序章 疲弊した女神1
平凡、それは僕を表す言葉そのものだ。
高校一年の僕は、中間テストも期末テストも平均点丁度。運動も特別出来るわけでもなく、体力テストも平均値。
特別になりたい……いつの間にかそんな願望を抱くようになっていた。
でも、何をやっても三日続かない。
だから願望ばかり強くなる。
「続いては、サッカー部の表彰です」
「表彰、サッカー部代表ーー」
校長の声と、代表の選手の表彰状のやり取りを全校生徒が静かに見つめる。
(いいなぁ)
僕は心の中でそう呟き、何もない自分と照らし合わせる。
広大な拍手音が羨ましいほど響き渡り、気付けば全校集会は終わっていた。
二学期初日、僕はまるで一日中学校にいた気持ちで午前登校を終えて帰路を歩く。
家に帰ったらいつも通りネット小説を読んで、異世界で充実した生活を送る主人公に嫉妬の眼差しを送るんだ。
(いいなぁ……)
特別ゲームが上手いわけでもなく、家族からそれなりに愛されている僕は、きっと異世界に行っても上手くいかない。
自分勝手に気持ちはどんどんナイーブになって、周りも見えずに歩道が早送りのような速度で過ぎていく。
赤になった信号すら目に入らず、道路と白線の視界に全てを奪われる。
『ビィィィ!』と鳴る車のクラクション音にも気付かなかった僕は、異世界に行ってもきっとーー
◯
異世界転生の序章だ。
現実ではあり得ない光景、そして何度もネット小説で見た光景。
僕はコンマ一秒も経たずに理解した。
「遂に、僕の番……!」
僕は恐らく死んだんだ。死んだというのに、今は何故かワクワクが止まらなく。
家族より、友人より、この今が何よりも鼓動を昂らせる。
ふと何もない空間から人影が現れ、目の前には女神が現れた。
「……ん?」
否! かつて女神だったっぽい人が現れた。
「また……ですか……」
それが彼女の第一声。
まるで仕事疲れが溜まった僕の父親のようなぐったり感。見てて切なくなってしまう倦怠感。
「えっと、女神様?」
僕は恐る恐る声をかけると、彼女は重いため息を一つ吐き、嫌そうな声でこう言った。
「もう、仕事したくない」
「……」
車のクラクション音にも気付かなかった僕は、未成年で死んだ僕は、異世界に行ってもきっとーー
ロクなことが起こらない。
「最近さ、多いんだよ、異世界に迷い込む人」
「……」
「いいよね人間は? 死んだら軽い気持ちで異世界に行けるって思ってて」
「…………」
「あれ、相当労力いるんだよ? 君は知らないかもしれないけどさ、疲れちゃんだよ?」
「…………」
なんか、今すぐ現世に戻って生き返りたい気分だ。
「んで、君はどんなふうになりたいの?」
「え……え?」
愚痴から突然質問に変わり、思わず挙動不審な動きをしてしまったが、ちゃんと願いを聞く意思はあるらしい。
「えっと、僕は、聖剣を使うような勇者になって、強い力を隠してて追放されるのも、いいかも」
僕の願望は、これまで沢山読んできた故ポンポンと出てきた。
そしてそんな僕の様子を見た女神は、心底嫌そうな表情をしてこう言った。
「またかよ……」
そして女神の翼が黒く濁りを増していき、目がガンギまる。
「もぉぉぉ! もう疲れた! どれだけ転生させれば気が済むのォァァァ!!」
「え……こっ、怖っ……」
当然発狂する女神を見ることしか出来ず、一人で勝手にオロオロする。
「もう嫌だ、現世に戻ってくれませんか?」
かと思ったら突然虚無って泣き出して。
「でも、僕転生したい……」
「転生転生転生って、もういいよ! そんな楽なわけないでしょ! 現世で幸せに過ごす方が良いに決まってるのに!」
「……」
もはや駄々をこねるお子様だ。
「仕事、は、ちゃんとしましょう?」
恐る恐る声をかけるが、まるで怨敵を見つけたような目で僕を見つめ「は?」と一言。
「……もう良いや、君、転生したいんでしょ?」
投げやり気に僕に声を吐きつけて、おでこに人差し指を押し付ける。
「良いよ。もう全部パーにするから。人間の望む世界になんてさせてやんない」
まるで悪魔のような笑みを僕に見せる。
「へ?」
「サヨナラ!」
突然僕の意識は突然失われて、次に目が覚めたら時にはーー
(な……なんでぇぇぇぇぇぇ!!!)
僕は勇者でも追放される戦士でもなくーー
伯爵令嬢の、女の子の赤ちゃんになっていた。
僕の人生二周目は、波乱どころか大波に呑まれた幕開けだった。




