表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/118

【第6章】次に会うのは、デイジーの咲く頃 第3話

「もうさ、……学校辞めたいんだよ」

「あら。あんたまた言ってるの」

「……いや、冗談で言ってるんじゃないんだって……」


日曜日の朝だけが、生きていることを実感できる。時間の流れもゆっくりと感じるし、奥まで差し込む朝日は、何だかとっても清々しい。お母さんはわたしに背を向けながら、キッチンでご飯の用意をしている。


「……辞めてさ、こっから歩ける高校に転校して良い?」


高校2年生になり、わたしは通学を含めた毎日の生活に嫌気がさしていた。「キツイのは最初だけだから」と言われ、1年生の時は我慢していたけど……いつの間にか目まいや吐き気に耐える日々になっている。でも、お母さんには細かく話はしていない。


お金を出してくれているお母さんに申し訳無くて……ずっと我慢していた。


(まぁ……わたしが悪いんだけどさ……)


何度後悔したか分からない。「ちゃんと勉強しなさいよ」と言われた時に、しっかりと勉強しておけば……家から歩いて行ける高校にだって行けたのに。後悔先に立たず……「この歳で何で罰ゲームを受けないといけないんだろ」と毎日思っている。


「何、あんた……いじめられてるとか……そういう事なの?」

「いや、そういうことじゃ無いよ」

「じゃ、何よ」

「……きつい。毎日」

「そんなの学校変えたって同じじゃない。……どうせ通うんだから」

「電車乗らなくて良いじゃん!」

わたしは体育座りの体勢を崩して、身を乗り出す。


「もうさ、疲れたんだよ。わたし」

「何よ。おばさんみたいな事言って」

「希望が見えないんだよ」

「希望が見えない?」

「そう。毎日毎日……電車に揺られてさ。臭いしキツイし……それに」

「……それに?」

お母さんがわたしの前にハムエッグを置いてくれた。どこか澄ましたような余裕を見せているのが、少し腹だたしい。


「それに……将来わたしも、あんな感じになるのかなって……」

「どういうこと?」

「みんな目が死んでるんだよ。電車に乗ってる人たち」

「あぁ……そういうこと。別にそれって学校変えたい事と関係無いじゃない」

「……そうだけど」

「冷めるわよ? 早く食べちゃって?」


そう言うとお母さんは妹の秋穂を部屋まで呼びに行った。秋穂は中学3年生。受験生だ。「お姉ちゃんみたいにならないように」といつも言っている。


「何? またお姉ちゃんぶつぶつ言ってるの?」

「……うるさいな」

「人生に疲れてるんだ」

「……」

「もう歳だもんねぇ」

「はぁ? まだ17だって!」

「はははっ! すぐキレる。マジ受ける」

「……お前……」


「はいはい。とりあえず食べちゃってくれる? 片付けがあるから」

お母さんが割って入ってくれた。


満員電車はキツイ。本当に徒歩で通える高校に行きたいと思ってはいる。でも……車内のサラリーマンの人やOLの人達の表情を見ているのも辛い。新聞を読んだり、スマホを見たりして過ごしているけれど、わたしの目から見ると、楽しそうに見えない。


「わたしも……こんな感じになっちゃうんだ」とどうしても電車に乗ると、感じてしまうのだ。学校へ行く意味も、勉強する意義も……何一つ見い出せない。友達にこのことを言っても、「あんたは気にし過ぎ」と言われて終わる。


ずっとつきまとう目まいとは別に、電車に乗れば乗るほど、わたしは生きている心地がしない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ