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【第3章】砂時計は3度で壊れる 第5話

艶やかな黒い毛。凛とした立ち姿。ねこじゃらしのような細く太い尻尾。まさにわたしがイメージする黒猫そのもの。


切れ目ではなく、人間のように丸く見開いた目。くりくりっとしている。まるで漫画の世界から飛び出してきたかのようだった。


「やっと落ち着いてきたみたいだね」

胸の鼓動もようやく落ち着いてきた。


「……うん。まだ、びっくりはしているけどね……」

「……まぁ、そうだよね。無理もないよ。座ったら?」

わたしは驚きのあまり崩してしまった本を、元の位置に積み直してから、椅子に座った。


「それにしても……猫がしゃべってるなんて……」

「ははっ! じきに慣れると思うよ」

「……そうだと良いけど」

「香織ちゃんのこと、いつも見てたよ」

「えっ?」

「あれ? 僕が庭に来てるの……気付いてたんじゃないの?」


(そういうことか……だから、いつも庭にいたんだ……)


「知ってたよ。……てか、わたしを見てたの?」

「そう。いつお話しようかなぁって」

「探ってたんだ」

「まぁ、そういうことになるかな」


冷静に考えてみると……もの凄い話だなと思う。しゃべる黒猫が……庭をうろついて、いつわたしと話をするのか探ってた……?誰かに言っても、きっと信じてもらえない。


……そもそも言う相手もいないんだけど。


「で、本題なんだけど」

そう言うと、黒猫くんはピョン!とベランダから部屋の中に入り、わたしのベッドにドサッと座り込んだ。


「……何? 本題って」

「うーん」

「てかさ、そもそも何で、わたしに話をしたがってたのよ?」

「知りたい?」

「……そりゃ、知りたいに決まってるじゃない」


「香織ちゃんの顔」

「顔? わたしの?」

「そう。顔」

わたしは両手で自分の顔をぺとっと覆った。別に何か付いているわけでもない。


「つまらなそうな顔して、空を見てたから」


わたしははっとした。いつも家の中のこと、そして学校のことをぼんやりと考えながら、空を見つめていたから。感情を味わってしまうと……泣いてしまいそうだったから。わたしは、どんな顔をしていたんだろう?


「……そんな顔、してたんだ。わたし」

「そうだね。そんな顔してたね」

「……そう」

「うん」

黒猫くんは、わたしの方をじっと見つめたまま。


「で? そんなつまらなさそうなわたしに……しゃべる黒猫が何の用なの?」

「……」

さっきまで流暢にしゃべっていた黒猫くんが、ピタリを動くのを止めた。


「3回」

「えっ?」

「3回だよ」

「……何が、3回なのよ」


すぅーっと軽く息を吸い込んで、黒猫くんは言った。


「3回だけ……君はやり直すことができる」

「やり直すことが……できる? 何よそれ」

「香織ちゃんは、鈍いね」

「はぁっ?」

「僕の思った通りだ」

「……失礼ね」

にやにやと笑っているようにも見える。猫だから……笑うわけはないと思うけれど。


「嫌なことがあったんでしょ? これまでに」

「……」

「やり直せるって言ってるんだよ」

「……えっ? 本当……?」

じっとわたしを見つめる黒猫くん。少し間を置いてから、呟くように言う。


「そう」

「やり直せる」

今度はわたしが動けなくなってしまった。本当なの?そんなことがあるの?……胡散臭い気もするけれど……しゃべっている猫が目の前にいる時点で……誰かの魔法に掛かっているのかも知れない。


「それ……本当なの……?」

「うん。疑り深くなったんだ」

「そんなの……当たり前でしょ……そもそも猫がしゃべるのがおかしいんだから」

「まぁ、確かに。そっか」

くりっとした目が天井に向いた。


「で? どうする? やり直すの?」

「……やり直したい」

「そう来なくっちゃ」


頭の中を色々なできごとが駆け巡る。

弟のこと――

真衣ちゃんのこと――

最近喧嘩が多い、お父さんとお母さんのこと――


本当にやり直すことができるのだろうか?昔みたいに……楽しく、笑って毎日が過ごせるのだろうか……?色々な想いがぐるぐると目まぐるしく浮かんでは、消える。


「やるっ! やるよ。わたし!」

「うんうん。オーケー! ……ただし」

「……えっ?」


「3回。3回までなんだ」

「やり直すことができるのは」


「……さっき聞いたわよ。それ」

「で、もう1つある」

「えっ? 何?」


「3分間だけ。やり直すことができるのは3分だけなんだ」

黒猫くんは言い終わると、にこっと微笑んだように見えた。


「まぁ……今日はこの辺で帰るよ」

「あっ……ちょっと……」


「また来るね」

そう言い残すと、ベランダからピョンと木へと飛び移り、闇夜に消えていった。


(何なの今の……本当なの?)


短い間に色々あり過ぎて……狐につままれたようだった。

気が付けば、鈴虫たちの演奏会はとっくに閉演していて、月明かりだけがやたら眩しく映った。






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