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【第3章】砂時計は3度で壊れる 第12話

(……あっ)


気が付くと、飲みかけの牛乳、そして食べ終わったプラスチック容器が目に入った。


(そうか、戻ってきたんだ……)


「何―? どうしたの? 急に」

同じ班の沙英ちゃんだ……わたしに話かけてくれている。


「えっ……? あっ、何でもないよ! ははっ……」

「変なの。ま、何でもないなら……良いけど」


(えっ? えっ? 沙英ちゃんが話かけてくれてる……!?)


沙英ちゃんは、2年生になってから同じクラスになったけど、これまで一度も話なんかしたことはなかった。「わざと……?」と勘繰ったりして、沙英ちゃんをもう一度見てみる。


「……ん? どうしたの?」

「あっ、いや……何でもないよ……」

ちらりと向けた視線がバレた。わたしは慌てて取り繕う。でも沙英ちゃんは特段気にしている様子はない。


(変わったってことかな……? だよね? だよね……?)


確かめるために、美紀ちゃんにも話かけてみることにした。美紀ちゃんも2年生になってから一度も話をしたことはない。それどころか……いつも冷ややかな視線を浴びせてきていた女子の一人。毎日の視線を思い出して……何だか緊張する。



「ね、美紀ちゃん?」

左を向いて、小声で申し訳程度に話かけてみた。


「ん? どうしたの?」

「あっ……えっと、次の時間の授業……何だっけ? って思って」

「次? 確か理科じゃ無かったかな?」

「あっ……、そっか。理科かぁ! あははっ……忘れてたよ!」

「何よ? それ。今日、何だかいつもと違うよね」


やっぱりそうだ! 

みんな……「普通」だ!

普通に話ができる…!


(やった……やった……)


「えっ? 香織ちゃん? ……どうしたの……」

沙英ちゃんが驚くように言った。それもそのはず……わたしはこぼれ落ちる涙を、止めることができなかったから――


「香織ちゃん、帰ろうよ」


何年振りに聞いたのだろう……真衣ちゃんの言葉。

何年振りに会話したっけ……? 

もう、あんまり覚えてないよ……


「うん。帰ろう!」


昇降口で上履きを履き替え、1年振りに真衣ちゃんと並んで歩く。こんなに……嬉しいだなんて。夢みたいだ……。


「真衣ちゃん」

「何? どうしたの?」

「……」

「何よー? 何かあったの?」

真衣ちゃんの笑顔はとっても眩しい。わたしが……あの日、あんなことをしなければ。毎日こうやって帰ることができたのに。


「え……? 何? 何かあった?」

「いや……今まで、ごめんなさい」

「はぁ……? 何かあったの……?」

「へへっ……何でもないよ! 言いたかっただけ!」

わたしは笑いながら前を向いた。もう、この生活を手放したくない。余計なことは言わないぞと心に誓った。


「ただいまぁー!」

玄関でついいつもより大きな声を出してしまった。仕方ない。天に上るような気持ちなんだから。それに変なことを口走っているわけでもないし。


(んっ……?)


「ただいま!」

わたしはもう一度声を出した。お母さんのサンダルがあるから……いるはずなんだけどと思いながら。


(いつもと違うサンダルで、どっか行った……?)


靴を脱ぎ、リビングへと向かう。部屋の奥からテレビの音がするから、たぶん誰かいる。うちの家族はテレビの消し忘れなんかしたこと無かったから。


(ん? ……あぁ、お母さんいるじゃん)


ソファーに座り、洗濯物を畳みながらテレビを垂れ流していた。


「ただいまぁ~?」

ちょっと探るような声色でお母さんに向かって言った。お母さんは私に気付いていないようで、考え事でもしているかのように洗濯物を畳む。


「ね! お母さん!」

「わ……! ちょっと……驚かさないでよ……」

ようやくお母さんが気付いた。本当に気付いていなかったようで、わたしの声にかなり驚いている。


「さっきから言ってたじゃん。『ただいま』って」

「あら? そう……? 全然気付かなかったわよ……」

「珍しいね。お母さんがそんなに考え事するなんてさ。何かあった?」

「何よそれ。色々あるのよ。晩御飯のおかずの事とか……あなたの成績の事とか」

「あ、良いです。聞きたくないですー!」

わたしは笑いながら、2階へと上っていった。


「でね、今日スーパーに行ったら……田中さんに会って」

「へえ。田中さん? 俺も最近全然会ってないなぁ」

「元気そうだったわよ?」

夕食の時も、少し変だった。お母さんとお父さん。そして弟の健二はいつも通りに見えたけど……。


何だか、わたし……蚊帳の外に置かれているような気がした。


「田中さんも、頑張ってんのかな」

「ええ、そんな感じの事……言ってたわ」

田中さん。わたしが小さい頃に、近所に住んでた人だ。


「田中さんて、あの眼鏡かけてた人?」

お父さんとお母さんに聞いてみた。


「今は、何やってるって?」

「パソコン関係のお仕事みたいね……」

「そうかぁ。確か大学もパソコン関連って言ってたよなぁ」


わたしの言葉を流すように、お父さんとお母さんが田中さんの会話を続ける。健二はスマホを見ながら無言。


「ね! ねえってば!」

ちょっと声を大きくした。


「あっ、香織か」

「何よ。『香織か』じゃないわよ。わたし……さっきから言ってるじゃない」

「えっ? 何を」

「『田中さんって眼鏡かけてた人?』って。言ったじゃん」

「そうか? 言ってたか?」

「言ったよ」

「気付かなったな。ごめんごめん」

「……もう……」


学校から帰ってきた時のお母さんも、ご飯食べてる時のお父さんも……何か少し変。健二がしゃべらないのは、いつもと同じか。


ちょっと気にはなるけど……真衣ちゃんとのことが嬉し過ぎる。些細なことは気にならないようになっていた。


「ごちそうさま」

箸を置くと、わたしは跳ねるように2階へと上がっていった――







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