表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

【第2章】君たちを繋ぐパレット 第5話

「今日はね、君たちに伝えないといけない事があるんだ」


校長先生は、真剣な声色でわたし達に向かって言った。表情も真剣そのもの……隣に立っているサビ先生は、下を向いているように見える。たった3人の教室内がざわつく。


(なんだろう……? やっぱり昨日の騒ぎが原因かな……)


これから何の話が展開されるのか……わたし達には全く見当がつかなかった。


「君たちの卒業について、だよ」

「えっ……?」

わたし達は全員で顔を見合わせた。誰ひとりとして「卒業」という言葉が校長先生の口から出ると思っていなかったから。


「急だけれど……このパレットを卒業してもらう事になったんだ」

「えっ……? 卒業……?」

「おい……マジかよ……」

わたしとハチは動揺を隠せない。……だって……急に卒業って言われても……


「……どうしてですか?」

いつもは寡黙であまり話をしないトラが、珍しく口を開いた。


「君たちを必要としている人が、急に現れた。だからだよ」

「……必要としてる人?」

「あぁ。我々にはネットワークがあるんだよ。日本全国にね」

「ネットワーク……ですか」

「そうだ。君たちの『癒し』が必要な人を、日夜リサーチしているんだ」

「えぇ……始めて知った……」

「そりゃそうだろね。君たちは言ってないからね」


校長先生はゆっくりと近くにある椅子に腰を下ろした。表情や目は真剣そのもの……恐らく冗談で言ってるのではないことは、すぐに分かった。


「で、ここ数日で急に現れたんだよ。だから……卒業を早めた」

「えっ……でも、わたし……」

「大丈夫」

サビ先生が優しくわたしに微笑みかける。


「大丈夫。……あなた達なら、大丈夫だから」

「……でも」

「あなた達なら……きっと仲良くやれるよ」

「うん……でも……わたし、先生ともっと一緒にいたい! みんなとも一緒にいたい!……寂しいよ」


覚悟が決まっている先生たちの表情。本当に先生と……ハチやトラと……お別れなんだ……。嫌だ……。ずっと一緒が良い……


「はははっ! 寂しく無いよ。大丈夫」

わたしの気持ちを察してか、校長先生が微笑みながらわたしに向かって話した。


「えっ……? 校長先生、どういうことですか……?」

「空を見上げなさい。寂しくなったら」

「……空? どういうこと?」

「ん? 君たちには力が備わってる」

「力……ですか? どんな?」

「君たちは、いつだって……空を通じて繋がってるんだ」

「……」

「仲間の事を想う時……空を見上げなさい。きっと想いは通じるから」

「……」

校長先生が何を言ってるのか……わたしにはさっぱり分からない。……でも、もう……行かなきゃいけないんだよね。


「さ、こっちから行くよ」

校長先生はゆっくりと椅子から立ち上がると、廊下に向かって歩き始めた。


「……はい」

しぶしぶ……わたし達も校長先生についていく。サビ先生は立っている場所から動かない。……きっとここでお別れなのかも知れない。


「サビ先生……」

目に溜まった涙が……こぼれ落ちる。どんな時もわたしを支えてくれた、素敵な先生。わたしはサビ先生のことが大好き。……いや、わたし以外のみんなも先生のことが好き。


「先生……今までありがとうございました」

「……ありがとございます」

ハチとトラも、先生に頭を下げている。やっぱりね。


「何よ、ハチもトラも……泣いてるんじゃない?」

「はぁっ? うるせえよ。泣いてなんかねぇよ」

「ははっ! じゃ、何で目をこすってんのよ」

「……あんま寝てないんだよ。昨日」


「まぁまぁ。最後まで仲が良いわね。あなた達は。……わたしはあなた達を担当できて、本当に幸せだったわよ?」

「……」

「次に会う人たちも……きっとわたしと同じように、幸せを感じるはずよ」

「……うん」

「さ! 涙を拭いて。自信持って! 行ってらっしゃい」

「……はい!」

廊下に校長先生の影が見える。待っててくれてるんだ……もう、行かないと。


「……辛いだろう?」

一切後ろを向かずに、校長先生が廊下を歩きながら話す。


「……はい」

「これが別れだよ」

「別れ……」

「あぁ。君たちは、これから向こうの世界で……同じような別れを何度も味わうことになるかも知れないね」

「それは……嫌だなぁ……」

「だけど」

「……」

「そのたびに、君たちは成長するんだ」

「……そうなんだ」

「きっと泣くこともあるだろう。怒りを覚えるかも知れない。それが……生きるという事だ。仕方ない。でも、これだけは覚えておきなさい」

「……何? 校長先生」

「すべてはご縁なんだ。出会う人は……決まっている。君たちにしかできないことがあるんだよ」

「ふぅん……」

「まだ分からないかも知れないね」

「うん……良く分からないかな……」


校長先生はにこりと笑った。

「それを、今から君たちは学びに行くんだ」

「……さ、このドアを開けて。行っておいで。沢山のことを……経験しておいで」


ドアを開けた瞬間――

まばゆい光が、わたし達を包んだ……


「かけがえの無い、経験をしておいで」

校長先生の顔が遠ざかっていく。


そして、わたしは意識を失った――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ