表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

【第2章】君たちを繋ぐパレット 第4話

「何だよ、あんな簡単な問題も解けないんだろ!?」

「何よ! うるさい!」

「はんっ……体育しかできないヤツのくせして」

「何よ!!」


ずっと心の奥にしまってきた感情が、爆発するのが分かった。奥から溢れ出る思いが喉を通って口からこぼれ出る。


「あんたは……みんなのことバカにし過ぎなんだよ!」

「ふんっ……負け惜しみが。何を言ってんだよ」

「うるさい!」

「ははっ。『うるさい』しか言えないのかよ」


悔しい。言い返したいけど、言葉が浮かばない……その代わりなの?涙ばっかり頬を伝ってる……。


「……嫌いだ! あんたなんて……」

「……ふんっ」


パン! パン! と大きな拍手が2回聞こえた。


「はい。そこまでにしなさい」

わたし達が怒鳴り合う空間が、ピンと張りつめた空気に一気に戻る。サビ先生だった。


「……喧嘩なんてしてる場合じゃ無いでしょ」

「……」

「だって……」

わたしは静かに涙を流しながら訴えた。


「ま、今日はそれくらいにしておきなさい」

「……」

「それと、クロちゃん」

「……はい」

「この後、ちょっと職員室に来なさい」

「えっ……?」

「分かった?」

「……はい」


シンと静まり返った教室は、お通夜のような雰囲気になっていた。……といっても教室の中にいるのはハチとトラ。そしてわたしだけだけど。


先生は何もしゃべらずにわたしの前を歩く。「何でわたしだけ」と思いながらも、先生の後を付いていく。


「クロちゃん、ここ」

普段絶対に来ることの無い、職員室。場所すらわたしは初めて知った。ガラリとドアを開ける先生にそって、私も中へと足を踏み入れる。


「座って」

穏やかな声で、先生は私に促した。


「あなたは優しい子だから」

「……」

「ずっと我慢してたんでしょ?」

無言で首だけを縦に振る。


「皆、性格が違うから……分かってあげて? とまでは言わないけど……」

「……はい」

「それぞれ良い所、あるんだよ?」

「……分かってます」

ぐずっと鼻水をすすりながら、わたしは答えた。


「ハチくんはちょっと荒い所があるけど……活発だしね」

「……」

「トラくんは猫見知りな子だけど……打ち解けたら、一気に仲良くなってくれる」

「……」

「あなたは?」

「……えっ?」

「あなたは? ……どんな子なの? どんな良さを持ってるの?」

「わたし……ですか?」

「そう。自分で考えた事、ある?」

そう言うと先生は、ギイと椅子に深く腰を掛け直した。


「わたし……? ……良く分からないな……」

「あははっ!」

声を上げて笑う。


「そういう所よ」

「……どういうことですか?」

「それがあなたの良い所」

「えっ?」

「自分の事は……後回し。いっつも周りの子達に気を遣える」

「……」

「あなたみたいに、優しい子……中々いないよ?」

「はい……」

先生はわたしの頭に手を乗せた。……優しい温度が伝わってくる。


「ね? 自信持って。あなたの強みは「優しさ」なの」

「……はい」

「でもたまには、さっきみたいに自己主張もしないとね」

そう言うと、先生は左目をパチンッ!と閉じて、わたしを見つめた。


「……はいっ!」

わたしは、先生が大好きだ。……卒業なんてしなくても、先生から色々と教われるなら……それも良いなぁって思う。


次の日。

なぜか校長先生が教室にやってきた。

わたしは、ハチと喧嘩したのが原因だと思っていた――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ