表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

【第2章】君たちを繋ぐパレット 第7話

「にゃーちゃーん」


「にゃー(何―)」


「にゃーちゃーん」


「にゃー!(だから……何よ!)」


返事してるのに……パパはわたしの名前ばっか呼ぶ。何か用事でもあるのかな。用事ないなら、呼ばないでよね。……わたし、お部屋のパトロールで忙しいんだからさ……


6畳ほどの部屋が2つあるだけ。すっごい小さい家。昨日の夜に探検してみて分かった。ふすまを開けると、トイレとお風呂。で、もう1つのふすまの向こう側はキッチンになってる。パパとママは、わたしをキッチンには絶対に行かせてくれない。えっ?なんで向こうがキッチンになってるって分かったかって?


……だって向こうから、いつも良い匂いがするからね。


「にゃーちゃん、全然コードを噛んだりしないんだよなぁ」

「ね。きっと……賢い猫ちゃんなんじゃないかな」

「ネットだと、結構スゴイって書いてあったけど……助かるなぁ」

「ふふっ……うちらに合わせてくれてるのかもね」


コード?あぁ……あの黒くて細い線のこと……?みんな、あれを噛むんだ……なんでだろう。全然良い匂いもしないし、食べても美味しくないのに……


「何かね、遊び道具みたいに思うらしいよ? ネットにそう書いてあったよ」

「ふぅん……確かに、細いからか」


へぇ。あれが遊び道具なんだ。他の子たちは。……わたしには全然そう見えないけどなぁ……きっとサビ先生のくねくねぼうきのお陰なのかもな。流石、先生。


そうそう。昨日来た時に見た、黒くて大っきい箱の正体が分かったんだよね。


「寒いよなぁ……エアコンだけだと、もうキツいな」

「……うーん、そうね」

「俺は良いけど……にゃーちゃんが風邪引いちゃ、大変だしな」


パパはそう言うと、黒い箱のそばに移動して何かをくるんと回した。


ビーーーーー……!!


けたましくて、大きい音。わたしはビックリして……思わずテーブルの上にジャンプして、カーテンレールの所まで登ってしまった。だって……もの凄い音だったから……。


次の瞬間、シュボッ!!と音がして、黒い箱の真ん中が真っ赤に染まった。


(暖かい……!)


確か、ストーブってやつだと思う。国語の授業で習った気がする。あれ?……ヒーターと何が違うんだっけ……忘れちゃった。ま、すっごく暖かくなったから、別にいっか。


「にゃーちゃん。暖かい?」

「にゃー!(うん! ありがと!)」


わたしのこと、考えてくれてるんだ。……パパもママも優しいな。


パパとママは、とにかくたくさんたくさん、わたしの頭をなででくれる。強すぎないし弱すぎないし……ちょうど良い。お腹もなでようとしてたから、1回だけ怒って噛んだ。それからは止めてくれたから、許してあげた。


「にゃーちゃん、これ。買ってきたよ!」


「にゃっ?(んっ? ……なに?)」


ゆっくりエアコンの下で寝ているわたしに、パパが声をかけてきた。……ついさっき家のパトロールが終わったばかりなのに……何なのよ?


「これこれ。遊ぼう!」

パパがガサゴソと袋に手を入れる。わたしはじっとその動きを見つめる。


「じゃんっ! これ!」

(あっ……! あれは)


細い棒の先に……何か付いてる!あれ、捕まえなきゃ!!


わたしはママが買ってくれた専用のベッドから飛び起きる。そして段差を気にしながら、トン!トン!と軽やかに床まで下りてみせた。


(捕まえなきゃ……!)


「あ、にゃーちゃん下りてきたね」

ママが優しくわたしに声をかけてるけど……あまり耳に入って来ない。だって、あれを捕まえるのが先だから。話はその後。


「よし! じゃ、行くよ!」

パパの一声で、棒の先端に付いてるやつがふりっ……ふりっ……と静かに左右に動き出した。


(ん……動き出したなぁ……)


わたしも意識を集中させて、次の展開を予測。


ふりっ……ふりっ……ふりっ……


(右……左……右……)


一定のリズムで動いていることが分かる。わたしもつられて顔を左右に揺らす。


(次っ! 左っ……!!)


わたしは後ろ脚に力を込めて、お尻を揺らす。……勝負は、一瞬で決まる!


(……今だっ!)


爆発的に距離を詰めた、その瞬間……左に動くと予想したタイミングをわずかに外されてしまった。


(……えっ? ……なんで……)


呆然とするわたしに向かって、パパが呟く。

「……甘いな」


わたしは砂を噛む思いだった。「悔しい……次は絶対……」燃えるような気持ちが、胸の奥から湧き上がるのを感じる。


「ほらっ!」

パパがまた、細い棒を左右に揺らす。次の失敗は許されない。


ふわっ……ふわっ……ふわっ……


さっきよりも優しい動き。「簡単だな」と思ったけど、気を引き締め直す。


(もしかすると罠かも……慎重にいかないとな……)


さっきよりも半分タイミングで動く。これなら、動きを予想するのは容易い。


(たぶん、大丈夫! 今だ!)


これが動物の勘というやつなのだろうか。パパがとっさに腕を引こうとするのと同時に、わたしは飛び出していた。


(……獲ったっ!!)


しっかりとわたしの両手に挟まれた先端部分。もぞもぞと動いているけど……絶対に逃がさない。押さえつけている手に、一層力を込める。


「うわっ……やられたぁ……」

「にゃーちゃん、凄いな!」

パパがのけぞるようにして驚いている。


(でしょ? スゴイでしょ! ……獲ったぞ)


凛々しくわたしは背筋を伸ばす。こんなに清々しい気持ちになるなんて思ってもみなかった。満足したわたしは再び軽やかに飛び跳ねて、エアコンの下へと戻る。


(はぁー……満足、満足……)

(サビ先生のくねくねぼうきの授業……役に立ったなぁ……)


学校での授業を懐かしく思い出しながら、わたしは再び眠りに落ちた――


サビ先生――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ