2話 愛が重たい
ヒカリちゃんこと僕は、現在一歳半になりました。
少しずつ言葉を発せるようになり、気付けばゆっくり立って歩けるようになっていた。
お陰で以前とは比べ物にならないほど自由になりました。
とっても嬉しい、わーい! と、元高校生男子が心の中ではしゃいでおります。
そんな自由度が増したヒカリちゃんですが、今大きな悩みが一つあります。
それはーー
『ガタン』と大きな音を立てて扉が開き、大柄なハンサムさんが現れる。
「おとちゃま!」
僕が必死にお父様と声をあげると、目つきが変わったように、目を光らせ、今にも走り出したそうに僕へ歩き出す。
「おぉぉヒカリ! お父様だぞぉぉ?」
「おとちゃま! たぃ!」
髭をじょりじょりさせながら顔を顔でさすってくる。
そう、これが今の僕の悩み。
あまりに愛情が重過ぎる。贅沢な悩みだけど、一歳の柔肌には少し痛く感じるんだこれが。
そして今世の父親だからなのか、嫌な感じが一切しないのが悔しい。
いやマジで、誰とも知らんおじさんにこんなことされてるのに嫌じゃないのが本当におかしい!
「おとちゃま! ちごとがんばた?」
「うん! おとちゃまね、仕事頑張ったよ?」
この父親、娘にデレデレなのである。
0歳の頃は、過激極まる愛情に仕事の手が止まったり、無自覚に僕を傷つける恐れがあったため、シャルの手によって会う回数を抑制されていた。
しかし、制限が外れた今ーー
「旦那様……」
シャルの呆れた目なんて一切気にせず、仕事を終えたらなりふり構わずここにくる。
マジで親バカ。いや伯爵で経営上手らしいから頭いいんだけど、マジでバカ。
「もう貴方、執務室にいないと思ったら、またヒカリに甘えてるの?」
「フィリア! 聞いてくれフィリア、ヒカリが僕のことを『おとちゃま』ってーー」
「それは昨日も聞いたわよ?」
「旦那様、いえ、オズワルド様?」
「うっ、シャル……何をそんな顰めっ面に……?」
フィリア。それが今世のお母様の名前であり、オズワルドがお父様の名前だ。
お母様と同じように、お父様にも専属の執事がいるようだけど、僕はまだ会ったことがない。
これでお父様と同じで僕にぞっこんだったら……なんか、うん……考えるのをやめよう。
「そういえば、先日陛下から連絡があってね」
そう言ってオズワルドは懐から一枚の、やけに高そうな手紙を取り出す。
「何かしら、王妃様の妊娠でも発覚したのかしら?」
(おぉ……)
そんなデリケートな話題、夫とはいえ男の前でしていいのか?
「一つ目はそれ。第四王子か、第三王妃か、今から楽しみだね?」
(正解かよ!?)
てことは、今息子三人、娘二人になるのか。
王妃様、頑張るな……。
「もう一つは、第二王妃の五歳の生誕祭と、婚約者候補探しのパーティの招待状」
「あら、うちの子女の子よ?」
(そうだそうだ! 一歳半で婚約なんて……というか女の子同士で結婚出来るの!? いやでも男……あれ!?)
僕は今人生の分岐点に立たされてる気がする。
(僕の性別は、え、ど、どっち!?)
「そもそも候補に入れないよ? まぁ第三王子の婚約者候補にはなるだろうけど……娘は渡さんっ!!」
「貴方……」
フィリアは少し呆れた様子でオズワルドを見ているがが、僕は違う。
「わたしゃん!」
強い意志を持ってお父様と同じ言葉をリピートする。
「おぉぉヒカリ! ヒカリもおとちゃまと一緒が良いか!」
「ん!」
デレデレのお父様の少し痛いヒゲのじょりじょりを一身に浴び、まだ遥か先の未来のために腹を括る。
いや、第三王子何歳かわかんないし、マジで何年後なんだろう……。




