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【第7章】やんちゃな彼氏は、子猫で更生! 第9話

飯を食い終わって、ぺろりと舌で口の周りを舐める。昨日と同じ仕草だ。腹がいっぱいになったのか、にゃーにゃーみゃーみゃー鳴くこともなくなった。


「はぁ……うるせぇな。お前」

「……」

「今度は鳴かねぇのかよ」

「……」

「ま、良いけどよ」

2個目の冷えたからあげを半分口に入れた。「チンもできなかったじゃねぇかよ」と思いながら。


「お前さ……どっから来たんだ?」

「……」

「1人なのか?」

「……」

じっと俺の顔を見続けている。


「はぁ……良いよな。猫は。仕事もしなくてよ」

「……」

「こうやって飯ももらえて。鳴きゃ飯が出てくるんだから」

「にゃっ」

「良いよなぁー……お前は。俺も猫になりてぇよ」

「にゃあー……」

「毎日毎日……面白くねぇなぁ……」

「……」

「金でも、その辺に転がってねぇかなぁ」


秋の朝。まさか外で飯を食って……隣に座っている黒猫に1人話かけることになるなんて。


黒猫がすりっ……すりっ……と俺のひざに頭を擦り付けてきた。


「何だよ、お前……」

「飯くれた、ご挨拶ってか?」

しつこくしつこく……黒猫は、目を瞑りながら頭を擦り付けてくる。こわごわと手を伸ばしてみると、嫌がることなく頭を触らせてくれた。


「……へぇ、意外とふさふさなんだな。お前」

「にゃー!」


俺の顔を見て、嬉しそうに鳴いた。



――


――


――


結局、夜になっても真美子は戻ってこなかった。「まだ20万円以上ある」と思うことにして、仕事を探すことなく、のんびりと過ごした。


(……飯、買いに行くか)


真美子が出て行ってから、毎日同じことの繰り返しだ。朝、目が覚めても……飯はない。服はこの前コインランドリーに行ったから1週間は持つ。飯の準備と部屋の掃除は誰もやらない。ゴミの日も分からない俺は、台所にゴミ袋をどんどんと溜めていった。


(9時かよ……)


スマホで動画を観ながら、そのまま気付けば朝を迎える。パチンコは少し控えるようになってきたけれど、怠惰な生活自体はそのまま変わらない。


布団を蹴とばし、昨日脱ぎ散らかしている服を蹴とばし……財布と鍵を手に取った。


(……いったいいつになったら戻ってくんだ?)

(いなきゃいないで……怒るやつがいないからせいせいするけどよ)


いつものように玄関のドアを開けようとすると……また黒い物体の影が、ドアのガラスから透けて見える。


(おい……毎日いんのか? ひょっとして……)


黒い影が、黒猫だってことは分かっている。俺が朝飯を買いに行くのを分かってて……家の前で待ってるってか?そもそも親はいねぇのか?あいつは……。


ガラララ……


「……にゃあ」


ドアを開けた瞬間、俺の顔を見上げて鳴く、黒猫。……いつもと雰囲気が少し違う気がする。


(……?)

「どうした? お前、何かあったのか?」

「……にゃぁ」


少し鳴き声が弱々しくなっていた気がした。「いつもはうるさいくらい鳴くのにな……」と違和感を感じはしながらも、朝飯のために車へ向かおうとする。


「じゃあな。俺……飯買いにいかなきゃいけぇんだよ」

「……」

「昨日みてぇに、エサもらえると思うなよ。じゃな」


俺は軽く黒猫の方を向き、ばいばいと手を振った。


「……にゃあーー……」


駐車場に向けて歩く俺を、黒猫が追ってくる。


「……おい……ん?」


歩く様子が……少しおかしい。左の前足に、上手く力が入っていないような……猫なんて飼ったことないから、詳しくは分からないけど。


「おい……」

「にゃぁ」


やっぱり。いつも俺の方に向かって歩いてくる時の、歩き方じゃない。


「お前……どうした?」

「怪我したのか?」


「……にゃぁ」

「そうだよ」と言わんばかりの表情。そして鳴き声……。目を潤ませるように、じっと俺を見つめて鳴いている。


「どうしたんだよ……お前」

「喧嘩でもしたのか?」


「……」

無言で俺の足元までよたよたと歩いてきて……スネの所に、頭をすりすりする。痛々しい雰囲気……。


「お前……」

俺はしゃがみ込んで、しょんぼりした雰囲気の黒猫の頭を撫でた。目を薄っすらと瞑りながら……グルグルグル……と喉を鳴らしている。


「……ちょっと待ってな」

俺は急いで鍵を開けて、家の中に入る。服がぐちゃぐちゃになった部屋をぐるりと見渡して、コインランドリーに持っていたゴミ袋の中からタオルを2枚取り出した。


(……よし。段ボール……)


玄関先に置いてある段ボールも手に取って、黒猫の所へ向かう。「にゃっ」と小さく鳴きながら、俺の方に歩いてくるけれど……やっぱりだ。怪我してる。


「……ほら」

また俺の足元にすり寄ってきた黒猫を、ひょいと両手で持ち上げて、タオルで包む。


「……にゃぁ」


特段、嫌がる様子もない。そのまま俺は段ボールの中に入れる。「嫌がるだろうな」と思っていたけれど、段ボールの中で黒猫はうずくまって……じっと動かなくなってしまった。


「……はぁ」


俺は段ボールを助手席に置いて、ナビを起動させた。


『遠藤動物病院』


人生で初めての動物病院。いつも真美子とスーパーに買い物に行った時に、近くを通って知っていた。「こんな頭で行って良いのか……?」「予約とか要るのか……?」色々な疑問が浮かんではきたけれど、とりあえず、急いで病院へと向かった。








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