10話 家庭教師
あれから数日。
「ヒカリおはよう?」
「おとぉしゃま、おはようございます!」
朝早くからお母様と一緒にお父様の待つ事務室へ向かい、ピシッと背を伸ばす。
「ミューゼのお陰でね、良さそうな家庭教師が見つかったよ」
お父様の座っている隣で背筋を伸ばしている女性。
柔らかい雰囲気の中に少し凛々しさがあり、少し緊張している様子も窺える。
「ユース・ナノディアと申します。夫がいつもお世話になっております」
「……おっと?」
誰の嫁なんだい?
「ユース、今は公式の場なんだから、そのことは後でね?」
「あ、ミューゼさんの奥さんなのね?」
「あぁ。結婚前から学園で教鞭を振るっていたらしくてね。見知らぬ人を雇うなら、奥さんにやらせてあげたいと言ってね」
(おぉ、コネ採用か!)
教えてくれるなら誰でも良いのだけど、出来れば厳しくないと良いな……。
「あなた様が、ヒカリ様ですか?」
少し前に出て、膝を負って目線を合わせる。
「ヒカリ・ウィンガートともうします!」
真似事の挨拶をしてユースに挨拶をする。
すると、簡単に一言。
「天使ですね」
「え?」
ミューゼとユースって、血繋がってないんだよな?
妻と夫なんだよな?
「ヒカリ様を知識の神にすれば良いのですね?」
「ユース、落ち着いて?」
お父様が反応に困ってる。
随分とクセの強い人が家庭教師になったものだ。
「そうだ。ユースが家庭教師になるに伴ってヒカリの勉強時間中、子供を二人家で預かるから、シャル、お願いしても?」
「承知いたしました旦那様」
見惚れそうなほど綺麗な礼を一つ。
お父様の卓に隠れて見えなかったが、僕より頭一つ大きく身長の男女が一人づつひょいと現れる。
「娘のナツと、息子のルカです。二人とも六歳になります」
「「よろしくお願いします」」
声を揃えて挨拶しているが、少し、いや、かなり不安に揺れている様子。
こう言う時に僕の前世は全く役に立たないが、四歳児のコミュ力が非常に役にたつ。
「ナツちゃん、ルカくん! ヒカリ・ウィンガートです!」
僕が勉強している間に預かる子たちだから関わることは少ないだろうけど、貴族という緊張する世界に、少しでも心がほぐれてくれれば嬉しい。
というか、多分この二人は時が来ればいずれ関わる。
何せ伯爵であるお父様の右腕のミューゼと、伯爵令嬢の家庭教師の子供たち。
「一応教材はありますが、今日から始めますか? それとも明日からーー」
「きょうから!」
食い気味に答える。
出来ればモチベーションがある内に色々学びたい。
「わかりました。では、オズワルド様、お部屋はどうされますか?」
「書斎を使ってくれ。あそこなら静かだし、幾つか優しい本も買ったから、必要に応じて使ってくれて構わないよ」
「承知いたしました。では、行きましょう」
「はい! おとぉしゃま、おかぁしゃま、いってきます!」
「頑張るんだよ?」
「うふふ、行ってらっしゃい!」
両親とミューゼとシャルに見送られ、僕とユースは書斎に向かう。
そして何故か手を握っている。
「あの、失礼でなければお願いしたいことが一つあるのですが」
「はい!」
まぁよっぽど失礼する人でも無さそうだけど、貴族相手に前置きは必須だろう。
「抱き上げて歩いてもよろしいでしょうか」
「はい?」
え、何故?
「なんというか、少し前のナツを思い出してしまいまして、今はもう抱かせてくれなくて」
「……」
なるほど『ロス』か。
「えっと、ゆるします! で、あってましゅか?」
「よく知ってますね? 目下の人にはそう言って、良いこととダメなことを教えるんですよ!」
「あいっ!」
そんなわけでユースは僕を抱き上げて書斎まで歩いて行った。




