7話 アリア・セルライト公爵令嬢
「本日はお招きいただき、誠にありがとうございます、ウィンガート伯爵殿」
「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます、セルライト公爵殿」
セルライト公爵が到着して早々、屋敷がものすんごい堅苦しい空気に包まれた。
正直、あんまり関わり持ってこなかったんだなってのが丸わかり。
王族が来た時より空気がピリつくって一体なんだよ。
しかし、そんなピリついた空気を一蹴する存在は二人いた!
「アリアちゃん! こんにちは!」
一人は僕ことヒカリちゃん。
そしてもう一人は当然ーー
「ヒカリちゃん、しっかりあいさつしないとダメよ!」
「はっ! ほんじつは、おこしいただき、ありがとうございます!」
「こちらこそ、ありがとうございます!」
アリアちゃんである。
親の真似事で憶えた体裁をしっかりこなして微笑む。
「ヒカリちゃん、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ! しんぱいかけてごめんなさい」
「よかった! ねぇ、なにして遊ぶ?」
親を置き去りにして話し出す娘二人。
そんな姿を見た父親二人は何も思わないわけがなくーー
「うちの子、レオン第三王子の前ではガチガチだったのに、アリア様は直ぐ打ち解けて凄いですね」
「いやいや、ヒカリ様が気さくだから、アリアも話し易くて助かってると思いますよ」
さっきのピリついた空気が嘘のように打ち解け始めていた。
「あたし、本よみたい!」
「おとぉしゃま、本ってある?」
そもそも家がバカみたいに広いし、どこに何があるのかすらあんまり把握出来ていない。
よっぽどあると信じたいけど……。
「書斎ならあるけど、優しい本あったかな?」
「伯爵殿、多分アリアは文字を教えたいんだと思うので、難し過ぎる本でなければ問題ないかと」
「え! アリアさんもう文字を?」
「えぇ! うちの子六歳なので」
「ヒカリの二つ上だったんですね? どおりでしっかりしているわけだ!」
「おとぉしゃま……?」
なんか、今僕とアリアちゃん置き去りにされた気がするんだけど。
「あぁすまない。書斎なら僕が案内するよ。公爵殿はどうされます? 娘と一緒にお勉強したくありませんか?」
「是非お願いします!」
しっかり打ち解けた父親二人と共に、我が家の書斎へ四人で向かう。
移動の最中、公爵はキョロキョロしながらついてきていた。
「どうかされました?」
「随分と広いですね」
そして興味がそのまま口から漏れたようにそう呟く。
「元々、侯爵家が使用していた家だったのですが、訳あって没落したらしく、更地になる前に買い取った家なんですよ」
「良い買い物しましたね? メイドや執事も活き活きと働いている様子ですし、伯爵なのが勿体無いほどですよ」
「いえいえ、妻や娘もいますし、これ以上地位を得たら家族との時間が減ってしまいます」
「ははは! 私も今それが悩みなんですよ!」
なんか、すげぇ打ち解けてる。
娘が仲良いとこんなに親同士も仲が深まるのか?
「むずかしそうなはなししてるね?」
「うん、おとぉさまってすごい!」
一方僕とアリアちゃんは子供らしい会話をしている。
まぁ理解できる僕からすると、難しいってより、生々しいお話なんだけど……。
なんかこれ以上聞きたくない。
そんな願いが叶ったのか、書斎に到着した。
お父様が扉を開くと、まさに書斎というか、アンティークな渋い空間が待っていた。
「おとぉしゃま、あそこ」
僕が指を指すと、不自然に、やけに何も置いていない本棚が一つあった。
もしかして、うちって貧乏貴族?
「あそこはね、来年ヒカリがお勉強始めるから、少しずつ優しい本も置こうと思ってね?」
否! あれ新調したやつだ!
「おとぉしゃまありがとう!」
苦節四歳。まだ一年先だけど、ようやくこの世界について知れそうです。




