表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/118

【第6章】次に会うのは、デイジーの咲く頃 第16話

「あらー? 春ちゃんじゃない」

「お疲れ様です。ちょっと買い物に」

春おばちゃんが、店員さんと仲良く会話する。……いつも働いているから、当たり前か。


「この子。うちの姪っ子なんですよ」

わたしの背中をぽんと押すように手を置いた。


(えっ……わたし?)


「あら! 可愛いね。高校生?」

「あっ……はい。雪乃です、高校2年です……」

まさか自己紹介することになるとは思っていなかったから……顔が真っ赤。熱くなる。


「大分市内?」

「いえ、横浜……神奈川県です……」

「えー! 都会だねぇ。こんな田舎……何も無くて退屈でしょ」

「いっ……いえ、空気も綺麗で……大好きです」

「あははっ! それしか無いとこだけどねぇー」

レジのおばちゃんは優しそうに笑ってくれる。「あまり訛って無いんだな」とわたしは思った。


「じゃあ……この野菜と、お米貰おうかなぁ……」

わたしがレジで話をしているうちに、春おばちゃんはお目当ての品を既に選び終わっていた。少し重そうにお米を抱えて、レジへと運んでくる。


「雪乃ちゃん、これ……車に入れておいて」

「あ、はい」

車の鍵を受け取り、裏に止めてある車へと向かった。


お米の見た目はお母さんが買ってくるのと変わらないけれど……野菜は何だろう。土がついていたり……緑の葉っぱがすごく長かったり……とっても自然な感じがする。


「よいしょっと……」

後部座席のドアを開けて、お米と野菜をゆっくりと座席に置く。何か視線を感じて……ドアを閉めると、目の前には真っ白の猫ちゃんが立っていた。


(あ……猫ちゃんじゃん……)


「こんにちはー……」

ゆっくり、ゆっくり……膝を下ろし、しゃがみ込む。「にゃーん」と小さく鳴いて、猫ちゃんがこっちに向かって歩いてくる……


(来たぁー……)


ほっそりとした白猫。畑の土と逆の色をしているので、とっても目立つ。


「あらぁー……可愛いねぇー、あなた」

手の甲にすりっ……すりっ……と頭を擦り付けてくる。思わず「良い子! 良い子!」と連呼しながら、頭をよしよししてしまう。


(いやぁー……この子も可愛いー……)


「にゃあー……ん」

「こんにちはー! あなた、綺麗ねー……」

グロロロ……グロロロ……と喉を鳴らしてる。……たまに「フガッ……」って聞こえるのが、これまた愛おしい。ちょっと笑ってしまいそうだけど。


「あら、タビじゃない」

春おばちゃんが、いつの間にかわたしの真後ろに立っている。猫ちゃんに夢中で、全く気付かなかった。


「……タビ?」

「そう。この猫ちゃんの名前。この畑にいつも遊びに来るのよ。この子」

「へぇ……タビちゃんか。よろしくねぇータビちゃん」


「にゃっ!」

嬉しそうに、タビちゃんは鳴いた。


「凄い畑だね。ここ」

「でしょ? 代表がずっと大切に耕してきてるみたい」

「へぇ……」

「都会にいるとさ、ただスーパーで買ってきて、食べるだけでしょ? 何も分からないよね。実際にわたしもそうだったしね」

「……わたしも。お母さんの作ったご飯を食べるだけ」

「はははっ! 高校生だと、なおさらだよね」

そう言うと、おばちゃんは畑の方にゆっくりと歩いていく。


わたしもタビちゃんにバイバイを言ってから、後を追う。


「ここでさ、ちょっとサンダル脱いでごらん」

畑の隅で、黒い土を指さしながら言った。


「ここで?」

「そう。で、この土……踏んでみると良いよ」

サンダルを抜いで、言われた通りに畑の真っ黒になった土に足を踏み入れる。……恐る恐る。


「どう?」

「……ひんやりしてるね。気持ち良いかも」

「でしょ? ひんやりしてるよね」

「うん。あぁ……土、ふかふかだねー……」


土が、足の指の間に……むにゅっと入り込んでくる。ふかふかのフワフワ……こんな土、横浜じゃ見たこともないし……触ったこともない。


「他の畑とは違うのよ。ここの土」

「へぇ……もっと固いのかと思ってた」

「土を素足で踏むなんて、向こうじゃあり得ないでしょ?」

「うん。……小さい頃に、砂場で遊んでたくらいかなぁー……それに土が全然違んだけど……」

「でしょ?」

「うん。ふかふか……何これ」

「向こうの土が変なの。これがね、自然の土なんだよ」


小学校の低学年の頃。友達と一緒に近くの公園で遊んでいたことを、急に思い出した。でも土は……全然違う。


「春おばちゃんとも……一緒に行ったな」

「そうだったね。土が……思い出させてくれたんだね」

「……」

「良かったじゃない」


何だか、もの凄く懐かしい感覚になった。子供の頃に戻ったかのような……。


「……帰ろっか。ご飯の支度もあるしね」

おばちゃんは足を洗い流すための、水道の場所を教えてくれた。


お店を出ると、またさっきの道を反対方向に進んでいく。本当に一面の森。どこを見渡しても緑色しか見えない。のどかな風景。


「もう帰るんだ」

「うん。雪乃ちゃんに体験してもらったからね」

「……何を?」

「土」

「さっきの黒い土?」

「そう。良かったでしょ? 直接素足で触れると」

「……凄かった」

「都会にいるとさ、ああいう経験が無くなるからね」

「……」

「私は……初めてあの土っていうか……土を素足で踏んだ時、涙が止まらなかったよ?」

「……あぁ……」

「不思議だよね。自然に出てくるの」


おばちゃんの話を聞いて、なるほどなと感じた。わたしは涙までは出なかったけど……小さい頃を思い出して、何だかとっても懐かしくなったから。あの真っ黒でふわふわの土。どこかすごく懐かしい……。


「あなたはね、まだギリギリなのよ」

「……わたし?」

「そう。私ほどまで行っちゃうと……戻すの大変だから。気を付けてね」

「聞いてたんだ」

「お母さんから、この前電話で聞いたよ。私と同じで……目まい大変なんでしょ」


驚いた。お母さんには目まいのことは……内緒にしてたのに。


「え? お母さんが言ってたの?」

「ははっ……違うよ。予想」

「……予想?」

「うん。たぶん、同じなんだろうなって」

「……」

「メニエール病っていう所まで行っちゃうと……本当に大変だから。自分を大切にしてあげてね」

「……うん」


見渡す限りの森。そしてどこまでも続く青い空。

わたしの頭の中……そして心を癒してくれているように感じた。気持ち良い。


家に戻ると、昨日とは違って、ペペちゃん達のお出迎えは無かった。


「あれ……? どこ行っちゃったんだろ」

「どっかお散歩してるんじゃない?」

お米と野菜を、窓から家の中に運び入れる。


「どっか行っちゃわないの? あの子達」

「今のところはね」

「えー……何それ」

その時、ぬっと家の脇からハチくんが姿を現した。


「あー! ハチくんー。ただいまー」

「にゃーん!」


「すっかり気に入られたみたいね。雪乃ちゃん」

「えへへ……わたしも好きになっちゃった」

「ちょっとお散歩、付き合ってあげたら良いよ。この子たちも……雪乃ちゃんと外で遊びたいんじゃないかな」

じっとわたしを見つめていたハチくんは、おばちゃんの言葉を理解しているかのように、ゆっくりと家の周りを歩き出した。


「ふふ……付いていったら?」

そう言い残し、おばちゃんは家の中へと入っていった。


「えっ……? あっ……ちょっと待ってよ……」

わたしもゆっくりと立ち上がり、ハチくんの後を追った。


ハチくんは尻尾をゆらゆらと揺らしながら、生えているたくさんの草をクンクンと匂いのチェックをしている。特に行くあても無い感じで……。


「……ねえ? あなた、どこ行くの?」

「にゃぁー」

「お散歩、好きなの?」

「……にゃっ!」

わたしの膝に、頭をコツンとぶつけると、そのまま草に沿って歩き出して行った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ