【第1章】桜木町の喫茶店 第2話
(喫茶……店?)
(あったかな。こんなトコに)
飲食街の外れ。歩く人も、ほとんどいなくなったエリアに差し掛かったわたし。
いつもと違う、店の様子に気が付いた。
明らかに最近できたとは思えない……趣のあるお店。店名が書かれているはずの看板も、すでに読めなくなるほど。
40年、50年は経っていそうな、アンティークな雰囲気を漂わせている外観。
(素敵……)
出勤で毎日通っているはずの道。「何で気付かなかったんだろう?」と思いながらも、雨宿りのためと思い、入ってみる事にした。
カラン……カラン……
ドア上部に付けられた鈴の音が、店内に乾いたように響き渡る。
ギイと少しだけ開き、中を覗くと、イメージ通りアンティーク調の店内だった。8席ほどのカウンター。そしてテーブル席が、5つほど。
「……すいませーん」
こもらせるように、店の奥に向かってしゃべりかけてみた。
(あれ? もう、終わっちゃったかな)
「すいませーん……」
よく見てみると、店内にお客さんは入っていない。「きっと夕方までなのかな」と思い、ドアをゆっくりと閉めようと思ったその時
「はい」
奥から穏やかな声が聞こえ、ドアを閉じようとする手がピクリと止まった。
「あっ、すいません」
「お客さまでございましたか、これは大変申し訳ございませんでした」
少し白髪交じりの、おっとりとした男性。白いワイシャツ姿に黒いエプロンを身に付けていた。頭を下げて、わたしに言った。
「どうぞ。よろしければ」
「あっ、お店……まだやってるんですか?」
「ええ。夜の9時までになりますが」
優しく微笑みながら、男性は言った。少し寒く、雨が降る夜。「誰もいない方が落ち着けるな」と思い、わたしは温かい飲み物が欲しくなり、お店の中へと足を踏み入れた。




