【第2章】君たちを繋ぐパレット 第1話
「起立!」
トラが気だるそうに号令をかけた。わたし達は一斉にズズズッ……!と椅子を引く。
「こら! あなた達! 椅子を引きずるなって……何度言ったら分かるの?」
サビ先生は相変わらず厳しい。眼鏡の奥の目が、鋭く光る。
「いけねっ……」
ハチがぺろりと舌を出した。
「お願いしまーす」
「……着席」
わたしはクロ。1歳になったばかりの黒猫の女の子。猫の世界では1歳になるとここ「パレット」に通学して、人のお家に行った時のことを色々と学ぶ。
「はーい、じゃ教科書出してー」
1時間目は国語。……わたしはあまり好きじゃない。サビ先生はわたしばっかり当てる。……絶対にワザとだと、わたしはいつも思ってる。
「クロちゃん? じゃ13ページから読んでもらおうかしら」
「……はい」
「『ちょっとそれ取ってよ』春樹はごろんと寝転んだまま、アゴでくいっと杏沙に向かって突き出した。『自分で取ってよね』杏沙は少し高い声を出して、ドアを開けて出て行った……』
「はい、よくできました! ありがとう」
サビ先生はニコリと微笑んで、教卓に乗り出した。
「じゃ、問題。この時の杏沙さんは……どんな気持ちだったのかしらね」
「クロちゃん? 分かる?」
「えぇー……そうだなぁ……」
悩むわたしの横で、ハチが肩を揺らして笑っている。
「そんなのも分かんないのかよー」
「……うるっさいな」
「じゃ、答えたら良いじゃん」
「分かってるって……! 黙っててよ」
国語が得意なハチ。いつもわたしをバカにしてくる。絶対に楽しんでると思う。
「こら! ハチくん。静かにしてなさい」
「はーい」
「どう? クロちゃん。難しい?」
「……はい」
「分かったわ。……じゃ、座って良いわよ」
「はい……」
人の気持ちを読み取るのは……難しい。
「先生! 俺分かりますよ」
「……ハチくんか。じゃ、答えてもらおうかな」
「杏沙はイライラしてたんですよ。きっと」
「何でそう思うの?」
「春樹がアゴを使ったから!」
ふぅっとサビ先生が息を吐く。
「……正解。良くできたわね」
「いえーい! こんなん……簡単! 簡単!」
パレットに入学したら、誰でも卒業できるわけじゃない。各教科のテストで良い結果を残さないと……ずっとここにいることになる。国語以外はそれなりにできるのに……「読み取り」だけが、どうしても苦手なんだよな……。
(あー……わたし、卒業できんのかなぁ?)
「おい、クロ!」
「……何よ」
「次、体育館だろ? 早く行こうぜ」
「……あ、忘れてた! やばっ……」
ここは猫の学校。
ちゃんと勉強して……人のお家に行った時に、困らない猫にならないと――
しゅるりと細く伸びた尻尾の毛並みを軽くセットする。
みんなの後ろを追って、体育館へと急いだ――




