9話 もう一人
「はあああぁぁぁぁ??」
「うぅぅ……」
アリアちゃんが帰った後、夕食をとり、現在家族三人で入浴中。
そんな中、お母様の捻くれた声が浴室に響き渡り、お父様が気まずそうに俯く。
「ヒカリあんなに可愛くメイクしてたのに気づかなかったぁぁぁ?」
「ヒカリごめんよぉ、気付かなかったお父様を許してくれぇ!」
「おとぉしゃま?」
僕も元男だし、メイクに気付けない気持ちはわかる。
ただ、ヒカリちゃんになってわかった。気付かれないって意外とショックだぞ?
「全く、折角私がメイクしたのに」
「ヒカリ、フィリア、こんな父を許してくれぇ!」
この夫、日本にいたら絶対尻に敷かれるな。
「どうするヒカリ?」
僕を抱きしめて頭を撫で、耳元で優しく問う。
「ゆるちます!」
ショックな気持ちはあるけど、前世の自分だったらきっと気付いていない。
ここは元高校生の寛大な気持ちで許してやろう。
「よかったわね?」
「ありがとうヒカリ!」
お母様からお父様へ移り、ギュッと優しく抱きしめられる。
あぁ、なんか幸せだ。
余談だが、元高校生男子。母の大きな胸や裸を見ても何も感じていない。
四歳児、全然性欲ねぇぜ。
「あのねおかぁしゃま! アリアちゃんもじよめるんだ!」
「あら、アリアちゃんは何歳なの?」
「ろくしゃい!」
「じゃあ家庭教師雇ってる歳ね?」
「そうなんだ。で、ヒカリもアリアちゃんと本読みたいって言うから、一年早いけど家庭教師を探して雇おうかと思うんだ」
何を基準に五歳からかわからないが、多分前世の小学生入学時期みたいな、似たような暗黙の了解があるのだろう。
「ヒカリがお勉強したいなら良いと思うわ?」
「なら明日、いくつか候補をミューゼに選ばせておくよ」
「お願いね?」
事務的な連絡を終え、空気が緩まった。
その途端ーー
「あなたに似て勤勉なのかしら?」
「きっとフィリアに似て真面目なんだよ」
(うわっ!)
惚気はじめた。
でも、不思議なことにすごい幸せに感じる。
お母様は僕を抱き抱え、お父様はお母様の腰に手を当てて身を寄せ、もはや日本のような安心感を与えてくれる。
「ヒカリもお姉ちゃんになるし、良い見本になると良いな?」
「えぇ!」
(そっか、お姉ちゃんに…………は?)
お姉ちゃん?
「おかぁしゃま、ヒカリおねえちゃんになるの?」
全ての理解が追いつかないまま尋ねる。
「そうよ? お腹の中に赤ちゃんがいるのよ?」
「すごい!」
いやマジか! 僕ことヒカリちゃん、姉になるのか!
「ヒカリ、おべんきょうがんばる! いいおねえちゃんになる!」
「流石ヒカリだ! お父様も仕事頑張らないとな?」
「じゃあ私は店の経営増やそうかしら?」
「ダメだ。お腹に子供がいるのに無茶はいけないよ?」
「ふふっ、わかってるわよ?」
ずっと一緒にいるイメージだったけど、この様子だと何処かのチェーン店の総社長だ。
そして父は伯爵だから領地経営。
うわー、めちゃ金持ってそうだなヒカリちゃん一家。
「そろそろ出ようか」
「そうね? ヒカリも出ましょうか!」
「うん!」
家族団欒のお風呂が終わり、お父様にタオルで身体中拭いてもらい、三人で部屋に戻る。
(あれ? お父様っていつもこの部屋いなくね?)
いつもお母様と一緒に寝て、一緒に起きているはずだけど。
「おとぉしゃま?」
「あ、そうか。いつもヒカリが寝てから来て、起きる前には部屋出てるから知らないのか」
「子供はしっかり寝てゆっくり起きるものね?」
お母様は僕を抱っこしてお父様の目線の高さまで持ってくる。
「たまには三人一緒におやすみなさいしたいわよね?」
「うん!」
全然知らなかったが、お父様もここで寝ているらしい。
まぁ子供の体力で大人と同じ遅い時間に寝るのは無理だ。
「ミューゼ、シャル、少し早いが今日の業務はお終いでいい。二人ともゆっくりしてなさい」
「ありがとうございます旦那様」
「承知いたしました」
「おやすみなさい!」
「おやすみなさいませ、ヒカリ様」
「あぁ、天使!」
シャルとミューゼに一声かけ、二人が部屋から去っていく。
「ふああぁぁ……」
気付けばあくびが出るほど眠くなっており、おぼつかない足取りでゆっくりベッドに向かう。
「ヒカリ、お父様と一緒に入ろうか」
「うん」
お父様に抱っこされ、揺れる足取りに更に眠気が誘い、ベッドに入る前に寝息を立てて眠ってしまった。
「おやすみ、ヒカリ」




