第5話 神に逆らい、護れなかった者
〜前書き〜
作戦も決め、編成も決め、いざ西11番地区へ。
場所は因縁の地に近い。
険しい表情のセルヴィーロに、不安を覚える。
果たして、訓練を活かすことはできるかな?
作戦会議をしてから2日。
準備も終わり、今日出発だ。
ルフィーナは朝日の熱で目を開けた。
雲ひとつない空。今日は、良い遠征の始まりになりそうだ。
鎧に着替え、剣を提げ、マントを羽織った。
必要な物資などは、もう荷馬車に乗せてある。
ティターニアも準備ができたら、セルヴィーロの部屋へ来て、ノックした。
「ルナ、入って大丈夫だよ」
「おはよう、セル、ルビアス」
セルヴィーロも鎧を着ている。
ルビアスも準備ができて、セルヴィーロを乗せる気満々だ。
セルヴィーロが言う。
「ルビアス、今回は移動距離が長いから、乗せてもらってもいいかな?」
「もちろん!!そのために今日、頑張ってもふもふになるようにしてきたんだから!」
「ルナも一緒に乗せてもらうつもりだけど、平気?」
「全然大丈夫!ルフィーナ、安心して乗ってね!」
ルビアスは二人を乗せると知っていたので、朝から大忙しだった。
毛を梳いて、日光に当たり、好きなフルーツももりもり食べてーー
結果、今日の毛並みは見事なふわふわ。
触れた瞬間に笑顔になるほどだ。
ルフィーナは軽く手を振りながら、言う。
「それはルビアスも疲れちゃうよ・・・。しかも、魔族に遭った時2人乗りしてたら戦えないよ」
「大丈夫。ルビアスも平気って言ってるし、魔族に遭っても俺がルナを護りつつ戦うから」
「それじゃ私が戦えないよ・・・」
「俺が護るって決めたんだ。だから大丈夫」
セルヴィーロは引く気が微塵もない。
行く場所が西だからかもしれない。
ルフィーナは諦めて、ルビアスに言う。
「ルビアス、よろしくね。もし危なくなったら、私を置いてセルと逃げていいから」
「そんなことしたら僕がセルに怒られちゃう。そうなったらルフィーナを連れて逃げるから」
「・・・そっか。じゃあそろそろ行こうか」
「うん!」
セルヴィーロとティターニアも頷いた。
そしてみんなで、部屋を出た。
外にはすでに、今日の遠征のために編成された部隊が待っていた。
セルヴィーロが部隊の前に立ち、挨拶をする。
騎士団特有の敬礼と共に。
「みんな、おはよう」
「団長、副団長、おはようございます!」
「うん。今日は西11番地区だから、結構遠いけど頑張ろうね。少しなら荷馬車に乗ってもいいから」
「はい!」
騎士団のメンバーが、元気に返事をする。
命の危険がある遠征でも、元気でいられるのは、家族が待っているから。
きっと、上手くいって家族と喜びを味わえる。
そういう希望を持っているのだ。
セルヴィーロがシェウを見る。
「そうそう、シェウ」
「え、はい。なんか嫌な予感・・・」
「的中だね。シェウには今回、ルナの護衛と、いざとなった時にルナを護って逃げること、あと伝令役を頼むから。いいよね?」
「うわぁ、超的中・・・。俺、雑用係っすか?」
「ルナの護衛は最重要任務だよ。期待してるんだからやってくれるね?」
「ものは言いよう・・・わかりましたって」
「うん、よろしい」
「よろしないわ」
周りの騎士達はケラケラ笑っている。
ルフィーナは手を合わせて、ごめん!と表現する。
けれど、セルヴィーロがシェウに任せるのは、事実期待して、信じているからだ。
だからこそ、シェウは嫌でも受けている。
さて、セルヴィーロとルフィーナが、ルビアスに乗る。ティターニアは横で浮いている。
セルヴィーロの足の間に、ルフィーナが挟まるような乗り方。
ルフィーナは無意識にドキドキしてしまう。
それでは西11番地区へ向けて、出発だ。
ルビアスの毛並みはとても心地よく、背中の上で眠れる気がする。
その上、なぜか懐かしい感覚があった。
昔も、この背の上で寝たことがあるような。
ティターニアはたまに後方で歩いている兵士たちを、回復してあげている。
彼女の能力なら、体力も回復できるのだ。
もちろん、ティターニアが疲れないよう、少しだけだが。
◇
しばらく進むと、大草原が見えてきた。
西11番地区は草原にある。
ルフィーナ達の村は、草原の中でも木が多い、小さな森の中だ。
とても綺麗な草原。流れる風も心地よく、鼻歌を歌いたくなるような穏やかさ。
なのに、セルヴィーロは険しい表情。
(そんなに村が嫌なのかな・・・?)
ルフィーナには理解できない感情。
ティターニアには分かるのだろうか。
そんなことを考えていたその時・・・。
一瞬、風が強く吹きつけた。
まるで空から降ってきたかのように。
微かな違和感ーーそれと同時に、ルフィーナは思い出した。
昨日天から降り注いだ、一条の光。
脳裏に天の光が思い浮かんだ、その瞬間。
「・・・!」
視線を感じた。
ルフィーナを見つめる、鋭い視線。
セルヴィーロも気づいたようだ。
「ルナ、気づいた?」
「うん。魔族かな?」
「いや、魔族にしては瘴気を感じられない。人か、もしくは・・・」
「誰だと思うの?」
「いや、今考えてもしょうがない。進もう」
「え、わかった・・・」
その時、傾く夕日が、騎士団を照らす。
そろそろ夜が来る。
セルヴィーロがルビアスに言い、足を止めた。
後ろの騎士団達も、みんな止まる。
「みんな、そろそろ野営の準備をしよう。ここは草原で周りに何もなくて、堕落族に見つかりやすい。荷馬車を真ん中にして、テントを配置するよ!」
「はい!」
みんな馬から降り、荷馬車に乗せてあるテントを出す。
するとその瞬間、唐突に雨が降り始めた。
空には暗雲が垂れ込み、冷たい風が吹く。
「またか・・・相変わらずだな」
騎士の1人がそう呟いた。
この雨はまるで、セルヴィーロを邪魔するかのように、降ってくる。
そして急いでテントを用意する。
「ごめんね、みんな。俺がいるとすぐこうなる」
「いえ、気にしないでください、団長。みんな、早く団長と副団長のテントを用意するぞ!」
「おー!」
騎士団が団結し、準備を進める。
セルヴィーロが遠征などに出ると、必ずと言っていいほど雨や雪が降る。
理由はわからないが、彼がいるから、ということは確かだった。
(本当、なんでこうなるんだろう・・・)
ルフィーナも疑問に思う。
だが、セルヴィーロに聞いても、わからないとしか返されない。
そう返答する時のセルヴィーロの表情は暗く、よく天を見上げている。
セルヴィーロが神を嫌っていることに、関係があるのかもしれない。
◯
少ししてテントの設営が終わった。
何度か堕落族が襲ってきたが、すぐ斬り倒した。
「よし、今日は風呂は難しそうだから、夕飯をそれぞれのテントに持って行って食べよう」
「はい」
後方支援部隊が、一際大きなテントの中で、料理を作る。
セルヴィーロはテントの中で、ルビアスの毛を乾かしてもらっていた。
ルフィーナは少し外に出る。
先ほどの視線が気になったから。
シェウももちろん、ついて来ている。
「視線を感じたって本当ですか?」
「うん。セルも言ってたの。魔族っぽくないらしい。もしかしたら人かもしれないし、助けを求めているかも」
「相変わらずお人好しっすね・・・。あまり離れると俺が怒られるんで早めによろしくです」
「もちろん。たまにはセルがいない時間もいいよね」
「副団長も不憫なこった」
「ふふ。そうでもないよ」
冷たい雨が降る中、歩く。
草原は雨に濡れ、微かな月明かりに照らされている。
その時、前方で何かが煌めいたように見えた。
まるで、月の明かりを反射したように。
その光は、たまにチラッと見えては、消える。
蛍か何かだろう、とルフィーナは思った。
その瞬間ーー。
音もなく、夜の帷が裂けた。
果てしない闇の奥に、誰かが立っている。
「・・・!?」
「副団長!」
シェウがルフィーナの前に出る。
その時、雲の隙間から、月明かりが差し込む。
見えたのは、人の姿。
輝く銀の髪と、翠の瞳。
その腰に提げられたのは、大きな剣。
「!副団長!走って、逃げて!」
「なっ・・・!私も剣はあるよ!」
「そうじゃな・・・うわっ!!」
相手が、シェウに向けて斬りかかった。
ギリギリで防いだものの、剣が弾かれる。
その一瞬の隙に、相手は斬り込んでくる。
シェウは防御が間に合わず、腕を斬られた。
幸い、骨は繋がっている。
「っ・・・!副団長、団長を呼んでください!」
「わ、わかった!セル!助けて、セル!!」
この雨の中、声が聞こえたようだ。
セルヴィーロが剣を持って、走ってくる。
ティターニアとルビアスも来た。
「相変わらず、べらぼうな聴力・・・」
シェウがそう言う。
相手が、セルヴィーロを見る。
彼の瞳を見たセルヴィーロは、呟いた。
「ネフィラ・・・!」
相手はセルヴィーロから、目を逸らす。
見たくない何かを、見た時の瞳だった。
そして、鋭い刃のようか瞳に変わり、ルフィーナを見る。
ルフィーナはその目に、思わず肩を震わせた。
「星癒!」
ティターニアが急いでシェウに治癒を施す。
するとネフィラと呼ばれた相手が言う。
「神に逆らう者どもよ。その女と守護神獣を渡せ」
「えっ・・・!?」
その一言で、相手の狙いは明らかになった。
テントの方から、騎士のみんなが走ってくる。
セルヴィーロは騎士達に命じる。
「みんな、ルナとティターニアを護って!」
「はい!!」
騎士団は、その2人を囲むように、陣形を組む。
その言葉を聞いた、ネフィラは言う。
「護れなかった者が、よく言うものだ。かつて神に背いた者よ、また同じ過ちを繰り返す気か?」
「っ・・・」
セルヴィーロは言葉が出ず、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
ルフィーナも、シェウも驚く。
セルヴィーロのこんな表情を見るのは、初めてだ。
ルビアスに目を向けると、その体は震えていた。
すると、ネフィラがルフィーナ目掛けて突進。
騎士の壁を突っ切ろうとしている。
セルヴィーロが咄嗟に前へ出て、その剣を防ぐ。
甲高い音が響き、互いの剣が弾かれる。
けれど両者はまた、剣を強く握ってぶつかり合う。
言葉はなく、剣の音だけが、ただ響く。
ネフィラと呼ばれた男。見た目的には、セルヴィーロと大して歳の差がないように見える。
それなのに、その目に映るのは、怒りでも恨みでもなく、強い哀しみだった。
まるで、何かを奪われた子供のようなーー。
(ネフィラって誰・・・!?セルと何があったの!?)
騎士団のみんなは、一歩も動かない。
シェウが腕を斬られたのも、納得だ。
セルヴィーロと互角だった者は、今まで誰1人としていないのに。
ルフィーナは剣を強く握り、叫ぶ。
「セル、私も戦うから!みんな、どいて・・・!」
「ダメだ、ルナ!お前ら、ルナをこっちに来させるな!」
「どうして・・・!」
もちろんルフィーナが加勢すれば、勝機はある。
けれど、相手の狙いはルフィーナとティターニア。
セルヴィーロが、戦わせるわけもない。
その時、セルヴィーロの剣を、ネフィラが思い切り踏んだ。そして飛び上がり、ルフィーナを目掛け、剣を振るう。
ティターニアが焦って、ルフィーナのそばへ飛ぶ。
羽を震えさせ、必死に手を伸ばしている。
その瞳には、恐怖とーー。
「ルナ!!」
ルフィーナはすぐに剣を前へ出した。
けれど、恐怖がその目に映った。
その瞬間、一瞬ネフィラの動きが鈍る。
まるで、ルフィーナに剣が当たるのを、避けようとしているように。
そして、ネフィラがルフィーナの横に着地した。
ティターニアはルフィーナの前に出る。
まるで、自分を盾にするかのように。
ネフィラがルフィーナに剣を向け、言う。
「お前、覚えていないのか?」
「な、何を・・・」
「本当に、忘れているのか・・・」
そのたった一言。
だがルフィーナはその言葉に、胸が痛むのを感じた。
忘れられていることの悲しみーーそれが、彼の瞳から感じられたから。
その瞳をどこかで見たような、そんな気がした。
「・・・使命を忘れることができるのは、羨ましい」
ネフィラがそう呟き、目を伏せた、その一瞬。
遠くから魔族の瘴気の刃が、飛んでくる。
先ほどまで激しく戦闘していたのと、暗闇に紛れていたせいで、気づかなかった。
瘴気の刃が、ルフィーナに向かう。
その時、誰もが、目を疑った。
ルフィーナに降り注ぐ月光を、ネフィラの影が遮る。
次の瞬間、彼の腕に黒い刃が突き刺さる。
鈍い音が響き、彼が小さくうめいた。
「ぐっ・・・!」
ルフィーナは驚きのあまり、思わず声が出る。
「ど、どうして・・・助けて、くれたの・・・?」
「ちっ・・・」
ネフィラはさっと身を翻し、どこかへ去って行った。
ルフィーナは、その背を見つめていた。
小さい頃に見た、誰かに重なるようで、重ならない。
その時、セルヴィーロが何かに気づいたようだった。
ルフィーナもそちらを見た。
遠くの山の上に、月の逆光を浴びて、浮かび上がるシルエット。人ならざる姿・・・それは、ネフィラを追うように、消えた。
ルフィーナにはその姿が、焦っているように見えた。
だが、今はそんなことに構う暇はない。
セルヴィーロが言う。
「みんな、急いでテントに戻るよ。魔族もいるかもしれない。ルナを護って」
「は、はい!」
みんなでテントに戻った。
ルフィーナのテントに、セルヴィーロも入る。
「大丈夫だった?ルナ、怪我は?」
「大丈夫だよ、セル。それより、あの人は誰なの?セルと知り合いみたいだったけど」
「あいつはネフィラ・・・俺の昔の、知り合いだ」
「ネフィラ・・・?」
セルヴィーロの横にいるルビアスが、怯えているように見える。
何かに追われているかのように、尻尾が垂れ下がる。
ルビアスはセルヴィーロの服を、ぎゅっと掴む。
「セル、大丈夫だよね・・・?」
「・・・ああ。大丈夫だ、ルビアス」
「うん・・・」
ルフィーナは胸騒ぎを感じた。
まるで、いつも通りの日々が終わるかのような。
自分は覚えていない、両親が殺されたあの日も、こんな思いだったのだろうかと考える。
セルヴィーロはルフィーナに優しく言う。
「ルナ、大丈夫だよ。俺が、護るから」
「うん・・・ありがとう、セル」
セルヴィーロは頷いた。
そしてルビアスと、ルフィーナのテントを出る。
テントの外で、セルヴィーロは呟いた。
「今度こそーー必ず護るから」
「セル・・・」
ルビアスはセルヴィーロの後を追う。
あの日、小さな背中を追ったように。
冷たい雨が打ちつけ、毛並みが濡れてしまった。
◇
その頃、ネフィラは怪我した腕を押さえていた。
そして、空を見上げ、つぶやく。
「天なる神々よ、見ていてください・・・」
その表情は、微かに疑惑をはらんでいた。
苦痛に顔が歪もうと、ただ、使命を果たすべくーー。
今回はシェウとルフィーナの関係について書きます。
副団長ルフィーナ・フォティノース。
代理副団長シェウ・ナトゥール。
シェウが初めて騎士団に入った時。
1番驚いたのは、セルヴィーロの、ルフィーナに対するあまりの過保護さでした。
その頃のルフィーナは、騎士団にまだ入っておらず、セルヴィーロと訓練するときや、買い物するとき以外はいつも部屋にいました。
当時のシェウの性格のせいもあるでしょうけど、ルフィーナに近づこうとしたら、セルヴィーロにいつも阻まれました。
ある日、セルヴィーロが皇帝のところへ行っていました。
なぜルフィーナがそんなに大事にされているのか、気になったシェウは、ルフィーナの部屋を訪ねます。
当時まだ14歳ちょっとだったルフィーナ。
けれど大人しく、どこか神秘的に感じました。
神秘的に感じた理由としては、やはりそばに浮いているティターニアが原因でしょう。
ルフィーナは笑顔で話しかけてくれます。
シェウは久しぶりに女の子と話したからか、少し緊張していました。
少し話していると、なんとセルヴィーロが帰って来ました。
そしてルフィーナの部屋にいるシェウを見て、言いました。
「ちょっと来い。ルナ、今日は訓練なしね」
シェウは引っ張り出され、その後セルヴィーロによる鬼訓練を夜通し続けられました。
シェウはそれから、ルフィーナに会うときは、全力で気を遣うように。
挙動不審なシェウに、たまにルフィーナは笑っています。
そのおかげか、ルフィーナと2人でいても、セルヴィーロに許されるようになりました。
まぁ一歩間違えたら、地獄の鬼訓練ですが。
明日も一緒に、いられますように。




