【第2章】君たちを繋ぐパレット 第3話
昼下がりのお日様。ぽかぽかしていて……昼寝にはもってこい。
(お腹もいっぱいだし……あぁ、ダメだぁ……)
視界がぼやけていき、上と下から景色が閉じられていく――
「……」
「……!」
「……い! ……ロ!」
「おい! ……ロ!」
「おいって! クロ!」
「はっ……!」
急に視界が開けて、ガタン!と椅子をお尻で押した。
「クロ! 寝てて良いのかよ」
「……えっ? ……何よ」
「次。テストだろ? 良いのか?」
「……」
「知らねーぞ」
「あー!!! 忘れてたー!!」
木曜日の午後は、毎週テストが行われる。といっても……そこまで難しいテストじゃない。でも、点数が低いと卒業に響く……。
「お前、国語苦手なんだろ?」
ハチはいつも的確なことをいう。毎度……わたしは耳が痛い。分かっちゃいるけど……
「……そうだけど」
「知らないぞ? お前だけ卒業できなくても」
「……」
「はい! みんな? 集まってる?」
慌てて教科書を開こうとしたところで……時すでに遅し。先生がガラッ!とドアを開けた。
「じゃ、今から恒例のテストやるわよ」
「机の上、筆記用具だけにしてちょうだい」
いっつもそう。テストが始まる前のこの時間が……一番緊張する……
「緊張するってことはね、準備不足なの。日頃からキチンとコツコツやっていれば、本番で緊張なんてしないのよ」……サビ先生の言葉が脳裏に浮かぶ。コツコツなんて、わたしが一番苦手なやつ。
「はい、じゃ……はじめ!」
バッと紙をめくる音が鳴り響き、15分間の戦いが始まる――
名前 クロ
問1:次の問いに答えよ
田中さん「あー……疲れたなぁ……ただいまぁ」
あなた「□」
□に当てはまる言葉を、次のア~エの中から選んで記号で答えなさい
ア:おやすみなさい
イ:ただいま
ウ:おはよう!
エ:おかえりなさい
(わぁ……何だっけ? これ……確か「ただいま」って言ってたら……「おかえり」だった気がするな……エだ!)
問2:次の問いに答えよ
遠藤さん「可愛い猫ちゃんだねー!」
あなた「□」
□に当てはまる適する鳴き方を、次のア~エの中から選んで記号で答えなさい
ア:キャー!
イ:ニャア~
ウ:ガー
エ:アオーン
(アとウは絶対に違うよね……イか……エか……でもエは寂しい時じゃなかったっけ? うーん……イの「ニャア~」にしとくか……)
問3:次の文を読んで問いに答えよ
「うううぅぅ……ぐすっ……ぐすっ……ひんっ……」
この男性は、何をしているところか? 想像して次の空欄に文章で書きなさい。
(いやぁー……何よこれ……?)
(「ぐすっ」「ぐすっ」……? 何をしてるの?)
(……ひょっとして? ……この人……笑ってる?)
「はい! そこまでっ」
一斉に筆記用具を置いて、教室は安堵のため息に包まれた。……わたしは無事に卒業できるのだろうか……自分で自分が心配になる。
「はぁっ……」
(どうだろうなぁ……)
「おい、クロ。どうだった」
「えっ? まぁ……どうかな。ハチはどうなのよ」
「『どうなのよ』って……簡単じゃなかったか?」
「え……あれ、簡単なんだ……」
「お前……大丈夫か?」
胸の奥にドスンと重りがのしかかってるみたい……。こんなんじゃ……わたし、やっていける自信ないなぁ……。
「お前、本当にやばいよな」
わたしが落ち込んでいる時のハチの言葉。ナイフのように胸に刺さる。
「……うるさいわね!! わたしだって……頑張ってんのよ!」
自分でも驚くほどの大きさの声。教室がピンと張りつめた空気になってしまった。
積もり積もった感情を抑えることができなくて……爆発してしまった――




