【ノア推し】白波さんの感動、いいね


>【ルカたん】……



 白波さんが、目を、開けた。


「行きましょう」


「うん」


 白波さんは、剣を、抜いた。


 仮資格時代に使っていた剣じゃない、ちゃんと自分で買った新品の剣だ。


 握り方が、安定している。きっと練習したんだろう。


 ……前のときとは、もう違う。



   ◆ ◆ ◆



 最初のモンスター。


 通路の奥から、緑色の犬のような生き物が走って現れた。


 四足歩行で、背中に、苔のような毛が生えている。


「あ、フォレストハウンドです」


「うん」


「ホロダイだと、レベル30くらいのザコモンスターです」


「うん」


「現実だと、どれくらいですか?」


「うーん。C級ダンジョンの中層あたりだから、たぶん、レベル30相当かな」


「ホロダイの再現、ちゃんとしてますね」


「ふうん」


 白波さんが、剣を構えた。


 ……俺は、横にちょっとずれた。


 白波さんに、譲った。


 白波さんが、ちらっと、俺を見た。


「いいんですか」


「うん。今日は、白波さんの日だから」


「……」


「自分の判断で、戦って」


「……はい」


 白波さんは、剣を、握り直した。


 フォレストハウンドが、突っ込んできた。


 白波さんが、横に、ステップして、剣を振り下ろした。


 ホロダイのフォームと、現実の動きの、ちょうど中間。


 でも、ちゃんと首を捉えた。


 フォレストハウンドが、光の粒子になって消えた。


「……倒した」


「うん」


「あの、今のフォーム、ホロダイのときと、ちょっと違いました」


「うん。前より、現実寄りになってる」


「やっぱり?」


「うん」


「訓練の成果、出てますね」


「うん」


 白波さんは、剣を、振って、軽く汚れを払う動作をした。


 光の粒子になって消えるから、剣に血はつかない。


 でも、白波さんは、その動作を、ちゃんとした。


 ……探索者っぽい動き。


 たぶん、自分で「探索者として」振る舞うことを、自分に言い聞かせている。



>【攻略ガチ勢】白波さん、フォレストハウンドをソロで撃破。フォームも、ホロダイから現実仕様に、ちゃんと修正されてる


>【holodive_master】白波さん、ホロダイのモーションじゃないな


>【ノア推し】ホロダイの腕も確かだけど、探索者としても凄い!


>【ルカたん】白波さん、すごい



   ◆ ◆ ◆



 ダンジョンを、ゆっくり、進んだ。


 白波さんは、自分の判断で、出てくるモンスターを、一匹ずつ倒していった。


 俺は、ほとんど、口を出さなかった。


 今日は、白波さんが主役。俺は、横にいる役。


 もし本当に危なくなったら、出ようとは思っていた。でも、たぶん、その出番は来ない。


 白波さんの動きを見ていれば、それは、わかった。


 白波さんも、最初は、戸惑っていたけど、だんだん慣れてきたみたいだ。


 二時間くらい歩いて、第三層に着いた。


 第三層は、開けた森のような空間で、巨大な樹木がいくつも生えていた。


 樹の幹に、淡く光る、青い結晶が、埋め込まれていた。


「……」


 白波さんが、その結晶を、しばらく、見ていた。


「ここの結晶、ホロダイだと、回復アイテムの素材になるんです」


「ふうん」


「現実でも、回復薬の素材になりますか?」


「うん。なるよ」


「……採取、していいですか?」


「うん。白波さん、正規の探索者だから、ちゃんと所有権がある」


「……はい」


 白波さんが、樹の幹に近づいた。


 慎重に結晶を外した。


 手のひらに、青く光る小さな結晶が乗った。


「……」


 白波さんは、その結晶をしばらく見つめていた。


「これ、ホロダイで、何百個も、採取したことあるんです」


「うん」


「でも、本物は、初めて」


「うん」


「ちゃんと、光ってる、綺麗です」


「うん」


 白波さんは、結晶を用意していたケースにしまった。


 ホロダイのプロが、初めて本物の素材を自分の手で採取した瞬間。


 たぶん、白波さんにとって、今日のハイライトの一つ。



>【holodive_master】白波さん、翡翠の結晶、現実でも採取できるんだ


>【攻略ガチ勢】回復薬の素材として、市場価値は一個五万円くらいだな


>【ノア推し】白波さん、嬉しそう


>【ルカたん】……いいですね



   ◆ ◆ ◆



 昼。


 第五層の、開けた場所で休憩を取った。


 白波さんが、リュックから、サンドイッチの入った保冷バッグを取り出した。


 ラップに、丁寧に包んである。


「あ、お弁当、自分で作ってきたんですね」


「はい。朝、ちょっと早起きして」


「……」


「あ、これ、よかったら、一個、どうぞ」


「いいの?」


「はい。多めに作ってきたので」


「ありがと」


 俺は、サンドイッチを、一個もらった。


 ハムとレタスとトマト。シンプルな感じ。


「おいしい」


「……ありがとうございます」


 白波さんが、ちょっと、頬を赤くした。


 俺は、自分が持ってきたコンビニのおにぎりも食べた。


 二人で、配信を回しながら、サンドイッチと、おにぎりを食べた。



>【草の民】白波さん、手作りサンドイッチ持参!


>【ノア推し】RENにサンドイッチおすそ分け、いい関係


>【攻略ガチ勢】RENはコンビニおにぎりで草


>【ルカたん】……白波さん、手作りなんですね



「コンビニのおにぎりもおいしいよ」


「あの、蓮さん。普段、お昼は何食べてるんですか?」


「えっと、近所の人が、お弁当くれることがあって」


「……近所の人?」


「うん。優しい人で」


「……ふうん」


 白波さんは、それだけ言って、もう一口、サンドイッチを食べた。


 ちょっと、もぐもぐが、速くなった気がした。



>【ルカたん】……近所の人


>【草の民】ルカたん、急に静かになった? なんか落ち込んでる?


>【ノア推し】ルカたんどうしたん?



   ◆ ◆ ◆



 午後。


 第七層、最深部に近いところで、白波さんが足を止めた。


「蓮さん」


「うん」


「ここのボス、ホロダイだと、フォレスト・グランドベアっていう、大きい熊なんです」


「うん」


「現実でも、同じやつ?」


「うん。たぶん、ボスは、共通かも」


「……あの、私、ボス、やってみたいんですけど」


「うん」


「いいですか」


「うん。やってみて」


「サポート、お願いできますか?」


「うん」


 白波さんが、ボス部屋の前で、深呼吸をした。


「ホロダイで、何百回も倒したやつ、です」


「うん」


「でも、本物は、初めて」


「うん」


「……勝ちます」


 白波さんが、剣を、構えた。


 俺は、後ろで、ノアを、肩に乗せたまま、見ていた。


 ボス部屋に入った。


 巨大な、緑色の熊が、奥の岩に、もたれかかって、寝ていた。


 高さ、四メートルくらい。前足が丸太より太い。


 白波さんが、ゆっくり、近づいた。


 熊が、目を開けた。


 咆哮。


 空気が震えた。


 白波さんが、ぐっと、踏み込んだ。



>【攻略ガチ勢】フォレスト・グランドベア。C級ダンジョンの中ボス。普通の探索者なら、三人パーティで挑む相手


>【holodive_master】ホロダイだと、ソロでも倒せる難度。でも、現実だと、たぶん、ぜんぜん違うぞ


>【ノア推し】白波さん、頑張れ!


>【ルカたん】……気をつけて



 戦闘が、始まった。


 白波さんは、熊の周りを、走り回りながら、隙を見て、剣で、斬りつけていた。


 動きは、ホロダイのままじゃない。


 ちゃんと、現実の熊の動きに、合わせていた。


 最初の数分は、攻撃を出来ず、苦戦していた。


 熊の前足の一撃を、ぎりぎりで避けた。


 防戦一方の戦いだ。


 でも、白波さんは諦めなかった。


 俺は、後ろで見て、手は出さなかった。


 ノアが、肩の上で、ぽつりと言った。


『マスター(笑)。手、出さないんですか』


「うん」


『大丈夫ですか』


「うん。白波さんは倒せるよ」


『……どうしてわかるんですか』


「目の色」


『目の色?』


「うん。本気の目してる。負けない目」


『……マスター(笑)。あなた、たまにはいいこと言いますね(笑)』


「うるさい」



   ◆ ◆ ◆



 十分後。


 フォレスト・グランドベアは攻撃し続けてバテていた。


 隙ができた瞬間を白波さんは見逃さなかった。


 素早く左方に移動し、首の根元に剣を突き立てた。


 熊が、地響きを立てて、倒れた。


 光の粒子になって、消えた。


 白波さんが、剣を降ろした。


 息を、切らしていた。


 でも、立っていた。


「……はあ、はあ、勝ちました」


「うん。お疲れさま」


「……っ」


 白波さんが、剣を、地面に立てかけた。


 膝に、両手をついて、しばらく、息を整えていた。


 顔は、汗だくだった。


 でも、目は、笑っていた。



>【攻略ガチ勢】白波つむぎ、フォレスト・グランドベア、ソロ撃破。これ、ホロダイのプロが、現実でも同じことができた、っていう歴史的事実だぞ


>【holodive_master】白波さん、すごい


>【草の民】ソロでボス倒した!


>【ノア推し】白波さん、探索者としても凄いな


>【ルカたん】¥1,000「お疲れさまでした。怪我、ないですか?」



「ルカたんさん、ありがとうございます。怪我はないです」


 白波さんが、汗を、手で拭きながら、カメラに答えた。


「あの、蓮さん」


「うん」


「ありがとうございました。後ろにいてくれて」


「うん」


「私、ちゃんと、自分の手で、倒せました」


「うん。すごい」


 白波さんが、剣を、ぎゅっと、握り直した。


 以前、ゴブリンを初めて倒したときと、似ているけど、もっと、大きな感情が入っていた。



   ◆ ◆ ◆



 ダンジョンを出る頃には夕方になっていた。


 配信を切り、俺と白波さんは、登山道をゆっくり下りていた。


「蓮さん」


「うん」


「今日、ありがとうございました」


「うん」


「ホロダイで、何百回も、来た場所を本物で見られて、本当に嬉しかったです」


「うん」


「あと、自分の力で、ボスを倒せて」


「うん」


「……これ、たぶん、私にとって、大事な日です」


「うん」


 白波さんは、それだけ言って、しばらく、黙って歩いていた。


 俺も、何も言わずに、横を歩いた。


 ノアが、俺の肩の上で、白波さんに言った。


『つむぎさん』


「はい」


『今日のあなた、本当に強かったです』


「……ありがとうございます、ノアちゃん」


『あと、マスター(笑)も、今日は、いい横にいる役してましたよ』


「うん。蓮さん、横にいるだけで心強いです」


「……」


 俺は、ちょっと、頭の中で、何かが、ぐるぐる、回った気がした。


 でも、何も言わなかった。


 白波さんは、それだけ言って、また、黙って歩いた。



   ◆ ◆ ◆



 駅で、別れた。


「来週も、行きませんか?」


「うん。行こう」


「次は、もう少し、難しいところに挑戦したいです」


「うん」


「じゃあ、また連絡します」


「うん。お疲れさま」


 白波さんが、改札に入っていった。


 俺は、しばらく、その背中を、見ていた。


 ……白波さん、対等の探索者として、ちゃんと成立してる。


 たぶん、もう、俺が「教える」必要はなくなった。


 これから、白波さんは、自分の判断で、ダンジョンに入って、自分の手で戦っていく。


 ……寂しい、というほどではないけど。


 でも、ちょっとだけ、何か、変わったなと思った。



   ◆ ◆ ◆



 夜。


 アパートに帰ると、ドアの前に、いつもの、淡いピンクの保冷バッグが置いてあった。


 明日のお弁当。


 メモには、こう書いてあった。



 『今日も、お疲れさまでした。


  今日は、ダンジョン、行かれましたか?


  あんまり、無理はしないでくださいね。


  あなたが、無事だと、私は嬉しいです。


  瑠花』



 俺は、メモを、しばらく読んでいた。


 いつもより、ちょっとだけ、文章が、長い気がするな。


 あと、なんとなく、いつもより優しい。


「ノア」


『はい』


「瑠花さんのメモ、今日、いつもと、ちょっと違う気がする」


『はい。違いますね』


「気のせい?」


『いいえ。気のせいじゃないですよ』


「うん?」


『瑠花さん、マスターのことを心配してます』


「ふうん。優しいな」


『……マスター(笑)。心配する、というのは、ただ優しいだけじゃ、ないんですよ』


「うん?」


『その人にとって、あなたが大事だってことです』


「……大事?」


『はい』


「ふうん」


「俺、瑠花さんにとって、大事なのか」


『……たぶん、あなたが思ってるより、ずっと』


「ふうん」


 俺は、ノアの言葉の意味が、よくわからなかった。


 でも、なんとなく、メモをもう一度読んだ。


 『あなたが、無事だと、私は嬉しいです』


 ……嬉しい、か。


 なんか、温かい、メモだな、と思った。


「ノア」


『はい』


「瑠花さんに、またお礼、言いたいな」


『……はい。それは、いいと思いますよ』


「うん」


 俺は、メモを、丁寧に、机の引き出しにしまった。


 なんとなく、捨てるのが、もったいない気がした。


 ノアが、肩の上で、ちょっと、笑った気がした。


『マスター(笑)。メモ、取っておくんですね』


「うん。なんとなく」


『……いい、なんとなく、ですね』


「うん?」


『何でもないです』



━━━━━━━━━━━━━━━━

   アーカイブコメント欄

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>【攻略ガチ勢】今日のRENと白波の配信、整理する。1) 翡翠の樹海、C級ダンジョン、ソロ向きじゃない難度。2) 白波つむぎが、フォレスト・グランドベア、ソロ撃破。これ、ホロダイのプロが、現実でも通用するっていう、世界初の証明。


>【草の民】白波さんの成長に感動した


>【holodive_master】白波つむぎは、もう、ホロダイには、戻らないかもしれないな


>【ノア推し】ノアちゃんの「マスター(笑)も、いい横にいる役、してましたよ」が、いい 可愛すぎる


>【草の民】そういえば、ルカたん、今日、途中から、ちょっと静かじゃなかった?


>【ノア推し】RENが「近所の人がお弁当くれる」って言ったあたりから、コメント減った気がするな


>【陰謀論者】……ルカたんは、今、いろいろ、考えてるんだよ


>【攻略ガチ勢】陰謀論者、お前、ルカたんの何を知ってるんだ


>【陰謀論者】知ってるんじゃない。見えてるだけだ。お前らも、見ようと思えば見える


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