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6.最強のサンドイッチ

その日の朝、私はかつてない「重み」を感じて目を覚ました。


「んん……おもい……」


 身動きが取れない。金縛りだろうか。  薄目を開けると、視界の右側には銀色のふわふわな毛並み(ポチ)。  左側には黄金色のさらさらな羽毛とりさん


 私は、伝説の魔獣二匹に挟まれて、サンドイッチの具になっていたのだ。


「すー、すー……」


「くぅ、くぅ……」


 二匹とも、私のベッドを占領して気持ちよさそうに寝息を立てている。  ポチの体温でポカポカし、とりさんの翼が掛け布団代わりになって、温度調節は完璧だ。  重いことを除けば、天国と言ってもいい。


(……二度寝しよう)


 私は抵抗を諦め、再び夢の世界へ旅立とうと目を閉じた。  しかし、それを許さない人物がいた。


「リア! 朝だぞ! パパとご飯を食べよう!」


 いつものように、パパがハイテンションで部屋に入ってくる。  だが、ベッドの惨状(楽園)を見た瞬間、パパの足が止まった。


「な……っ!?」


 パパがわなわなと震え出す。


「ポチだけでなく、あの鳥まで……! 私のリアを独占するとは何事だ!」


 パパの怒声に反応し、ポチととりさんが同時に目を開けた。  二匹は面倒くさそうにパパを一瞥すると、示し合わせたように私を隠す動きを見せた。  ポチが前足で私を抱え込み、とりさんが大きな翼で私を覆い隠す。  完全な鉄壁の守りだ。


「ガルルッ(渡さん)」


「キエェッ(あっち行け)」


 二匹から同時に殺気を向けられ、パパがたじろぐ。


「お、おのれ……! そこは私の場所だぞ! 私もリアと川の字で寝たいのに!」


 パパが叫んでいる内容は、騎士団長とは思えないほど情けないものだった。  私は翼の隙間から顔を出し、あくび混じりに言った。


「パパ、うるさい。まだねる」


「ガーン!!」


 パパが壁に手をついて項垂れる。  その背中には哀愁が漂っていたが、今は眠気の方が勝つ。  私は再びモフモフの狭間に潜り込んだ。


 ◇


 そんな騒がしい日常の一方で、屋敷の外では不穏な噂が流れ始めていた。


 場所は、王城の執務室。  この国の国王であるアルフレッドは、眉間に皺を寄せて報告書を読んでいた。


「……ギルバートの奴、屋敷に魔獣を集めているというのは本当か?」


 王の問いかけに、宰相が神妙な面持ちで頷く。


「はい。密偵からの報告によれば、先日、王都の結界を破って侵入したフェンリルが、アルガルド公爵邸に居座っているとのこと。さらに昨日、グリフォンまでもが公爵邸に降り立つのが目撃されております」


「フェンリルにグリフォンだと……?」


 国王は報告書を机に叩きつけた。  どちらも、軍隊を動員しても勝てるかどうかわからない災害級の魔獣だ。  それが一箇所に、しかも王都の中心にある貴族の屋敷に集まっているなど、正気の沙汰ではない。


「ギルバートめ、まさか謀反を企てているのではあるまいな?」


「いえ、それが……」


 宰相は困惑したように言葉を濁した。


「報告によれば、その魔獣たちは……ええと、『お嬢様のペット』として飼われているそうで」


「は?」


 国王が間の抜けた声を上げる。


「ペット? あの『氷の騎士団長』の娘がか? 確かまだ三歳だろう」


「はい。庭で魔獣の背に乗って散歩したり、巨大なブラシで毛づくろいをしている姿が目撃されています。魔獣たちは、その幼子に完全に懐いているとか」


 信じがたい話だった。  だが、ギルバートという男は、こと娘に関しては常軌を逸した行動をとることで有名だ。  娘が「欲しい」と言えば、魔獣だろうが魔王だろうが連れてきかねない危うさが、あの男にはある。


「……捨て置けん」


 国王は立ち上がった。


「事実を確認しに行くぞ。もしギルバートが魔獣を使って国を脅かすつもりなら、私が止めねばならん」


「陛下、自ら赴かれるのですか!?」


「当たり前だ。それに……」


 国王の表情が、ふっと柔らかくなる。


「フェンリルを手懐けるほどの幼子だ。第一王子、エドワードの婚約者候補として見極める必要があるだろう」


 王の瞳に、好奇心と計算の光が宿る。  まだ誰も知らない。  この視察が、国王にとっても、そして「働きたくない」と願う幼女にとっても、運命の分岐点になることを。


 屋敷では、そんなこととは露知らず、私が二匹の魔獣におやつのクッキーを分け与え、パパが「私にも『あーん』してくれ!」と懇願して無視されるという、平和な時間が流れていた。

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