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星の子 〜護るとは、一緒にいたいと願うこと〜  作者: 猫様のしもべ
第2章 家族と仲間、霞みゆく星
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第21話 「虚星の堕天」

〜前回のあらすじ〜

「虚星の堕天」フェノア・フォティノース。

それは紛れもなく、ルフィーナとティターニアの、お母さんだった。

届かぬ願いに縋り続けた彼女を、2人は斬るのか?

瘴気がまるで、暗雲のように天井を覆い尽くす。

けれどふいに煌めき、星空のようにも見えてしまう。


風も届かない“家”で、黒い粒子が渦を巻く。

どこまでも歪んでいて、砕けていて、虚しい。


「届かなかった、願い・・・?」


ルフィーナは剣をぎゅっと握りしめた。

七堕天という名が、思い出させたのはーー

また、ティターニアだった。


『お願い、忘れないで・・・!』


少ない記憶の、少ない言葉が心を震わせる。

星にさえ、届かない願いがあるのに。

人はどれだけ、それを抱えているのだろう。


「虚星の堕天」が剣を、持ち直した。

その瞬間、ルフィーナの額に汗が滲んだ。


「神も、星も、願いを聞かなかったーー」


ルフィーナは剣を両手に握る。

足が半歩後ろに退がり、胸がドクンと鳴る。


「虚星の堕天」の声は、優しく、穏やか。

そして言葉に尽くせないほど、重かった。


緑の瞳に映るのは、景色でも、光でもない。

祈りが砕け、歪んだ、恨みだった。


虚星祈斬(ラ・オルシアス)


音が闇に沈んだ。

淀んだ光が脈打ち、鼓動のように震えた。


暖かい灯りが、冷たい闇に塗り潰される。

願いの燃え殻が、波のように押し寄せた。

視界から「虚星の堕天」の姿が消えた。


「ルナ!!」


セルヴィーロの声が、やけに遠くから聞こえた。

自分が闇に包まれたのか、彼が闇に阻まれたのか。


ルフィーナはただ、剣を振ることしかできなかった。

星を心に、神を胸に、思い浮かべる。


星祈斬(オルシアス)!」


瘴気の塵と、星屑がぶつかり合う。

まるで流星同士が衝突するような、響く轟音。


護らなければーー

そう、胸の奥に小さく煌めく、灯りを集めた。

堕落族にさえ捧げる、いつもの祈りを。


紫の軌跡が宙を裂き、黒の波へと飛び込んだ。


けれど。


(何を、迷っているの・・・っ!)


押し返せない。


いつもの光が、どこか霞んでいる。

剣先に乗せた祈りが、揺らいでいる。


剣を振るたび、彼女へ刃を向けるたび。

胸の奥が軋んで、体が思うように動かなくて。

斬りたくないという祈りすら、乗せてしまった。


星屑が闇に呑まれていく。

紫の軌跡を包むのが、光だったらよかったのに。

夜じゃなくて、昼に呑まれればーー。


「主様っ!」


ティターニアが強く羽ばたいた、その瞬間。


キィンッ!!


鋭い音と共に、光の膜が囲む。

一瞬、安堵しそうになった。


だが、バリッと嫌な音が響いた。


輝かしい天蓋に、稲妻のような亀裂がはしった。


「えっ・・・?」


今までどんな攻撃も、瘴気すら防いできた結界。

ずっと護ってくれていたそれが、傷ついていた。


悲鳴よりずっと、恐ろしくて、高い音だった。

神の光が、魔族の闇に、揺れるなんて。


虚な瞳は、ただその様子を見つめていた。

そして小さく、つぶやいた。


「あなたは護られてて、いいわね・・・」


責める口調ではないし、とても穏やかな声。

なのに胸が、強く締め付けられた。


瘴気の塵が、再び唸りをあげる。

流れ落ちた星が、また渦を巻こうとしていた。

光宿さぬ粒子が、雫のように、涙のように、落ちた。


ティターニアの羽からも、小さな星光が落ちた。


どちらも床に当たって、小さく弾ける。

星光は天へ、瘴気は地へ、吸い込まれていく。


その瞬間ーー


「眠りなさい 小さな星よ」


“覚えている”。

暖かくて、優しい歌声。


ルフィーナは思わず、顔を上げた。

緑の瞳に、何かが映っていた。


「夜に溶けてもーー」


そこで、声が止まる。

「虚星の堕天」の瞳に、何も映らない。


(消えない声・・・)


ふと、胸の奥で歌っていた。

剣を持つ手が、いつの間にか緩んでいた。

何かが解けて、溢れそうになる。


喉の奥がひりついて、声にならなかった。

息の仕方を忘れたみたいに、何も音が出ない。


思い出せないのに、懐かしい。

村を想像したときと同じ、もどかしい気持ち。

確かに響くその声が、闇の中で光るだけ。


けれどルフィーナは、そっと目を閉じた。

危ないことだけど、そうでもしなければ、壊れる。


心の奥底で、微かに揺れる灯火。

夜に溶けても、消えない声ーー

そこに、あるものだった。


ゆっくりと目を開く。

青い瞳に映るのは、母を蝕む瘴気だった。


「ーーお母さん。いま、助けるからね」


ティターニアの瞳が、小さく揺れた。

小刻みに震える羽は、星の光を抱えた。


「虚星の堕天」はただ、静かに剣を構えた。

次の瞬間、床が震え、壁がひび割れる。

地鳴りのような、激しい振動と音が響き渡る。


「ルナ、逃げて!」


セルヴィーロの必死な叫び声すら、かき消される。

足がもつれ、床に手をつきそうになる。


ティターニアは、飛んでそばに来る。


「主様、はやく逃げてください・・・!」

「・・・逃げないよ」


地響きのせいか、恐怖なのか。

声が強張り、剣が震えていた。


それでも、剣を握ることだけはやめなかった。


護りたいし、護らなければ。


そんな想いだけで剣を振れるほど、強くないけれど。

ティターニアが、そこにいた。


「どうして?主様は、ここにいるのに・・・」


そんな言葉に、何かを感じた。

小さく息をついて、まっすぐ前を見つめた。


怖いし、逃げたいし、諦めたい。


でも。


「ここにいるだけじゃ、証明できないんだ」


瘴気の流れが、吸収されるようにどこかへ向かう。

視界が黒くそまり、その中心が見えなくなる。


そのとき、鈍い金属音が響いた。


瘴気の奔流を、横薙ぎの一閃が打ち払う。

視界を覆っていた瘴気の片隅に、剣を捉えた。

ネフィラの剣が、瘴気の中でも戦っていた。


「あいつは、お前をどう護った?」


低い声が、問いかけた。

すぐには答えが、浮かばなかった。


剣を振る姿も、護る背中も思い出せる。

でも、1番思い出したい姿は、もっと遠くにあった。

星よりずっと、遥か遠くに感じた。


その瞬間。


瘴気が全て、一点に集った。

「虚星の堕天」の剣が、星のない暗闇を纏う。


“家”から、音が消えた。

声がひとつ、響いた。


虚星夜静斬(ラ・アスラシルス)


溜め込んだものを、解放するような轟音。

静寂の名を冠した技が、空気を裂くような音を放つ。


黒く染まった剣から、強大な斬撃が振り下ろされる。


それはまるでーー

優しさを否定された、願いのかたち。


「ーー二度と独りにしないって、誓ったから」


ルフィーナは、剣を強く握る。


ギィンッと音を立て、光の膜が、闇の剣を防ぐ。

結界が黒い波に呑まれ、覆われていく。


黒いドームの中で、小さく光る星光。


ルフィーナは、手を差し出す。

星に手を伸ばすようで、家族に手を差し伸べるよう。


ほんの一瞬、地鳴りが消えた気がした。

ティターニアが、手を重ねた。


「わたしは、忘れません」


ルフィーナは、微かに笑った。


その瞬間。


闇を押し返すかのように、星の光が輝いた。

思わず目を覆ってしまうような、まばゆい光。

“家”を覆い、瘴気を呑み込んでゆく。


パキンッーー

結界の亀裂が、ついに端まで届いた。


星夜静斬(アスラシルス)!!」


聞こえたのは、2人の声だけ。

風を切る音も、地鳴りも、轟音も。

ただ何も聞こえず、声だけが響いていた。


星の光を纏い、吸収した剣。

瘴気を纏い、呑み込んだ剣。


正面からぶつかり合い、光と闇が押し潰し合う。


ーー本当に、斬るの?

胸の中で一瞬、思ってしまった。


踏み込んだ足が、瘴気に呑まれる。

もつれそうになって、必死に力を入れていた。


剣先が、届かない。


その背を、何かが強く押した。

背後で、床に剣を突き立てる音がした。


「お前の母は、最期までーー」


それでも、振り返らなかった。


瘴気の奔流を、ネフィラが受け止めてくれる。


音がないせいだろうか。

心臓の鼓動が、やけに大きく響く。


星の煌めく夜のように、静かに。


視界の奥に、緑の瞳が見えた気がした。

黒が混ざっていたけれど、ほんの少し光があった。

願いなのか、希望なのか、わからない。


それでも、一歩踏み込んだ。


足音は深い黒に呑まれ、けれど確かに前へ進んだ。

胸の奥に宿る、小さな灯火だけは呑まれない。

星の光が、流れ星のように闇を突き抜ける。


果てしない夜に迷うように、怖かった。

でもそばには、ティターニアがいるから。


たとえ涙を、流すことになっても。


「ーーお前を、護っていた」


ネフィラの声だけが、響いた。

星の光が、貫いた。

今回は「虚星の堕天」について書きます。

物語の中で見えた、彼女の武器や能力について。


「虚星の堕天」フェノア・フォティノース。


特性:隔離の星

領地を星から隔絶し、暗闇に包む。

太陽の光どころか、松明さえ灯すことはできない。

ある者だけは、その中でも星と繋がっている。


武器:虚の剣

瘴気に染まった、ひとつの剣。

誰と共に戦ったのか、誰に教えたのか。

星屑のような、瘴気の塵を放つ。


虚星閃(ラ・アスティア)

星屑ではなく、瘴気を纏った一閃。

どこかで見たことがあるような、技の振り方。


虚星流(ラ・シェアスト)

星の軌跡ではなく、影の軌跡を残す。

流れるように斬りつけるが、どこか重い。

斬撃の数すら、ルフィーナと同じ。


虚星祈斬(ラ・オルシアス)

祈りではなく、恨みを元に発動する。

願いを捧げた先にあったのは、絶望だけだった。

それは記憶を失ってなお、消えない傷である。


虚星夜静斬(ラ・アスラシルス)

静寂ではなく、地響きと共に強烈な一撃を浴びせる。

星の光ではなく、瘴気を吸収し、纏った技。

黒く深い瘴気の波も、神の輝きに叶わない。

ならばなぜ、ルフィーナたちは戦うのか・・・?


次回ルフィーナは、大切な記憶を取り戻す。

そこにあるのは、希望が絶望か。

けれど思い出したところで、母は戻らない。


母と共に笑う明日は、もう来ないのだから。

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