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【第6章】次に会うのは、デイジーの咲く頃 第14話

(……色々あったんだなぁ)


お風呂に漬かりながら、春おばちゃんの話を思い出していた。床がぐにゃりと曲がる……わたしと同じじゃん……


「私、あと一歩遅かったら……ヤバかったと思う」

おばちゃんの言葉を思い出し、「わたしもいづれ……そうなるのかな」とぼんやり考えてしまう。


(ん……?)


ふと気付くと、お風呂場の窓が少し開いていて、サーっと気持ちの良い夜風が入り込んでいた。


(気持ち良いな……)

(……空気に変な臭いが付いてない……)


静寂に包まれた暗闇に包まれた、窓の外。耳を澄ませば、遠くの方から聴こえるわずかばかりの虫の音――そしてとにかく濃い緑の香り。


(何ここ……ほんと落ち着く……)


ちゃぷん……と肩まで湯船に漬かり、穏やかに目を閉じる。


(はぁー……)


窓を開ければ、車の音や街の生活音が聞こえ、鼻の奥を刺激するような曇った臭い……わたしの住んでいるマンションや電車の中とは、世界が違う……


(同じ日本なんだ……)

(こんな場所が……あるんだな……)


無音の世界で、心と体が溶けていくように感じた。


「……わっ!!!」

目を開けて、思わず声を出してしまった。目の前に、ペペちゃんとハチくんがぬっと静かに立っていたから。


「ちょっとー……驚かさないでよね……どうしたの?」

じっと浴槽の横で立ったまま、微動だにしない。


(……何? 何? どうしたの?)


少し小首を傾げながら、つぶらな瞳で真っすぐにわたしを見つめる――


「こらっ!」

おばちゃんの声が、お風呂場の外から聞こえた。


「あんた達……駄目でしょー? 雪乃ちゃん、今お風呂入ってるんだよー」


「雪乃ちゃん、ごめんねー? 勝手に入っちゃって」

「あっ、大丈夫です」

わたしは外に向かって、少し大きな声を出す。でも、お風呂場の入口も少し開けてある。


「実はさ、お風呂場……この子達の通り道なんだよね」

「……通り道?」

「そう。お風呂場を通って、外に遊びに行くの」


(なるほど……そういうことか……)


お風呂に入る前に、おばちゃんが「窓、ちょっとだけ開いてるけど、気にしないでね? たぶん大丈夫だと思う」と言っていた理由がやっと分かった。「大丈夫だと思う」の意味が分からなくて、ちょっと気になっていたけど。


「そっか。あなた達の通り道だったんだね」

にこっと笑ったけど……猫たちはきょとんとしていた。


――


――


――


横浜と違って、ここは夜エアコンを付けていないことに驚いた。9月に入ってもまだまだ夜は暑くて……家じゃ絶対に考えられない。


「和室で寝たら良いよ」

春おばちゃんは、2階。わたしは1階リビング横にある和室で寝ることにした。6畳ほどの広さだけど、とにかく窓が広くて解放感が凄い。「だってコンクリートに囲まれた家じゃ……息苦しいでしょ?」とおばちゃんは言っていた。


(……)


布団を敷いて寝ようとしたわたしを、リビングから3匹の猫たちがじっーっと見つめている。


「何? あなた達……寝るの?」

声をかけてみたけど……返事は無い。


「寝ないの? ……わたし、寝るよ?」

最後に声かけだけをして、わたしはブランケットを布団代わりに胸までかける。一人で遥か山奥にある旅館に泊まりに来ているようで……疲れが体を通って、地面に抜けて行くような感じがする……。


あっという間の、1日だった。春おばちゃんに……そんな事があったなんて、わたしは全く知らなかった。わたしの中では、いつも笑顔で優しいおばちゃんという存在だったから。


(……大変だったんだろうなぁ……)


いつもと違う天井を、ぼんやり見つめながら思う。


ここは静かで良い。のんびりした時間が流れて……たくさんの緑、そして広い場所を見ているだけで、とっても癒される。「そういえば……大分に来てから、まだ目まいが出てないな」とわたしは気が付いた。


(わたしの家も……こんな感じだったら、良いのにな……)


うとうとしているうちに、わたしは眠りに落ちた。




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