20.はじめての雪遊び
雪が積もった。 一面の銀世界。 庭の木々も、屋根も、ポチ(フェンリル)の背中も、真っ白に染まっている。
「……まぶしい」
私はサンルームの窓際で、みかんを片手に呟いた。 本来なら外に出たくない。こたつ(ダンの腹)から一歩も動きたくない。 だが、今日は特別だ。
「リア様! 雪合戦ですわよ! わたくし、負けませんわ!」
ヴィヴィアン様が鼻息荒く乗り込んでくる。 彼女は完全防備の毛皮コートに身を包み、やる気満々だ。
「……さむいから、パス」
「ダメですわ! 殿下やカイン様も待っていますのよ! たまには運動しないと、キノコが生えますわよ!」
キノコ。 確かに、ずっとダンの腹でゴロゴロしていたせいで、私の体からは湿気のようなものが出ている気がする。 仕方ない。少しだけ付き合ってあげるか。
私は重い腰を上げ、アンナに着ぶくれするほどの防寒着を着せてもらった。 モコモコの帽子、マフラー、手袋。まるで雪だるまだ。 歩くのがやっとの状態だが、転んでも痛くないのは利点だ。
◇
庭に出ると、そこは戦場だった。
「くらえ! 『氷槍』!!」
「甘いなカイン! 『炎盾』!!」
カイン兄様とエドワード王子が、魔法で雪合戦をしていた。 いや、あれはもう戦争だ。雪玉の中に魔力が込められている。当たったら死ぬやつだ。
「……かえる」
私が踵を返そうとすると、兄様がこちらに気づいた。
「あっ、リア! 待ってくれ! これは雪合戦じゃないんだ! 雪かきを手伝っていただけだよ!」
「うそつき」
私がジト目で見ると、兄様は慌てて魔法を解除した。 王子もバツが悪そうに雪玉を背中に隠す。
「ふん、まあいい。リアが来たなら、本番を始めようじゃないか」
王子がニヤリと笑う。
「チーム分けだ! 僕とヴィヴィアン、カインと……うーん」
人数が合わない。 そこに、救世主(?)が現れた。
「ガハハ! 俺も混ぜろ!」
ジンだ。彼は半裸に毛皮のベストという、見てるだけで寒くなる格好で登場した。 東の国の民は寒さに強いらしい。あるいはバカなのか。
「よし、ジンは僕のチームだ! リアはカインと組め!」
こうして、雪合戦が始まった。 ルールは簡単。相手に雪玉を当てるだけ。魔法禁止。
「いくぞ! おりゃあ!」
ジンが豪速球を投げてくる。 速い。見えない。 カイン兄様が眼鏡を光らせて回避するが、私の運動神経では避けきれない。
(……当たる)
私は目を閉じて衝撃に備えた。 しかし、雪玉が当たることはなかった。
バフッ。
何かが私の前に立ちはだかり、雪玉を受け止めたのだ。
「……?」
目を開けると、そこには白い壁があった。 いや、壁ではない。 ポチだ。 ポチが私の前に立ち、顔面で雪玉を受け止めていたのだ。
「ポチ……」
「わふん(大丈夫か?)」
ポチがブルブルと顔を振り、雪を払う。 なんて忠犬なんだ。 私は感動した。そして、静かな怒りが湧いてきた。
「……ジン、ゆるさない」
私の大切な枕に雪をぶつけるなんて。 私は足元の雪をすくい、小さな雪玉を作った。 そして、ポチの背中によじ登る。
「ポチ、突撃」
「わおーん!」
ポチが吼える。 その声に呼応するように、空からとりさん(グリフォン)が、庭の奥からダン(ドラゴン)が現れた。 魔獣軍団の集結だ。
「えっ……ちょ、ちょっと待てリア! 雪合戦に魔獣を使うのは反則だろ!?」
ジンが青ざめる。 王子もヴィヴィアン様も、後ずさりする。
「はんそくじゃない。かぞく」
私は無慈悲に告げた。 とりさんが上空から雪玉を爆撃し、ダンが尻尾で大量の雪を撒き散らす。 そしてポチが、雪煙を巻き上げながら敵陣に突っ込む。
「うわあああ! 逃げろォォォ!!」
悲鳴が上がる。 雪合戦は、一方的な蹂躙へと変わった。
◇
数分後。 庭には、雪に埋もれた三つの人型(ジン、王子、ヴィヴィアン様)が出来上がっていた。 カイン兄様は「さすがリア! 僕の妹は雪の女王だ!」と称賛しているが、彼も流れ弾に当たって半分埋まっている。
「……ふぅ」
私は満足して、ポチの背中から降りた。 運動したからか、体がポカポカする。 たまには外遊びも悪くない。
「リア様……つ、強すぎますわ……」
雪の中から這い出してきたヴィヴィアン様が、ガタガタ震えながら言った。
「おんせん、はいる?」
私が提案すると、全員が涙目で頷いた。 冷え切った体に、ドラゴンの沸かしたお湯が染み渡る。 雪見風呂、最高。
こうして、私の初めての雪遊びは、圧倒的勝利で幕を閉じた。 来年は、かまくらを作ってその中で寝よう。 そう心に誓いながら、私は牛乳を一気飲みした。




