5.空から落ちてきたのは
ドォォォン!!
凄まじい地響きと共に、庭園の片隅に土煙が舞い上がった。 せっかく庭師さんが手入れした花壇が、無残にもクレーターと化している。
「敵襲か!?」
パパが私を抱えたまま、瞬時に距離を取る。 ポチも私の前に立ちはだかり、低い唸り声を上げて警戒態勢に入った。その背中の毛が逆立ち、ビリビリとした魔力が周囲に迸る。
土煙が晴れると、そこには一匹のグリフォンが倒れていた。 サイズはポチより一回り小さい。たぶん、まだ子供の個体だ。 けれど、その立派な翼は折れ曲がり、金色の羽毛は黒く焦げ、苦しそうに荒い息を吐いていた。
「……グリフォンか。王都の上空で何者かに攻撃されたようだな」
パパが冷静に分析する。 魔獣が人間の住む領域に近づけば、撃ち落とされるのは当然の理だ。
「ギャ……ッ、キュゥ……」
グリフォンが弱々しく鳴いた。 その瞳が、パパの腕の中にいる私と合った。
ドクン。
胸の奥が騒ぐ。 かわいそう、という感情よりも先に、身体が勝手に反応してしまった。 私の体質が、「助けを求めている動物」を放っておけないらしい。
「パパ、おろして」
「ダメだリア! 手負いの魔獣は凶暴だ。近づいてはいけない!」
パパの腕から抜け出そうと暴れるが、さすがに騎士団長のホールドは強固だ。 ならば、奥の手を使うしかない。
「パパ……お願い。あの子、いたそうなの」
私は上目遣いでパパを見上げ、瞳をうるうるとさせてみた。 必殺、幼児の涙目攻撃。
「ぐっ……! し、しかし……」
パパの決意が揺らぐ。 そこへ、ポチが「ワンッ」と一声吠えた。 パパはポチを睨み、それから深い溜息をついて私を地面に降ろした。
「……ポチ、絶対にリアから離れるなよ。何かあれば私が斬る」
パパが剣を抜き、いつでも動ける態勢を取る。 私はトテトテとグリフォンに近づいた。
近くで見ると、傷は思ったより深そうだ。火傷のような跡もある。 グリフォンは私を警戒して鋭い嘴を向けようとしたが、身体が痛むのか、ビクリと震えて動けなかった。
「いたいの、いたいの、とんでけー」
私はグリフォンの頭にそっと手を乗せ、前世で覚えたおまじないを口にした。 もちろん、医療知識も治癒魔法の心得もない。ただの気休めだ。 ……気休めの、はずだった。
ファァァ……
私の手のひらから、淡いピンク色の光が溢れ出した。 その光は温かな波動となってグリフォンの身体を包み込み、黒く焦げた傷跡を見る見るうちに消し去っていく。 折れていた翼がポキポキと音を立てて元通りになり、剥がれ落ちた羽毛が再生した。
「……へ?」
私が一番驚いた。 何これ。私の体質、回復効果まであるの? それとも「動物愛され体質」の過剰反応?
「ギャァッ!」
完治したグリフォンが、元気よく起き上がった。 パパが殺気を放って踏み込もうとするが、その必要はなかった。
グリフォンは私に頭を垂れ、その大きな嘴で私の頬を甘噛みするように優しく啄ばんだのだ。 そして、猫のように喉を鳴らしながら、私の身体にすり寄ってきた。
「キュゥ~ン……」
「わっ、くすぐったい」
羽毛の感触は、ポチの毛皮とはまた違ってサラサラとして気持ちいい。 どうやら、また一匹「陥落」させてしまったらしい。
「……信じられん」
パパが剣を下ろし、呆然と呟いた。
「フェンリルに続き、グリフォンまで……。リア、お前はいったい何者なんだ……」
「リアは、リアだよ」
私はグリフォンの首元に抱きつきながら答えた。 この子の羽毛、夏場には涼しくて良さそうだ。ポチが冬用なら、この子は夏用の抱き枕に認定しよう。
「名前、どうしようかな」
私が呟くと、パパが頭を抱えながら言った。
「……まさか、タマとか言わないだろうな」
「んー、とりさん」
「そのまんまか!!」




