1話 キッチン
この監獄にきて2日が経ち、ある程度ここの生活には慣れてきた。
この監獄では労働日と自由日が交互に繰り返される。
労働日はそれぞれ割り当てられた仕事をこなし、自由日では広場や牢、その他多少の娯楽を得れるスペースがあり、そこで1日中過ごすことができる。
「はぁ〜〜っ。 今日はお仕事かぁ〜」
ミヤビが大きなため息をつく。
「お前は今日なんの担当なんだ?」
「ん〜?僕は今日コック長だよ?」
《コック長》。ここでは自分たちの飯は自分たちで作ることになっている。コック長はその総指揮をとることになっている。
「コック長って1日キッチンに泊まれるんだっけ?」
「そそ。キッチンの警備と朝食の準備?とやらでね。」
「じゃあ今日は1人かぁ〜。少し寂しいな」
「あはは。明日になったら会えるだろうが〜」
なんて2人で楽しく話していると。コッコッと鉄の床を歩く音が段々と近づいてくる。
「囚人番号4番、5番。少しうるさいぞ。」
檻の前に立つのは囚人区域を担当する看守。囚人区域には3人の看守がおり、その中で唯一の女性看守だ。
「5番。今日はお前がコック長だ。鍵を受け渡し後、キッチンへ案内する。」
ミヤビは淡々と説明する看守に軽く返事をし鍵を受け取る。「またねっ」と俺に微笑みミヤビは牢出た。
ミヤビを送り出して数分後、俺も看守へと連れられ工場へと向かう。
◇◇◇◇◇◇
壁や床は鉄のようなものでできており、衛生基準を超えているかは怪しい薄暗いキッチン。
「食材は冷蔵庫にあるものを使え。あと2人囚人を連れてくる。今日の夜までに用意するように」
僕の今日の担当は《コック長》。この刑務所では昼ごはんという概念がないので、夜ご飯と朝ご飯を作ればいいだけ。
レシピも用意されてるし、特に難しいことはないんだけど......
(他の囚人来るのダル〜〜ッッッ)
ミヤビは基本的に人と関わるのを嫌う。別にコミニケーションが不得意とか、おどおどしてるとかではない。
むしろ、側から見たら社交性があるように見える。ただ人と関わるのは気を使う、という理由で人と関わることを避けているのだ。
囚人2人がキッチンへと到着する。
「よろしくです」「うっす」と、2人の囚人が挨拶をする。
丁寧にお辞儀をし、いかにも好青年のように見えるのが囚人番号9番。目を合わせようとしてもずっと下を向き、不機嫌そうにしているスキンヘッドの男が囚人番号10番のようだ。
「よろしくね〜。」
とりあえず愛想良くしておこうと手を振りながら挨拶をする。
レシピを渡し、黙々と作業を進める。
(ま、僕としては無言の方が嬉しいからいいけど......)
料理の音だけが響く空間に若干の気まずさを感じながらも、どこか安堵していた。
(本題に取り掛かりますか......)
労働日は2日に1回。さらに20人のなかから1人しか選ばれないこの役職。死刑までにもう一度なれるかなんてわからない。
脱獄するための鍵があるかもしれない、ミヤビはコック長になった時から探索することを決めていた。
(ベタなのはやっぱりダクトだよな)
換気扇等の裏に続くダクトから移動。脱獄ドラマならベタな展開だ。
そう思い換気扇を見てみるが、錆びた鎖と鍵でガッツリ施錠されていた。
(ニッパーとかあれば......てか人が通れるサイズではないか)
キッチン内の設備はいたってシンプルコンロが4台、シンクは広すぎず狭すぎず。
小さめの洋食屋くらいの広さのキッチンだ。
室内には扉があり、そこにベッドや家具がある。
「料理も娯楽の一つ」。ということなのか、棚には以前のいた囚人達の創作料理ノートらしきものがあった。
食材はかなり余分に用意されているので、作業終了後も好きに作って食べてもいいらしい。
(2人はちゃんとやってるし、僕だけ寝室でゆっくりなんてのはできないよなぁ。)
とりあえず探索を中断し、作業へと戻る。
なんの脈絡もなく、寡黙そうな10番が口をひらく。
「2人はなんでここに?」
収監された理由を聞きたかったのか、作業を続けながら僕たちに問いかけた。
「私は......ははっ。人を殺しちゃって。」
「人殺し?それだけでここに収監されるの?」
僕は不思議に思った。かなり身分の高い人を殺しでもしない限り死刑になんてならないはずだ。
「あー、えっと。その。50人ほど......」
「ご、50!?!?」
僕は思わず大声をあげてしまった。
「病院でも爆破したのか?」
「あー、はい。そんなとこです。」
2人があまりにも普通に会話していることに驚きを隠せない。50、50だぞ。
大犯罪なんてレベルじゃないだろ......
「で、お前は?」
2人がこちらをみる。
「ぼ、僕は......カジノの銀行強盗です。」
「カジノ......あ〜っ!あの世界最大の?みたいなやつか!」
「あっ、はい。それです」
「あれねぇ。ニュースで見たよ。」
「私も見ましたよー」
「あの、10番さんは?」
「俺は濡れ衣だな。」
「「濡れ衣?」」
僕と9番さんの声が重なる。
「元々極道でな。まんまとはめられたんだわ」
「なるほど、気の毒にです......」
9番さんが慰めるような素振りをする。
「じゃ、じゃあ。脱獄とか考えたりしてるんですか?」
僕は踏み込んだ。濡れ衣。本人は絶対に納得していないはず。
脱獄の仲間が増えるのはこっちにとっても利益になるはず。
「いーや?もう諦めたね。」
予想外の返事に僕は手を止めてしまう。
「もう仲間はほとんど死んだ。そして俺は裏切られた。戻っても1人だ。だったらここで死ぬのも悪くない。」
どこか悲しそうな表情で、10番さんは喋っていた。
「ただ......」
10番さんが何かを言いかけたと同時に、部屋の隅にあるスピーカーから看守の声がした。
『キッチン担当につぐ。食事を食堂までもってこい。至急だ。』
時計を見ると夕食の時間を既に超えていた。
「やばっ!みんな、急いで運ぼう」
そうして僕たちは大急ぎで食事を運んだ。
(10番さん。何を言いかけたんだ?)
不思議に思っていると、食堂の本棚にある奇妙な本に気がついた。
(あれって......)
つづく




