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【第2章】君たちを繋ぐパレット 第11話

俺は6畳ほどの部屋の中で目が覚めた。


(……ここ……どこだ? ……痛っ)

さっきまで学校で最後のお別れをしてたのに……俺はとうとう誰かに家に来てしまったらしい。


(ふかふかだな……このベッド)


中世のお嬢様が寝ているような豪華なベッド。もちろん俺に合わせたサイズだけど……この家の人は、お金持ちなんだろうか。それにしても誰もいないな……


(声、出すのは……ちょっと怖いな)

(……もう少し様子を見てみるか)


まだ眠気も完全に覚めていない。俺はこの家の人が来るまで……もう少しだけ寝ることにした。


(はぁ。本当に来ちまったのか……みんなちゃんとやれてのか……?)

(変なヤツじゃなけりゃ良いけど)


ウトウトし始めた頃、部屋のノブが回る音が聞こえた。


ガチャッ


(……来た……!)


目はぱっちりと開いているが、体はピクリとも動かさないようにした。匂いから……きっと女の人なんだろう。ちょっと香水のような香りが漂って来る。


(臭っいなぁ……)


嫌な予感がしている俺の横を、女性が横切って、まじまじと俺を見つめてくる。目が合ってしまった。


「あら! 猫ちゃんー! 起きた?」

耳がキーンとしてしまうような、つんざく声。俺の苦手な音だ。


「にゃぁ!(誰だよ!)」

「あらー……可愛いわねぇ!」

「にゃ!(何言ってんだよ!)」

「だいぶ落ち着いたかしら? 怪我も……無さそうだしね」


(怪我……? どういうことだ?)


「良い子ね! もう大丈夫よー! ここは安全だからね」

「にゃあー(どういうことだ)」

「さ、一緒に行きましょうか」


女の人は、俺をひょいと抱き抱えると部屋を出て、階段を下りていく。


「危なかったね。変な猫ちゃん来たら……大変だったよ? あなた」


どうやら俺は拾われたらしい。公園で俺が1匹でいるところを……家に連れて帰ったんだそうだ。女の人が言っていた。どうやら2階建ての家に、一人で住んでいるらしかった。


「あなたの名前……何が良いかな」

「にゃ!(俺の名前はハチだ!)」

「そうね……。トトロくんにしようか!」

「にゃあー!(だから!俺はハチだって!)」


この時から「トトロくん」になった。

サビ先生から「女の人はママ。男の人はパパって呼ぶんですよ」と教えてもらったが……何でだろう?俺はこの人を「ママ」とはどうしても呼ぶことができないんだ。


とにかく、しつこい。……いや、うっとおしい。


ある日の夜……俺にとってラッキーなことが起きた。


「寝ようかな……」

ソファーでゆっくり寝ている俺の横で、この女の人は呟いた。伸びをしている。「寝れば良いじゃないか」と思った。


「さ、トトロくん。寝ましょうか」

「にゃぁ……(俺は良いって。ここで)」

「行きましょうかね」

俺は小さい。抵抗する俺を軽々抱き上げて、女の人は階段を上っていく。きっと……俺が最初に目を覚ました部屋なんだろう。


でも、女の人は俺をお姫様のベッドには置いてくれなかった。


「寝ましょう。トトロくん。電気消すよ?」

無理矢理、俺を布団の中に入れてきた。しかも、ギューッと抱きしめてくる。


(……苦しいな)


俺は触られるのが好きじゃない。腕を振り払い、かいくぐるようにして布団から出る。


(はーっ……苦しかった……何なんだ)


「ちょっと……トトロくんは、ここ」

もう一度俺を抱え上げて、自分の胸の辺りに置いた。今度は両腕で俺を押さえつけてくる。


「にゃー!(止めろよ!)」

「お休みー。トトロくん」


どうやら俺が嫌がっていることが……分かっていないらしい。俺の嫌がる鳴き声を、可愛いとすら思っている感じがする。


(……いい加減にしろよ)


イライラが頂点に達した俺は、勢いよく女の人の胸を蹴り飛ばす。するりと腕から抜け出すことに成功した。「ちょっと! トトロくん!」女の人も、少しイライラしているように見えた。


(どうすりゃ良いんだ……)


女の人から距離を取り、部屋の中を見渡す。


(あっ……!)


女の人の後ろ。大きな窓。右側だけがほんのちょっと開いている。


(……あそこだ!)


俺はぐっと後ろ脚に力を入れて、一瞬のスキをついて走り出した。女の人は少しひるんだようで、身動き一つ、していない。窓が少しずつ少しずつ……近づいてくる。


(もう少し……!)


力を振り絞り、残り30センチのところで俺はジャンプした。残りの力を全部使って。「あっ!」と後ろから叫ぶ女の人を横目に、俺は窓から外へと飛び出した。


おさらばだ。

こんな家――


(2度と人の家なんかに……行くかよ!)


ごめん。サビ先生。

俺……人と暮らすのは無理だと思う――





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