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【第3章】砂時計は3度で壊れる 第13話

「上手く行ってるみたいだね」

「うわっ! ビックリした……」

部屋に入ると、黒猫がわたしを出迎えてくれた。机の上で、くあぁぁ……とあくびをしている。


「……ちょっと……どこから入ったのよ」

いぶかし気に黒猫を見るわたしに、「あそこだよ」と指し示したのは窓だった。


「ちょっと開いてたよ?」

「あっ……」

「気を付けなよ? 入ってきたのが僕で良かったよ」

そう言うと、ぴょんとベッドに飛び移る。最近お気に入りの定位置らしい。


「ま、でも良かったじゃん。また仲良くなれて」

「真衣ちゃんのこと?」

「そう。だって表情……全然違うよ?」

「そんなに違う?」

「うん。別人みたい」

「……そっか」

いつもは窓の外をぼんやりと見て、感情を殺す毎日だった。考えてしまうと、後悔ばかりして涙がこぼれてしまうから。


「どう……? 砂時計は」

「これ……すっごいねぇ」

「でしょ。凄いんだよ。それ」

「でも……残り1回か」

「……」

「ね、そういえば……聞きたいことがあるんだけど」

「ん? 何?」

わたしはカバンを床に放っぽり投げて、砂時計を机の上に置く。


「何かさ……様子が違うっていうか」

「……様子?」

「そう。みんなの様子。上手く言えないんだけど……無視されてるわけじゃないんだけど……」

「……」

「あれ? わたしのこと……気付いてる? みたいなことが増えた気がする」

「……」

「これってさ、気のせいなのかな」

「……気付いちゃった?」

「えっ?」


ベッドの上に、カカカカカカ……ッッ……と後ろ足で耳をかく。首をブルルルルル……!と回転させて、じっとわたしを見つめる。


「それが、『消える』ってことだよ」

「えっ?」

「僕、言ったよね。忘れちゃったの?」


そうだ。確かに黒猫は言っていた。砂時計を使うと「君は消えていく」って。最初は意味が分からなかったし、それに前回わたしが聞いた時……「まぁ使ってみれば分かる」って言ってたから。それほど深くは考えていなかった。


「消えるって……そういうことなの?」

「そう。君の話を聞いてると、まだそこまで重くは無さそうだけどね」

「……」

「段々、消えていく。みんなの前からね」

「……えっ?」

「どうする。残り1回。まだあるんでしょ?」


いつもは好奇の目でわたしのことを見つめる黒猫……。でも今は、とても真剣な表情に見える。


「何よ……最後、死んじゃうの? わたし」

「死にはしないよ。『いなくなる』だけだ」

「何よそれ……」


消沈気味にわたしに、黒猫がゆっくりと語りかけた。

「でも君は、人生を大きく変えることができたんだろ」

「どっちが良いんだよ」


「真衣ちゃんをはじめ、女子全員に嫌われてしまっていた君」

「真衣ちゃん達に、嫌われはしないけど、気付かれない君」

「どっちが良い?」


あまりの衝撃で言葉が出ない。毎日毎日……色々あり過ぎて、理解が全く追い付かない。今だって……よく分からないけど思考が止まってしまっている。


「ねえ」

「何?」

「これってさ……もっと酷くなっていくものなの?」

「さあ」

「さあって……無責任ね……」

「違うよ。分からないんだ」

「……分からない?」

「うん。考えてくれよ。誰だって使えるものじゃないんだよ? それ」

「……まあ、確かに」

「それに僕は魔女の使いじゃない」

「はぁ?」

「すべての人の所に……僕は行ってるわけじゃないんだ」

「……そう」

「うん。だから『分からない』としか言えない」


悩む。黒猫の言う通り、これまでのわたしは、「やらかしの人生」を送ってきた。それが砂時計を使うと……毎日が、人生がこんなに彩豊かになったんだもん。


「これってさ、2回で止めても良いの?」

「うん。良いよ。それなんだったら、もう返してもらうけど? 砂時計」

「……うん」

「どうする? ここまでにしとく?」


考え込むわたしに、黒猫はぼそりと呟いた。

「もう1回……使えば良いのに」

「えっ?」


好奇心で言ってるのではなく、心配しているような面持ちに見える……。なぜだろう?


「どういうこと……?」

「いや。まだ……使う人っていうか……香織ちゃんにはあるような気がするけどね」

「……」

「……ま、ちゃんと考えたら?」

「……うん」

「もし終わりにするなら、砂時計、返してもらうからさ」

「分かった」

「じゃね!」


トットットッ……と窓に向かってリズミカルに跳ねて、窓からぴょんと出ていった。


「あと1回か」

わたしはさっきまで黒猫がいたベッドにごろんと横になる。


「……」

「どうしようかな」

「黒猫の言ってこと……気になるな」


お父さんお母さんの仲。そして真衣ちゃん。ずっとずっと気になっていた関係。これは……砂時計を使って何とかなった。


(……健二)

小学生の頃は、あんなに一緒に遊んで……いっつも笑ってた健二。お父さんたちは「どうせ反抗期だろう」って言ってたけど……ずっと気になっている。


(本当に反抗期だからなのかな……)


それならば、放っておくのが一番なんだろうか。それに……もし使ってしまったら、わたしはさらに消えていくのか?気になる。


(わたし……最後どうなるのよ……)


黒猫も分からないらしい。「ちょっと怖いな」と思いつつ目を瞑ると、いつの間にやら眠りに落ちていた。





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