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【第5章】大きくても小さくても命だよ 第19話

「何で黒猫ちゃん、美穂の所ばっかで寝るんだよ」

「あなたと違って……ちゃんとお世話にしてるからじゃない?」

「俺だって……ちゃんとトイレ掃除してるのにさ……」

晩ご飯の唐揚げを食べながら、お母さんに愚痴をこぼすお兄ちゃん。


(お世話にはね……当たり前のことなんだよ……分かってないな)


「俺も黒猫ちゃんと寝たいなぁー……」


家に来てから1週間。黒猫ちゃんは寝る時いつもわたしの布団に来てくれる。ちょっと寒い日はもぞもぞ……と布団の中に入ってくるし、ちょっと暑い日はわたしの布団の上で寝てる。


ちょっと重たいけど……好きでいてくれてるんだなぁと思うと、何だか嬉しい。


「なぁ、何か秘密……あるんだろ?」

「知りたい?」

「知りたい!」

「……どうしようかなぁ」

「もったいぶらないで教えろよ……」

「じゃ、お兄ちゃんの唐揚げ1つくれたら……良いよ」


しぶしぶお兄ちゃんは、わたしのお皿に唐揚げを乗せた。


「じゃ、仕方ない。教えてあげる」

「お兄ちゃんはね……しつこいの」


どや顔でわたしは唐揚げを口に入れた。お母さんが少しだけ頷いたような気がするけど、気のせいかな?と思った。


夜、お兄ちゃんがブツブツ言っているのが耳に入る。

「何だよー……もうしつこくないだろ? なぁ……」

黒猫ちゃんに必死に話しかけてるけど、「それがしつこいってことだよ」とは言わなかった。


ふいっと顔をそむけるように、黒猫ちゃんはお兄ちゃんの場所を離れて、てくてくとわたしの布団のところまでやってくる。


「あら! 黒猫ちゃん! 一緒に寝るのぉ?」

よしよしと優しく撫でた。グロロ……と喉を鳴らしながら、目を閉じる黒猫ちゃん。うらめしそうに視線を送ってるお兄ちゃんのことは無視した。


「電話来たぞ」

お父さんの言葉が、幸せだった日々に一気に終わりを告げた。


「飼い主さん。今日、夜来るってよ」

分かっていたことであるけど……お兄ちゃんもわたしも、大好きな野菜炒めが全く喉を通らなかった。


「……そう」

「まぁ……仕方無いよ。むしろ喜ぶべきだけどな。本当は」

「……分かってる」

ダメだ。みんなの前で涙が止まらなかった。


いつもはエアコンの下で寝ている黒猫ちゃんが、ぴょんと飛び降りてわたしのところまでやってきた。


「……黒猫ちゃん……」

「にゃぁん」

「見つかったって。飼い主さん……」

頭を撫でると、「にゃぁ」と鳴いて、わたしに頭を擦りつけてくる。……何度も何度も。黒猫ちゃんの温度を感じたわたしは……また泣いた。


夜の8時にやってきたのは女の人だった。すごく疲れたような顔。


「クロちゃーーーーん……」

涙を流しながら黒猫ちゃんに向かって話かけているのを見て、「あぁ、この人の所に帰るんだな」と改めて感じた。


「にゃぁ」と鳴いて、黒猫ちゃんは女の人の所にてくてく歩いて行く。わたしのところから離れて行く黒猫ちゃん。背中を見ていると、じんわりとまた涙が出てきた。


(そっか。この人がお母さんなんだ……)

(……元々、この人の家にいたんだよね)


悲しくて、寂しい。


「本当にありがとうございました」

「もう……本当に。何てお礼を言っていいのか……」

女の人は、何度も何度もお母さんとお父さんに頭を下げている。わたしはぼんやり、テレビでも見ている感じ。


「あなた達も、本当にありがとう」

女の人が、わたしとお兄ちゃん向かってお礼を言ってくれた。


「……黒猫ちゃん。可愛かった」

「大事にしてくれてたんだね。……ありがとね」

「うん」

「本当にありがとう」


「ううん。あのね」

「ん?」

「黒猫ちゃん……ずっとお外で寂しそうだったから……お家に入れてあげて?」

「……そうね」

「小っちゃいけど……人間と同じ『命』なんだよって……お姉さんが言ってた」

「……そうね」

「うん。小さくても大きくても『命』だよ」


その後も何度もお父さん達に頭を下げて……女の人は帰っていった。


黒猫ちゃんと一緒に。






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