【第2章】君たちを繋ぐパレット 第4話
「何だよ、あんな簡単な問題も解けないんだろ!?」
「何よ! うるさい!」
「はんっ……体育しかできないヤツのくせして」
「何よ!!」
ずっと心の奥にしまってきた感情が、爆発するのが分かった。奥から溢れ出る思いが喉を通って口からこぼれ出る。
「あんたは……みんなのことバカにし過ぎなんだよ!」
「ふんっ……負け惜しみが。何を言ってんだよ」
「うるさい!」
「ははっ。『うるさい』しか言えないのかよ」
悔しい。言い返したいけど、言葉が浮かばない……その代わりなの?涙ばっかり頬を伝ってる……。
「……嫌いだ! あんたなんて……」
「……ふんっ」
パン! パン! と大きな拍手が2回聞こえた。
「はい。そこまでにしなさい」
わたし達が怒鳴り合う空間が、ピンと張りつめた空気に一気に戻る。サビ先生だった。
「……喧嘩なんてしてる場合じゃ無いでしょ」
「……」
「だって……」
わたしは静かに涙を流しながら訴えた。
「ま、今日はそれくらいにしておきなさい」
「……」
「それと、クロちゃん」
「……はい」
「この後、ちょっと職員室に来なさい」
「えっ……?」
「分かった?」
「……はい」
シンと静まり返った教室は、お通夜のような雰囲気になっていた。……といっても教室の中にいるのはハチとトラ。そしてわたしだけだけど。
先生は何もしゃべらずにわたしの前を歩く。「何でわたしだけ」と思いながらも、先生の後を付いていく。
「クロちゃん、ここ」
普段絶対に来ることの無い、職員室。場所すらわたしは初めて知った。ガラリとドアを開ける先生にそって、私も中へと足を踏み入れる。
「座って」
穏やかな声で、先生は私に促した。
「あなたは優しい子だから」
「……」
「ずっと我慢してたんでしょ?」
無言で首だけを縦に振る。
「皆、性格が違うから……分かってあげて? とまでは言わないけど……」
「……はい」
「それぞれ良い所、あるんだよ?」
「……分かってます」
ぐずっと鼻水をすすりながら、わたしは答えた。
「ハチくんはちょっと荒い所があるけど……活発だしね」
「……」
「トラくんは猫見知りな子だけど……打ち解けたら、一気に仲良くなってくれる」
「……」
「あなたは?」
「……えっ?」
「あなたは? ……どんな子なの? どんな良さを持ってるの?」
「わたし……ですか?」
「そう。自分で考えた事、ある?」
そう言うと先生は、ギイと椅子に深く腰を掛け直した。
「わたし……? ……良く分からないな……」
「あははっ!」
声を上げて笑う。
「そういう所よ」
「……どういうことですか?」
「それがあなたの良い所」
「えっ?」
「自分の事は……後回し。いっつも周りの子達に気を遣える」
「……」
「あなたみたいに、優しい子……中々いないよ?」
「はい……」
先生はわたしの頭に手を乗せた。……優しい温度が伝わってくる。
「ね? 自信持って。あなたの強みは「優しさ」なの」
「……はい」
「でもたまには、さっきみたいに自己主張もしないとね」
そう言うと、先生は左目をパチンッ!と閉じて、わたしを見つめた。
「……はいっ!」
わたしは、先生が大好きだ。……卒業なんてしなくても、先生から色々と教われるなら……それも良いなぁって思う。
次の日。
なぜか校長先生が教室にやってきた。
わたしは、ハチと喧嘩したのが原因だと思っていた――




