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【第6章】次に会うのは、デイジーの咲く頃 第10話

「着いたよ」

でこぼこのアスファルトを登り終えて、最後1メートルほど砂利道を登る。春おばちゃんと車のエンジンを切ると、ドアを開けて、外へと出た。


「いやぁー! ……風が気持ち良い……」

助手席のドアを開けて外へ出ると、ふんわりと緑の香りが心地良い。近くでは鳥のさえずりも聞こえてくる。


「すっごい良い匂いなんだけど!」

緑の匂いがふわっと鼻の奥まで届く。驚いた。向こうじゃ嗅いだことがなかった匂い。森の匂い……緑の匂いってこんなに良い匂いなんだ……。


「さ、こっち」

おばちゃんが玄関に向かったその時、軒下からぬっと姿を現したのは……猫だった。


「にゃぁ~ん」

「にゃぁ~ん」

2匹の黒猫。のっそりとおばちゃんに近づいて行く。おばちゃんは鍵を地面に一旦置いて、しゃがみ込んだ。


「あら~、お散歩してたのかな?」

「にゃーん」

頭をよしよしと撫でると、黒猫たちは目を細めてうっとりとしている。


「この子達よ。さっき言ってたの」

「あっ……猫のこと……」

「そうそう」

「黒猫だったんだ」

「もう1匹、いるけどね」

「えー……3匹?」

「そう。こっちの子がクロちゃん。で、こっちがハチくん」

「クロちゃん……ハチくん……」


(うわぁ……似てて分かんないな……)


家の中は凄く綺麗で新しかった。入口には猫の顔をした編み物が置いてある。赤に青。黒の編み物もある。


(200円……? 値段が付いてる?)


「何この編み物。売ってるの?」

わたしはその編み物を手に取って、おばちゃんに尋ねた。


「それ? それで食器を洗うんだよ。スポンジの代わり」

「……誰に? 誰か来るの?」

「言ってなかったね。忘れてた」

はははっとおばちゃんは笑いながら言う。


「ここ、お店もやってるんだよ」

「お店?」

「そう。簡単にランチだけだけどね」

「えー……そうなんだ」


たまに来るお客さん向けに、自分で編んでいるのだと言う。「だからこんなに綺麗にしてるんだよ」と言われて、わたしは納得した。


「わぁ……」

リビングに案内されて、わたしは思わず声を上げた。綺麗な花が飾ってあり、中央には装飾の施されたテーブル。カウンターキッチンになっていて、そこで作ってから料理を出すらしい。


「ま、狭いけどね」

「でも、綺麗だねー……テーブル、1つなんだ」

「そう。予約制にしてるから。1人でやってるからね。そんな人数入れられないのよ。1軒家だから狭いし」


(……隣は和室……)


お客さんが入るリビングの隣は、6畳ほどの和室になっている。テレビや、子供向けのおもちゃが散乱している。


「そこは、小っちゃい子がいる時の部屋」

「あぁ、キッズスペースみたいな……感じ?」

「そうそう。良く言えばね」


キャリーケースを畳みの上に優しく置くと、ゆらりと奥から猫が歩いてきた。


「……にゃおぉーん……?」


艶やかでスラリとした体型。ピンと伸びた尻尾をくねくねと波のようにくねらせながら、ゆっくりと私に近づいてくる。


(えぇぇ……)


恐々身構える私をよそに、ひざ元までやってきて、コツンッ……と私の膝頭に頭をぶつける。


「あははっ! ご挨拶よ? それ」

けらけらと春おばちゃんがキッチンでお皿を拭きながら笑う。


「えっ……? 挨拶なの?」

「そうよ。歓迎されてるみたいね。良かったじゃない!」

「……」

「……嫌いな人には、寄り付かないからね。この子」

「……そうなんだ」

「うん。猫ちゃんってね、正直なんだよ」

「へぇ」

「……人間と……違ってね」


ちらりと視線を落とすと、純粋な瞳でまじまじと私の顔を見つめる黒猫。


「か……可愛いね……この子」

小刻みに振るえる人差し指で、そっと頭に手を添えた。


(うわぁ……ふっさふさじゃん……)


「その子が、ペペちゃん。女の子だよ」

「ぺ……ペペちゃんか……よろしく」


「うにゃぁ~ん……?」

わたしの指に、口をごしごしと擦り付けていた。


(いやぁー……噛まれないかなぁー……)


こんなに猫に囲まれるなんて……初めての経験だった。











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