【第2章】君たちを繋ぐパレット 第2話
猫っ気のない体育館は、とても寒い。毛皮に似たコートを全身身にまとっていても……寒さだけは苦手。
「……暖房、入れましょうか」
流石のサビ先生も震えているのが見て分かる。尻尾もだらんと元気がない。
「先生、今……何度?」
「えっと……20℃ね」
「えぇー……28℃くらいにして」
「人は25℃前後が適温なの。でも私達は27~28℃くらいが丁度良いなって感じるでしょ? 室温にはいつも敏感でいなきゃ駄目よ」……保健体育の時間にサビ先生が言ってた。
(寒いなぁ……20℃でこれかぁ……)
特にわたしは寒さが苦手。「早くお布団の中に潜りたい」って思っちゃう。あの暖かさは天国……。
「さ、じゃ始めるわよ」
空調室から戻ってきたサビ先生。お腹の奥から声を張り上げる。
「今日は? 何するの?」
「……じゃん!」
わたしの質問ににやりと笑うと、サビ先生は背中に手を回す。
「……何か後ろに隠してるの?」
「今日はねぇ、これですっ」
バッとわたし達の目の前に現れたのは、サビ先生が改良したホウキ。わたし達は「くねくねボウキ」って呼んでる。
「またぁ? 違うやつやろうよ」
「それはまた今度ね。今日はこれよ」
くねくねぼうき――
柄の部分が通常のホウキのように固くない。サビ先生がわたし達のために特別に作ってくれたホウキ――
何の材料でできているのかは分からないけど、ヘビのようにくねくねと動く。
「じゃ、行くわよー! 先ずは1分間ね!」
「……!」
「それっ! それっ! それっ!」
「……! くっ……!」
まさにヘビのようにくねくねと踊るホウキ。右へ行ったと思えば……突然止まって左へと曲がる……わたし達は制限時間の間に、何回先端にタッチできるか?というトレーニング。
はぁっ……はぁっ……はぁっ……
息が上がる。それに……目も回る。
「おりゃっ! えいっ……! はっ!」
ちらりと視線を向けると、猫らしい機敏な動きを見せるハチ。的確に先端にタッチしていく。
(ちょっと……何なのさ……動き、速っ)
負けじとわたしもハチにシンクロするように左右に動く。
ピーーー……
終了の笛の音。
「いやぁー……きっついー!」
ぜいぜいと息を乱しながら、ハチがひんやりとした床に倒れ込んだ。わたしも右ひざをついて、呼吸を整える。楽しいんだけど、なかなかにキツイ。
「……うん。悪くないんじゃないかしら?」
「……『悪くない』ってどういうことですか」
「もうちょっと……記録が伸びると良いけどねー」
「いやっ……はぁ……はぁっ……限界ですって……」
「トラー? トラもやるわよー」
ハチ先生がわたし達の後ろの方に向かって声を張る。
「あー……そうだよ。トラも一緒にやろうよ」
ハチの機敏な動きに気を取られて、わたしも忘れていた。トラのこと。
「ね、トラ! 一緒にやろうよー。楽しいよ?」
くるりと後ろを振り返って、トラに声をかける。
「……いや、俺はいいや」
「何でー? 動くと温まるよ? みんなでやろうよ!」
「あんま好きじゃないんだよね。それ」
「えー……何よー」
キジトラのトラ。いっつも斜に構えた感じで、わたしやハチを見ている。たまーに気が向いた時だけ一緒に遊んでくれるけど……基本、1人。いや……1猫。
「トラくん。これは授業だからね。あなたもやらなきゃ駄目よ」
「……えー……俺、いいよ。つまんなそう」
「ま、そう言わずに」
「……」
「クロちゃんとハチくんは、1回休憩ね。じゃ、トラくん。準備できたら言ってね」
「……はぁい」
「じゃ、行くわよ? よーい! スタート!」
先生のスタートの掛け声と共に、トラくんが瞬間的に右へと動く……
(速っ……)
(何よ……スゴイじゃん……ハチより速いんじゃない?)
「最初はぶつぶつ言ってるけど……結局、ちゃんとやるんだよなぁ」と思いながら、乱れてしまった左腕を、毛繕いで整える。
(あっぶな……さっき着地した時に乱れちゃった)
「お腹空いたな」と思って時計に目をやると
お昼の12時になろうとしていた。
あ、やった!
お昼の時間だ――




